サライ (都市)

サライ：ジョチ・ウルスの繁栄と滅亡

サライは、13世紀から15世紀にかけて広大なキプチャク草原を支配したジョチ・ウルスの首都として栄えた都市です。ペルシャ語で「宮殿」や「オアシス」を意味する「サラーイ」に由来するこの都市は、当時世界最大級の規模を誇り、最盛期には60万人に及ぶ人口を抱えていたと推定されています。しかし、現在は廃墟となっており、かつての栄華を偲ぶことはできません。

サライの地理的位置

サライは、カスピ海の北に広がる平原地帯、アフトゥバ川の東岸に位置していました。アフトゥバ川はヴォルガ川の支流で、ヴォルガ川と並行して流れ、カスピ海に注ぎ込んでいます。現在のロシア連邦アストラハン州アストラハン市から北へ約120km、ハラバリ地区セリトリャンノイェ村付近にその遺跡が残されています。

サライの建設と発展

サライの建設は、モンゴル帝国の西方遠征軍司令官であったバトゥによって行われました。バトゥはオゴデイ・ハーンの死の知らせを受けて東欧からの遠征軍を撤退させ、1243年頃にこの地に自立政権を築き、サライを首都と定めました。ローマ教皇の使節プラノ・カルピニ一行も建設途上のサライを訪れています。

ジョチ・ウルスの支配層はイスラム教を受け入れましたが、住民の信仰には寛容であり、様々な宗教施設が建設されました。ジョチ家第5代当主ベルケは、ヴォルガ川上流に新サライ（ベルケ・サライ）を建設したとされますが、その存在については議論があります。新サライとされる遺跡はアフトゥバ川沿岸のツァーレフ村付近に位置しています。

1261年には正教会の主教たちがサライに教会を建設しましたが、1454年、大オルダの分裂に伴いモスクワ近郊に移転し、クルティツィ修道院を築きました。14世紀前半にサライを訪れたイブン・バットゥータは、その壮麗さと広大さ、多民族で賑わう様子を記録しています。ウズベク・ハンの治世（1312年-1340年）には、西洋やイスラムの影響を受けた壮麗な建築物が建設され、ジョチ・ウルスは全盛期を迎えました。モスクワやトヴェリなどのルーシ諸侯はサライに貢納を行い、服従を誓いました。

サライの衰退と滅亡

ジョチ家第12代当主ジャーニー・ベクは、1342年から1357年の治世に、カザフスタン西部のアティラウ州周辺にサライ・チク（小サライ）を築き遷都しました。後のノガイ・オルダはこのサライ・チクを首都としました。

旧サライと新サライは幾度も破壊されました。1395年にはティムールによって、1502年にはクリミア・ハン国のメングリ1世ギレイによって破壊され、大オルダは滅亡しました。最後の破壊は1556年、モスクワ大公国イヴァン4世によるアストラハン・ハン国征服の後でした。

17世紀初頭の旅行家コトフの記録には、アフトゥバ川沿いの廃墟となった石造りの宮殿やモスクの様子が記されており、おそらくベルケ・サライの跡地を指していると考えられています。サライはかつて世界を繋ぐ交易の中心地として栄えましたが、幾多の破壊を経て、完全に姿を消しました。その遺跡は、かつて存在した巨大都市の痕跡として、今もなお歴史を語りかけています。

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