ジョージ・スダルシャン

エンナカル・チャンディー・ジョージ・スダルシャン

エンナカル・チャンディー・ジョージ・スダルシャン（E.C.G.スダルシャン、Ennackal Chandy George Sudarshan、1931年9月16日 - 2018年5月13日）は、インド出身の著名な理論物理学者であり、テキサス大学で長きにわたり教鞭を執りました。彼の研究は、物理学の多岐にわたる分野に及び、光コヒーレンス、スダルシャン・グラウバーのP表現、V-A理論、タキオン、量子ゼノン効果、開放量子系とリンドブラッド方程式、スピン統計定理、非不変群、密度行列の正値写像、そして量子計算など、数多くの重要な貢献をしました。また、科学技術のみならず、東西関係、哲学、宗教にも深い関心を持ち、幅広い分野でその知識と見識を発揮しました。

生涯

スダルシャンは、現在のインド・ケーララ州に位置するトラヴァンコール王国パロムで生まれました。彼は、キリスト教の一派であるトマス派の家庭で育ちましたが、1954年にヒンドゥー教徒の同級生ラリタと結婚した際にキリスト教を離れました。自身を「ヴェーダーンタ学派のヒンドゥー教徒」と見なしていたスダルシャンは、キリスト教を去った理由として、神に対する見解や霊的な経験の欠如に関する意見の相違を挙げています。妻のラリタは1990年に亡くなり、彼らの間には3人の息子がいます。

教育においては、CMSカレッジ・コッタヤムで学び、1951年にマドラス基督教大学を優秀な成績で卒業しました。その後、1952年にマドラス大学で修士号を取得し、タタ基礎研究所(TIFR)に移籍してホーミ・J・バーバーと短期間共同研究を行いました。その後、ニューヨーク州のロチェスター大学に進学し、大学院生としてロバート・マーシャクの指導を受けました。1958年にロチェスター大学からPh.D.を取得後、ハーバード大学に移り、ジュリアン・シュウィンガーの下で博士研究員として研究を重ねました。

業績

スダルシャンの業績は、物理学の広範な分野に及んでいます。ロバート・マーシャクと共に提唱した弱い力のV-A理論は、電弱理論の発展に大きく貢献しました。この理論は後にリチャード・ファインマンとマレー・ゲルマンによって広く知られるようになりましたが、ファインマンは、V-A理論がスダルシャンとマーシャクによって発見され、ゲルマンとファインマンによって発表されたことを認めています。また、スダルシャンは、今日ではスダルシャン・グラウバーのP表現として知られるコヒーレント光の量子表現を開発しました。この業績により、ロイ・グラウバーは2005年にノーベル物理学賞を受賞しましたが、スダルシャンの貢献は十分に評価されませんでした。

量子光学分野における貢献は特に重要であり、彼の定理によって、古典的な波動光学が量子光学と等価であることが証明されました。この定理はスダルシャン表現を利用しており、純粋に量子的であり、古典的には説明できない光学的効果を予測します。さらに、スダルシャンは、光よりも速く移動する粒子であるタキオンの存在を最初に提唱しました。彼は、開放量子系の理論を記述する最も基本的な形式の1つであるdynamical mapsと呼ばれる形式を開発し、ベイッドヤーナス・ミスラ(Baidyanath Misra)と共同で、量子ゼノン効果を提起しました。

スダルシャンと共同研究者は、ディラック方程式を用いて磁気四重極の集束作用を調べることによって、「荷電粒子ビーム光学の量子論」を創始しました。

教育者としても、タタ基礎研究所(TIFR)、ロチェスター大学、シラキュース大学、ハーバード大学で教鞭を執り、1969年以降はテキサス大学オースティン校の物理学教授、インド理科大学院の上級教授を務めました。1980年代には、チェンナイ数理科学研究所(IMSc)の所長を5年間務め、在任中に研究所をセンター・オブ・エクセレンス(COE)へと発展させました。

哲学者ジッドゥ・クリシュナムルティとの交流も深く、多くの議論を交わしました。2011年9月16日には、IMScで80歳の誕生日を祝いました。

研究分野と関心

スダルシャンの研究分野は、素粒子物理学、量子光学、量子情報、量子場理論、ゲージ理論、古典力学、基礎物理学と多岐にわたりました。また、ヴェーダーンタ学派にも深く関心を持ち、頻繁に講演を行いました。

ノーベル賞を巡る論争

スダルシャンの業績は、ノーベル賞を巡る論争の的となりました。2005年にロイ・グラウバーがノーベル物理学賞を受賞した際、スダルシャンにも賞が授与されるべきだという意見が多くの物理学者から上がり、議論を呼びました。スダルシャン自身も、P表現は「グラウバー」よりも「スダルシャン」の貢献が大きいと主張し、ノーベル委員会に書簡を送りました。書簡では、グラウバーがスダルシャンの理論を批判した後、その理論を「P表現」と改名して自身の理論に組み込んだと指摘しています。

2007年、スダルシャンは「2005年のノーベル物理学賞は私の研究に授与されましたが、私はそれを得ることができませんでした」と述べています。また、1979年のノーベル賞に選ばれなかったことについても、「スティーヴン・ワインバーグ、シェルドン・グラショー、アブドゥッサラームは、私が26歳の学生だったときの仕事に基づいて理論を構築しました。もしあなたが建築の賞を授与するとして、1階を建てた人よりも先に2階を建てた人に賞を与えますか?」とコメントしています。

受賞歴

Kerala Sastra Puraskaram for lifetime accomplishments in science（2013年）
ICTPのディラック・メダル（2010年）
パドマ・ヴィブーシャン勲章（2007年）
マヨラナ賞（2006年）
TWAS賞（1985年）
ボーズ賞（1977年）
パドマ・ブーシャン勲章（1976年）
C.V.ラマン賞（1970年）

著書

Doubt and Certainty（トニー・ロスマンとの共著）
Classical Dynamics（Narasimhaiengar Mukundaとの共著）
Fundamentals of Quantum Optics（ジョン・R・クラウダーとの共著）
Introduction to Elementary Particle Physics（ロバート・マーシャクとの共著）
From Classical to Quantum Mechanics: An Introduction to the Formalism, Foundations and Applications（Giampiero Esposito・Giuseppe Marmoとの共著）
Pauli and the Spin-Statistics Theorem（Ian Duckとの共著）

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