シェイクスピアの上演

シェイクスピア劇の舞台上演の歴史

シェイクスピアの戯曲は、16世紀末から現代に至るまで、数えきれないほど上演されてきました。本稿では、その舞台上演の歴史を、時代ごとの特徴や変化に着目しながら詳しく解説します。

シェイクスピアの生前の舞台上演

シェイクスピアが劇作家として活動していた時代、彼の戯曲は主に宮内大臣一座や国王一座によって、グローブ座やブラックフライアーズ座で上演されました。当時の役者としては、リチャード・バーベッジ（『ハムレット』、『オセロー』、『リチャード三世』、『リア王』の初演でタイトルロールを演じたと推定される）、リチャード・カウリー、ウィリアム・ケンプなどが知られています。

グローブ座は、シェイクスピア劇の初演に不可欠な劇場でした。テムズ川の南岸に建てられたこの劇場は、屋根が開いた公共劇場で、張り出し舞台が特徴でした。舞台の後ろには2階建てのファサードがあり、上部の窓は『ロミオとジュリエット』のバルコニーシーンに使用され、下のドアは発見シーンに使われた可能性があります。また、舞台のトラップドアは幽霊の登場や特殊効果のために利用されました。舞台装置は最小限でしたが、衣装は可能な限り豪華なものが用いられたようです。

上演時間は約2時間とされ、これは当時の都市政府が正式に上演時間を制限していたためでした。劇団は政府の命令を遵守するために、台本を急いで上演したり、省略したりしていたと考えられます。ブラックフライアーズ劇場も重要な劇場で、宮内大臣一座（後に国王一座）の本拠地となりました。

1603年、宮内大臣一座は国王一座に改名され、宮廷での上演が増加しました。1608年以降は、冬には屋内のブラックフライアーズ劇場、夏にはグローブ座で上演が行われました。この時期には、屋内の劇場で特殊効果や音楽をより多く使用できるようになり、舞台演出が進化しました。

1613年6月29日には、グローブ座が『ヘンリー八世』の上演中に火災で焼失しましたが、その後再建されました。しかし、1642年にはピューリタンによってロンドンの全ての劇場が閉鎖されました。

シェイクスピアの一座には、リチャード・バーベッジ、ウィル・ケンプ、ヘンリー・コンドル、ジョン・ヘミングスなどの役者が所属していました。バーベッジは多くの作品で主役を演じ、ケンプは喜劇役者として人気を博しました。演出スタイルについては、批評家たちは俳優の自然な演技を称賛し、大げさな演技は軽蔑されたようです。

空位期間と王政復古時代の演劇

シェイクスピアの戯曲は、彼の死後も空位期間（1642年から1660年）まで上演され続けましたが、ピューリタンの支配によって上演は禁止されました。この期間中、役者たちは舞台、衣装、風景幕の使用を禁じられたため、笑劇や劇の断片を上演することで何とか生計を立てていました。シェイクスピアの作品も、これらの場面で利用されました。

1660年の王政復古で、シェイクスピア劇の上演権はトマス・キリグルーの国王劇団とウィリアム・ダヴェナントの公爵一座に分配されました。この許可システムは1843年まで続きました。

王政復古時代の劇場は、額縁舞台や精巧な舞台装置が特徴でした。観客もより裕福で高学歴な層に変化しました。ダヴェナントは以前の伝統との連続性を確立しようとしましたが、革新も重要な要素でした。この時代には、シェイクスピアの台本が大きく改変され、当時の好みに合うように書き換えられました。

ネイハム・テイトは『リア王』をハッピーエンドに改作し、1838年まで上演されるほど人気を博しました。これは、当時の道徳観や演劇に対する考え方が、シェイクスピアとは大きく異なっていたことを示しています。また、ダヴェナントの『恋人たちに厳しい掟』のように、複数のシェイクスピア作品を組み合わせた改作も行われました。オペラの影響も受け、『テンペスト』などがオペラ化されました。王政復古時代の劇作家たちは、シェイクスピアを尊敬しつつも、時代の変化に合わせて作品を改訂する必要を感じていたのです。

18世紀のシェイクスピア上演

18世紀には、スター・システムの発展、ロマン主義革命の影響、そしてシェイクスピアの原典への回帰という3つの大きな変化がありました。スター俳優の台頭により、シェイクスピア劇は個々の俳優の力量を示す舞台として注目されるようになりました。デイヴィッド・ギャリックのような名優が人気を博し、シェイクスピア劇はロンドンの舞台で優位を占めました。しかし、ギャリックはシェイクスピアの台本を自由に翻案し、大幅なカットや変更を加えていました。

18世紀末になると、ロマン主義の影響により、シェイクスピアの原典への回帰が始まりました。また、シェイクスピア劇はイギリス以外にも、アメリカやヨーロッパ大陸で上演されるようになりました。

19世紀のシェイクスピア上演

19世紀の劇場はますます豪華になり、背景も手が込んだものになりました。しかし、舞台転換に時間がかかるため、上演が中断されることもあり、台本はさらにカットや再構成が加えられました。舞台では、プロセニアム・アーチによって観客との距離が広がり、舞台俳優は観客に直接語りかけることが少なくなりました。ヴィクトリア朝のシェイクスピア上演は、歴史的な正確さを追求した衣装やセットが特徴で、絵画的な効果を狙ったものが多くありました。しかし、このためしばしば芝居のペースが失われることもありました。

19世紀末には、ウィリアム・ポウルがこうした荘重なスタイルに反発し、張り出し舞台を用いた「エリザベス朝風」の上演を行い、芝居の構造に注意を払いました。19世紀には、サラ・シドンズ、ジョン・フィリップ・ケンブル、ヘンリー・アーヴィング、エレン・テリーなどの伝説的な役者が多数登場し、彼らの演技が芝居よりも注目を集めるようになりました。特に、独白を美しくやり遂げることが重視されました。ヘンリー・アーヴィングとエレン・テリーの時代には、凝った舞台とオーケストラによる付随音楽が取り入れられ、上演はスペクタクル化しました。

20世紀のシェイクスピア上演

20世紀初頭には、ハーレー・グランヴィル＝パーカーがクォート版とフォリオ版の台本をほぼカットせずに演出しました。一方、エドワード・ゴードン・クレイグなどは抽象的な上演を主張しました。クレイグは、キュビスムの影響を受けたシンプルな平面の枠張り物で空間を規定しました。また、バリー・ヴィンセント・ジャクソンは1923年に『シンベリン』を現代衣装で上演し、観客に衝撃を与えました。この実験は好評を博し、現代衣装によるシェイクスピア上演への道を開きました。1936年には、オーソン・ウェルズがハーレムで全員アフリカ系アメリカ人のキャストによる『マクベス』を演出しました。この上演は、舞台を19世紀のハイチに移し、アフリカの魔術を強調したもので、『ヴードゥー・マクベス』として知られています。

20世紀には、シェイクスピア劇の設定を変更するトレンドも登場しました。また、1978年には、ロイヤル・シェイクスピア・シアターで『じゃじゃ馬ならし』の脱構築的な上演が行われ、観客を驚かせました。

21世紀のシェイクスピア上演

21世紀に入り、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーは2つの大きなシェイクスピアフェスティバルを開催しました。1つは2006年から2007年の全作品上演、もう1つは2012年の世界シェイクスピアフェスティバルでした。

2009年には、ジュード・ロウがタイトルロールを務める『ハムレット』がウエストエンドで開幕し、デンマークやニューヨークでも上演されました。また、劇団プロペラはオールメールのシェイクスピア上演を行い、フィリダ・ロイドはオールフィメールキャストによる上演を継続的に行っています。

シェイクスピア映画

シェイクスピアは最も多く映画化された作家であり、その作品はハリウッド映画やティーン向けの作品としても広く知られています。

衣装とデザイン

シェイクスピア劇は、初演時には当時の服装で上演されていました。18世紀までは、当時の流行の服装が衣装として採用されていましたが、19世紀になって初めて、過去のスタイルを「忠実」に再現する動きが始まりました。20世紀には人工的なシェイクスピア時代を模倣するスタイルができあがり、現代では舞台や映画で歴史に「忠実」な衣装は少なくなりました。

まとめ

シェイクスピア劇の舞台上演の歴史は、劇団、劇場、演出、衣装、観客層の変化とともに進化してきました。時代ごとに異なる解釈や演出が行われ、今日でもその創造性は失われていません。シェイクスピアの作品は、時代を超えて私たちに語りかけ、その普遍的な魅力は今後も多くの人々を魅了し続けるでしょう。

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