シーウルフ (ミサイル)

シーウルフ・ミサイルシステム

シーウルフ（Sea Wolf）は、ブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーション（現在のMBDA）によって開発された、艦艇を守るための近距離防空ミサイルシステムです。イギリス海軍では、このシステムをGWS-25およびその発展型GWS-26として分類しています。

開発の背景と経緯

このミサイルシステムの開発に関する検討は、既存の個艦防空ミサイルであるシーキャットの後継として、1963年夏に始まりました。1964年1月には、空対地・空対艦ミサイルや戦闘爆撃機だけでなく、短距離弾道ミサイルへの迎撃能力も含む、具体的な幕僚要求事項がまとめられました。同時期にフランスやオランダも同様のミサイルシステムに関心を示していたことから、国際共同開発の可能性を探るため、同年5月には要求事項が改訂されました。

様々な個艦防空手段が比較検討されましたが、従来の艦砲は大量の弾薬を必要とし、赤外線誘導ミサイルは全方位や悪天候下での交戦能力に限界があることが指摘されました。大型で重量過多と評価されたスパローIIIや、開発中止が濃厚だったモーラー、小型高速目標への迎撃性能に疑問符がついたレイピア、導入の兆しが見られないローランドといった既存または開発中のシステムも、当時の要求を満たすには不十分と判断されました。このため、新しいミサイルを開発し、電子攻撃と連携させて運用することが最も望ましいという結論に至りました。

1964年12月にはいくつかの試案が作成されましたが、イギリス側は高性能・高価な案を一度は退けました。しかし、国際会議での議論を経て、高性能な案も含めて改めて検討されることになりました。1965年10月からは「コンフェッサー」計画として、イギリス単独での実現可能性調査が開始されました。しかし、高性能を求めるフランスと中庸的な性能を目指すイギリスとの間で要求仕様の隔たりが明らかになり、1966年3月に共同開発計画は中止されました。オランダや西ドイツの参加も実現しませんでした。イギリスは最終的に中庸的な設計案（PX.430と呼称）を採用し、1968年7月に初期生産契約が締結、1973年に最初の試射が行われました。

システム構成と性能

シーウルフシステムは、開発当初から高い対艦ミサイル防御（ASMD）能力が重視されました。初期の要求では、レーダー反射面積0.1平方メートルの小型目標が6秒間隔で2個襲来した場合に、同時に対処できる能力が求められていました。個々のミサイルの命中確率は0.7と計画されていましたが、横方向から飛来する目標への対処能力には限界がありました。

本システムは、新たに開発された6連装発射機を基本としています。当初はシーキャットの発射機からの運用も検討されましたが、コスト削減のためにこれは見送られました。発射機にはそれぞれ12発の弾庫があり、追加の即応弾も搭載可能です。例えば、22型フリゲートではバッチIで合計48発、バッチII・IIIで合計60発の即応弾を搭載していました。発展型のGWS-26では垂直発射システム（VLS）が採用され、これに合わせてミサイルには推力偏向機能を備えたブースターが追加されています。

火器管制レーダーとしては、初期に910型が使用されましたが、低空目標への対処能力向上と軽量化を図ったマルコーニ社製の805SW（のちに911型として制式化）が開発され、22型バッチ2以降の艦に搭載されたほか、既存艦も順次換装されました。GWS-26でも911型が引き続き使用されています。マレーシア海軍のレキウ級フリゲートでは、マルコーニ社のST1802SWが採用されました。システム固有の捕捉レーダーも連接されており、目標情報の捕捉を担いました。この捕捉レーダーと管制システムを連携させるというコンセプトは成功を収め、後にアメリカ海軍のMk.91ミサイル射撃指揮装置（シースパローシステム）にも影響を与えたとされています。

実戦での活躍

シーウルフシステムは、1982年のフォークランド紛争において初めて実戦投入され、その有効性を証明しました。22型フリゲート「ブリリアント」「ブロードソード」やリアンダー級フリゲート「アンドロメダ」に搭載されたシステムが、アルゼンチン軍による激しい航空攻撃からイギリス艦隊を防衛する役割を担いました。特に「ブリリアント」は、5月12日に8発のミサイルを使用し、アルゼンチンのA-4スカイホーク攻撃機2機を撃墜し、1機を墜落させる戦果を挙げました。しかし、5月25日には「コヴェントリー」の防衛にあたっていた「ブロードソード」が、回避運動の影響でシーウルフを発射できず、「コヴェントリー」が撃沈されるという事例もありました。紛争全体を通して、シーウルフは合計5機の航空機を撃墜したと記録されています。

採用国と主な搭載艦艇

シーウルフは、英国海軍を中心に、以下の国々の艦艇に採用されています。

イギリス海軍
リアンダー級フリゲート（後期改修艦、GWS-25）
22型フリゲート（GWS-25）
23型フリゲート（GWS-26）
チリ海軍
22型フリゲート（GWS-25）
23型フリゲート（GWS-26）
ブラジル海軍
22型フリゲート（GWS-25）
マレーシア海軍
* レキウ級フリゲート（ST1802SW）

シーウルフシステムは、その開発経緯やフォークランド紛争での実績を通じて、個艦防空ミサイルの進化における重要な位置を占めています。

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