ジャルート環礁

ジャルート環礁：自然と歴史が織りなす楽園

ジャルート環礁は、マーシャル諸島共和国の首都マジュロから南西に約220kmに位置する、91の島々からなる美しい環礁です。総面積は陸地が約11平方キロメートル、ラグーンが約690平方キロメートルで、その豊かな自然環境が特徴です。環礁の砂浜はウミガメの産卵場所となっており、周辺のサンゴ礁は多様な魚類、無脊椎動物、海鳥の生息地として、また海草藻場やマングローブなども含めた環礁全体がラムサール条約に登録されています。

歴史

ドイツ統治時代

1884年、ジャルート環礁はドイツの保護領となり、1906年からはドイツ領ニューギニアの一部として統治されました。しかし、本国から遠く離れていたため、インフラや教育、医療などの整備はほとんど行われませんでした。

日本統治時代

第一次世界大戦中に日本海軍によって占領され、その後1922年からは日本の委任統治領となりました。この時代、環礁は「ヤルート環礁」と呼ばれ、ジャボール島には南洋庁のヤルート支庁が置かれ、マーシャル諸島統治の中心地となりました。日本統治下では、電気、水道、学校、病院などのインフラ整備が進み、コプラの集積地として栄えました。日本郵船による定期航路や、大日本航空による定期旅客便も開設され、日本との交流が活発に行われました。

太平洋戦争

太平洋戦争開戦後、環礁東部のイミエジ島には日本海軍の基地が置かれたため、アメリカ軍の攻撃対象となりました。1942年にはアメリカ軍による空襲を受け、1943年には日本陸軍の守備隊が派遣されました。しかし、アメリカ軍は環礁への上陸を諦め、終戦まで環礁は直接的な戦禍を免れました。しかし、補給が途絶えたために食糧難や疫病が発生し、守備隊に多くの犠牲者が出ました。

アメリカ統治時代

戦後、アメリカ軍の軍政を経て、1947年には太平洋諸島信託統治領の一部となりました。アメリカは経済の中心地をマジュロ環礁に移したため、ジャルート環礁の経済は衰退しました。

マーシャル諸島独立後

1979年にマーシャル諸島政府が発足し、1986年には独立を果たしました。ジャルート環礁は現在、マーシャル諸島共和国の一部として、首都マジュロとの間に定期航空便が開設され、観光客や漁業関係者が訪れています。

ジャルート環礁と中島敦

作家の中島敦は、1941年に公学校用の教科書編纂のためパラオへ赴任した際、ジャルート環礁を訪れ、その美しさに魅了されました。彼は、環礁の印象を妻に宛てた手紙に綴っています。また、短編集「環礁―ミクロネシヤ巡島記抄―」の中で、ジャボール島の大酋長アマタ・カブアの家に招待された際の出来事を描いています。アマタ・カブアは後にマーシャル諸島共和国の初代大統領となりました。

交通

ジャボール島にはジャルート空港があり、マーシャル諸島航空が首都マジュロとキリ島への定期便を運航しています。

ジャルート環礁は、その美しい自然と、様々な時代の歴史が刻まれた場所です。現在では観光地として注目を集めており、多くの人々がその魅力に惹きつけられています。

脚注

関連情報については、以下の項目も参照してください。

南洋庁
南洋幻想
環礁―ミクロネシヤ巡島記抄―

参考文献

中島敦（2001年）. 『南洋通信』, 中公文庫, 中央公論新社. ISBN 4122039002

外部リンク

『環礁』　旧字旧仮名（青空文庫）
『環礁』　新字新仮名（青空文庫）

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