シャクル

シャクル（アラビア文字発音記号）とは

シャクル（شكل, shakl）とは、アラビア文字において発音を補助するために用いられる記号の総称です。これらの記号を文字に付与する行為は、タシュキール（تشكيل, tashkīl）と呼ばれます。

概要

アラビア語やペルシア語など、アラビア文字を使用する言語では、通常、母音は文字として明示されません。これは、アラビア文字が元々子音のみを表記するアブジャドという文字体系に属するためです。そのため、アラビア語の初学者にとって、文字だけでは正確な発音が難しくなる場合があります。そこで、アラビア語の教材、子供向けの書籍、クルアーンなどの宗教文書では、シャクルが付与されることがあります。ただし、通常の文章ではシャクルが用いられることは稀です。

シャクルの種類

シャクルは、大きく分けて母音記号とそれ以外の記号に分類できます。

母音記号

母音記号は、母音の発音を示すための最も基本的な役割を持つ記号です。これらの記号は حركة （ハラカ, ḥaraka）と呼ばれ、「運動」や「動作」を意味します。

ファトハ

ファトハ（فتحة, fatḥa）は、母音「a」を表します。文字の右上から左下へ引く短い斜線で表記されます。「口を大きく開ける動作」が名前の由来です。長母音化する場合は、直後にアリフ（ا）を付けます。

カスラ

カスラ（كسرة, kasra）は、母音「i」を表します。文字の下に右上から左下へ引く短い斜線で表記されます。「下顎を下げる様子」が名前の由来です。シャッダ記号が付く場合は、カスラはシャッダの真下または子音字の下に書かれます。長母音化する場合は、直後にヤー（ي）を付けます。

ダンマ

ダンマ（ضمة, ḍamma）は、母音「u」を表します。文字の上に小さいوのような記号で表記されます。「唇を突き出す動作」が名前の由来です。長母音化する場合は、直後にワーウ（و）を付けます。

スクーン

スクーン（سكون, sukūn）は、母音がないことを示し、子音のみを発音することを表します。文字の上に小さい丸印で表記されます。クルアーンでは、丸印ではなく「ج」「خ」の上部を丸めたような形で書かれることがあります。

タンウィーン

タンウィーン（تنوين, tanwīn）は、語尾でのみ使用され、単語が非限定であることを示す「n」の音を付加する記号です。具体的には、格を示す母音記号に加えて、もう一つ同じ記号を重ねることで表現されます。

ファトハターン

ファトハターン（فتحتان, fatḥatān）は、ファトハのタンウィーンで、音価は「-an」です。文字の上に2本の短い斜線で表記され、非限定の対[[格]]を表します。語末がター・マルブータ（ة）の場合を除き、アリフ（ا）が添えられることがあります。

カスラターン

カスラターン（كسرتان, kasratān）は、カスラのタンウィーンで、音価は「-in」です。文字の下に2本の短い斜線で表記され、非限定の属格を表します。

ダンマターン

ダンマターン（ضمتان, ḍammatān）は、ダンマのタンウィーンで、音価は「-un」です。文字の上に小さいوのような記号を2つ重ねて表記され、非限定の主格を表します。

母音以外のシャクル

シャッダ

シャッダ（شدة, shadda(h)）は、子音の重複を示す記号です。文字の上にwのような記号で表記されます。例えば、دَّは、دْとدَが連続することを意味します。

ワスラ

ワスラ（وصلة, waṣla(h)）は、語頭のハムザ（ء）の発音を省略することを示す記号です。文字の上に小さいصのような記号で表記されます。特に定冠詞 الـ に付くことが多く、先行する語がある場合に発音を省略します。

マッダ

マッダ（مدة, madda(h)）は、 أَ の長母音化（’ā）を示す記号です。文字の上に短い波線で表記されます。

ハムザ

ハムザ（همزة, hamza）は、声門閉鎖音を表す記号です。単独で書かれる場合や、アリフ（ا）、ワーウ（و）、ヤー（ى）などの台座の上に小さい ء の形で書かれることがあります。発音上重要な役割を果たしますが、日常的には省略されることも多いです。

小アリフ

小アリフ（الألف الصغيرة, al-alif al-ṣaghīra）は、長母音「ā」を表すために文字の上に小さい ا で表記される記号です。省略されがちな長母音を明示する役割があります。

装飾

アラビア書道では、シャクルが文字の装飾として用いられることがあります。華美にシャクルを付与したり、多くの点を打ったりすることで、文字に特別な意味合いを持たせることがあります。また、文字が判読しづらい場合に、小字を付加して文字を明確にする場合もあります。

まとめ

シャクルは、アラビア文字の正確な発音を補助する上で不可欠な記号です。母音や子音の重複、発音の省略など、様々な情報を伝達し、アラビア語の学習や読解をサポートします。書道においては装飾としても用いられ、文字の表現力を高める役割も担っています。

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