スコータイ王朝

スコータイ王朝の興亡

スコータイ王朝（1240年頃 - 1438年）は、現在のタイに存在したタイ族最初の王朝とされています。13世紀頃、雲南から南下してきたタイ族は、アンコール王朝の支配下にありましたが、ジャヤーヴァルマン7世の死後、その支配力が弱まったことで、タイ族は独立の機運を高めます。

ラート（現在のペッチャブーン郡）の領主ポークン・パームアンと、バーンヤーン（現在のナコーンタイ郡）の領主ポークン・バーンクラーンハーオは共同でクメール勢力を追い出し、アンコール王朝の主要都市であったスコータイに王朝を築きました。バーンクラーンハーオはシーインタラーティットと名乗り王位に就き、パームアンは摂政となりました。これにより、スコータイ王朝が成立しました。

スコータイ王朝の領域は、現在のタイ北部の南半分を中心としていました。王都スコータイのほか、シーサッチャナーライ、ピッサヌローク、カムペーンペット、ナコーンサワンなどの主要都市を擁し、中部や南部にも勢力を拡大しました。統治は、父が子を保護・指導するような父権主義的な形態で行われました。

3代目大王ラームカムヘーンの時代に最盛期を迎え、タイ文字の制定や中国との貿易が行われました。ラームカムヘーンは周辺のパヤオ王国やラーンナータイ王朝と外交関係を結びました。しかし、4代目王ルータイの時代には各地で離反が相次ぎ、小国化していきます。その後、リタイ王が仏教を研究し、「三界経」を著して民衆の仏教理解を深めると同時に、自身も出家するなど仏教による王朝の立て直しを図りましたが、アユタヤ王朝の台頭により、次第に衰退。1438年、マハータンマラーチャー4世の代で、アユタヤ王朝に吸収され、スコータイ王朝は滅亡しました。

スコータイ王朝の社会

スコータイ王朝の王は「ポークン」と呼ばれ、人民を保護し、悪を廃する父のような存在とされていました。ラームカムヘーン大王碑文には、王が住民の悩みを聞き解決に努めたことが記されています。この碑文から、スコータイ王朝では、王と住民の個人的な関係が重要視され、法的・商業的な契約よりも、友情関係による物事のやり取りが重視されていたことが分かります。ラームカムヘーンは各地の統治も、同様の手法で行いました。

領内には、副王が統治する「4大ムアン」や、王族が統治する「大ムアン」が置かれました。これらの地方都市では、ポークンの思想に基づいて統治が行われました。スコータイ近辺のムアンには、タイ族に同化していないモン族が多く居住していましたが、これもまた、友情関係に基づいた穏やかな統治がなされました。

ラームカムヘーン以降、王朝が衰退すると、リタイ王は仏法王（タンマラーチャー）の思想を導入し、仏法によって統治を行う王の権威を確立しようとしました。これにより、ポークンの「友情を重視する暖かい君主」像は薄れ、王は「宗教を保護しなければならない」存在とされました。

スコータイ王朝の思想

スコータイ王朝は、タイにおける仏教の黄金期とされており、上座部仏教が大きく発展しました。リタイ王はセイロンから仏教を輸入し、自らも出家して仏教の研究に励みました。その成果は「三界経」にまとめられ、因果応報の観念を説き、民衆への仏教の普及を促進しました。しかし同時に、「貴賤の別は前世の行いによる」という考え方も広まり、社会の貧富の差を肯定する側面もありました。

スコータイ王朝の文化

スコータイ王朝では、タイ独特の建築様式が確立されました。クメール建築を基にスリランカ様式を取り入れたもので、スコータイ、シーサッチャナーライ、カムペーンペットなどの都市に残る遺跡に見られます。また、仏像美術では、緩やかな女性的な曲線を持つ「スコータイ仏」と呼ばれる仏像が制作されました。

特筆すべき文化として、サワンカローク焼きの開発が挙げられます。これはラームカムヘーンが招いた職人によって開発され、長きにわたり中国への主要な輸出品となりました。

文学においては、「ラームカムヘーン大王碑文」、「リタイ王碑文」、「三界経」などが著され、タイ文字の発展の過程を見ることができます。特に、ラームカムヘーン大王碑文では、母音の配置が独自の形式で記されています。

スコータイ王朝の歴代王

スコータイ王朝の歴代王は以下の通りです（即位年・退位年は目安です）。

シーインタラーティット（1240年頃 - ?）
バーンムアン（? - 1279年頃）
ラームカムヘーン（1279年頃 - 1298年頃）
ルータイ（1298年 - 1323年）
グンナームトゥム（1323年 - ?）
リタイ（1347年 - 1368年）
サイルータイ（1368年 - 1399年）
タムマラチャ2世（1399年 - 1419年）
タムマラチャ3世（1419年）
マハータンマラーチャー4世（1419年 - 1438年）

※ 即位はしなかったがラームカムヘーンの後、ルータイの前に代理統治していたといわれる。

もう一度検索