ジャック・コポー

ジャック・コポー（Jacques Copeau, 1879年2月4日 - 1949年10月20日）は、20世紀フランス演劇の重要な先駆者です。劇場主宰者、批評家、劇作家、そして俳優として、多方面にわたる活動を展開し、フランス演劇界に革新をもたらしました。

パリの比較的裕福な家庭に生まれたコポーは、リセ・コンドルセに学び、青年期から戯曲創作に意欲を見せます。ソルボンヌ大学での学びを経て、1903年にパリに戻り、演劇批評家として文壇での地位を確立していきました。1905年にはパリに移住し、ジョルジュ・プティ画廊での勤務を通じて、アンドレ・ジッドやジャン・シュランベルジェといった文筆家たちと親交を深めます。彼らと共に、1909年2月には影響力の大きな文芸雑誌『新フランス評論（NRF）』を創刊。1912年から1914年まで編集者としても活躍しました。

当時のフランス演劇界は、伝統に固執する国立劇場や通俗的な商業演劇が主流であり、コポーはこれらの状況に強い危機感を抱いていました。彼は演劇に本来の品格と文学的な深さを取り戻すことを目指し、1913年、パリ6区に「ヴィユ・コロンビエ劇場」を開設します。彼は俳優訓練の重要性を強調し、シャルル・デュランやルイ・ジューヴェなど、後にフランス演劇を支えることになる俳優たちを含む一座を結成。シンプルな舞台美術と、俳優の身体性を最大限に活かした演出は、当時の演劇界に衝撃を与え、革新的な試みとして注目を集めました。劇場は成功を収め、1914年3月にはイギリス巡演も行われます。

しかし、1914年8月に第一次世界大戦が勃発すると、コポー自身を含む多くの座員が召集され、劇場は一時閉鎖となりました。戦後、1919年に劇場を再開し、コンクリートの常設舞台への改築や演劇学校の設立など、活動を拡充させます。演劇の純粋性を追求するコポーの姿勢は、芸術的には高く評価されたものの、商業的な成功には恵まれず、財政難に直面します。補助金の受け入れや商業演劇への傾倒を拒んだ結果、経済的な苦境は深まり、1924年5月、ヴィユ・コロンビエ劇団は解散に至りました。

劇団解散後、コポーは一部の俳優や生徒と共にブルゴーニュ地方のモントルイユに移り、地方での演劇活動を展開します。彼らは「コポー党（les Copiaux）」として、コメディア・デラルテの手法を用いた巡業公演を行い、演劇の普及に努めました。その後ペルナン・ヴェルジュレスに移り、国内外での巡業を続けましたが、独自の地方劇場を築く計画は実現しませんでした。

1930年代には、コメディ・フランセーズでの演出も依頼されるようになります。1936年には、フランス演劇界の中心である同座の改革に協力し、古典劇を中心に演出を手掛け、その手腕を改めて示しました。数本の映画にも出演するなど、晩年も精力的に活動を続けました。

第二次世界大戦中の1940年には、短期間ながらコメディ・フランセーズの臨時支配人も務めますが、ドイツ占領軍によって解任され、ペルナンに隠棲。隠棲中も創作活動を続けました。

晩年はアルツハイマー病を患い、1949年10月20日、ボーヌにて70歳でその生涯を閉じました。フランス現代演劇におけるコポーの功績は非常に大きく、ヴィユ・コロンビエ劇場での革新的な活動は、後の世代の演劇人に多大な影響を与えています。彼の追悼式典には、フランスの演劇界、文学界、映画界から多くの著名人が集まり、その偉大な業績が改めて称えられました。

主な演出作品（抜粋）

優しさに殺された女（ヘイウッド, 1913）
恋は医者（モリエール, 1913）
守銭奴（モリエール, 1913）
十二夜（シェイクスピア, 1914）
カラマーゾフの兄弟（ドストエフスキー, 1914）
ヴィユ・コロンビエ即興劇（コポー作・演出, 1917）
スカパンの悪だくみ（モリエール, 1917）
人間嫌い（モリエール, 1919, 1936）
冬物語（シェイクスピア, 1920）
商船テナシティ（ヴィルドラック, 1920）
生まれた家（コポー作・演出, 1923）
空騒ぎ（シェイクスピア, 1936）
バジャゼ（ラシーヌ, 1937）
ル・シッド（コルネイユ, 1940）
* 黄金のパンの奇跡（コポー作・演出, 1943）

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