スイス国鉄RABe501形電車

概要

スイス国鉄RABe501形電車、通称「Giruno」は、ゴッタルドベーストンネルを通る国際列車として活躍する、動力分散式の高速鉄道車両です。このトンネルは、スイスを南北に縦断する重要なルートであり、貨物列車とともに、ドイツやイタリア方面への直通旅客列車も多数運行されています。

トンネル開業当初、スイス国鉄は、ユーロシティにはETR610形やRABe503形を、インターシティにはRABDe500形やRe460形牽引の客車列車を使用していました。しかし、輸送量の増加を見込み、これらの車両を250km/hで走行可能で、国際乗り入れ対応の新型車両へ更新する計画が立ち上がりました。

2012年に具体化したこの計画は「BeNe」プロジェクトと名付けられ、2014年にはアルストム、シーメンス、タルゴ、シュタッドラー・レール各社が提案を行いました。ボンバルディアは、当時インターレギオ/インターシティ用RABe502形を製造中だったため、提案には参加していません。

入札の結果、シュタッドラー・レールが29編成を落札し、最大92編成のオプション付きとなりました。2015年には、プロジェクト名と列車名が「Giruno」、シュタッドラー社内での車両名称が「EC250」と決定しました。

シュタッドラー・レールは、FLIRTシリーズやKISSシリーズで実績を積んでいましたが、高速列車としては、ノルウェー、オーストリア、ベラルーシ向けの200km/h対応車両のみでした。RABe501形は同社初の250km/h対応車両となります。当初は食堂車付きと無しの編成を予定していましたが、最終的には全29編成が食堂車付きとなりました。

車両の特徴

RABe501形は、連接・部分低床式構造で、FLIRTシリーズをベースに開発されました。欧州の鉄道車両区分では中速車両に分類され、250km/hでの走行が可能です。11車体連接のうち、2車体は高さの異なるホームに対応できるよう、低床式で両側に異なる高さの乗降扉を設けています。これにより、車椅子でのスムーズな乗降を可能にし、1等車と2等車、そして食堂車間での移動を容易にしています。また、両先頭車を除く6車体も、スロープによってステップレス構造を実現しています。

この車両は、スイス、イタリア、ドイツ、オーストリアの各路線に対応しており、各国の電源方式や信号方式に対応しています。スイス国内では、スイス国鉄全線とBLS AG、スイス南東鉄道での運行が可能で、ドイツ、オーストリア、イタリアでもそれぞれの電化路線を走行できます。

さらに、欧州の衝突安全基準EN15227に準拠しており、ゴッタルドベーストンネルの長距離走行に備え、火災対策、気圧変動対策、急激な温度変化対策も施されています。

設計要件

主な設計要件は以下の通りです。
ユーロシティ運用でスイス、ドイツ、オーストリア、イタリアに乗り入れ可能
2019年から29編成を運行開始
軸重を最大18tとし、機器を分散配置
編成定員を405名とし、客室は列車の全長に配置
高さ550mmと760mmのホームから車椅子で乗降可能
12か所の乗降口を均等に配置

その他の設計要件は以下の通りです。
オープンデザインの客室
気圧変動に対応した乗降扉と空調装置
車椅子対応のトイレと食堂車
自転車および多用途荷物置場
人間工学に基づいた運転台
空気ばね式台車
EN規格に基づいた衝突安全性能
長距離列車向けの客室設備
自動連結器による単独および重連運転

この車両は、ロマンシュ語でノスリを意味する「Giruno」と名付けられ、シュタッドラー・レールのメーカーシリーズ名である「SMILE」とも呼ばれます。各編成には、スイスの州名やトンネル名にちなんだ機体名と紋章が付けられています。

製造と部品

RABe501形の車体、台車、機械部分はスイス国内のシュタッドラー社各工場で製造・最終組立が行われています。主要電気機器はABB SchweizとABB Sécheronが担当し、多くの部品がスイス製です。車体、内装、座席デザインは、スイスのデザイン事務所nose design experienceが担当しました。また、ドイツのVoith Turboやオーストリアのtraktionssysteme austria製の部品も使用されています。

車両番号

RABe501形の編成および各車両には、UIC規格に基づいたEVN（ヨーロッパ標準動力車番号体系）の車両番号が付与されています。

編成番号：RABe 501 93 85 0 501 0XX-a CH-SBB

車両番号例：
Bt1 93 85 1 501 0XY-b
B11 93 85 2 501 0XY-c
B10 93 85 3 501 0XY-d
B9 93 85 4 501 0XY-e
B8 93 85 5 501 0XY-f
B7 93 85 6 501 2XY-g
WR6 93 85 5 501 2XY-h
A5 93 85 4 501 2XY-i
A4 93 85 3 501 2XY-j
A3 93 85 2 501 2XY-k
At2 93 85 1 501 2XY-l

車体構造

RABe501形は、11車体12台車の固定編成で、車軸配置は2'Bo'Bo'2'2'2'2'Bo'Bo'2'2'2'です。各車両にはL、K、J、H、G、F、E、D、C、B、Aの記号が付けられています。車体はアルミ製のダブルスキン構造で、先頭部は衝突時に備えた衝撃吸収構造を採用しています。

先頭部は流線型で、高速走行時の空気抵抗を低減する設計です。前面窓は一枚曲面ガラスで、LED式前照灯と標識灯が設置されています。側面窓は大型固定式で、乗降扉は電気駆動のスライド式プラグドアです。床下機器はカバーで覆われ、車端部には台車と車体間のダンパーが設置されています。

客室床面の高さは、中間車でレール面上高さ940mmが基本ですが、低床式デッキは880mm、先頭車の客室は1200mmです。移動円滑化対応のF、G、H車では、食堂車Gの床面高さが1150mm均一、FとHの客室の床面高さは950mmを基本とし、乗降デッキはドイツ対応で880mm、スイス・イタリア対応で682mmです。これらの段差はスロープで接続されており、車椅子での移動を容易にしています。

乗降口の高さは、A、B、C、D、E、J、K、LとF、Hのドイツ対応が765mm、D、Fのスイス・イタリア対応が567mmで、可動式ステップが設置されています。食堂車Gには荷物搬入用の扉が設置されています。

客室内配置

1等室: 座席配置は2+1の3列が基本で、一部1+1の2列。回転式クロスシートを採用。シートピッチは対面式で1500mm、片側向きで900mm。グレー系でまとめられ、赤色のヘッドレストとアルミ生地のアクセントが特徴。
2等室: 座席配置は2+2の4列が基本で、一部2+1の3列。固定式クロスシートを採用。シートピッチは対面式で1500mm、片側向きで900mm。1等室と同様のグレー系だが、座席は濃紺色。
食堂車: 前位側は2+1の3列対面式テーブル席、後位側は調理スペース。内装は客室と同様で、座席は黒の皮張り、木目調のカウンターや壁面が特徴。

特別エリアと設備
ビジネスエリア: 1等室の一部に対面式座席と大型テーブル。
静粛エリア: 1等室の一部に片側向きの固定クロスシート。
ファミリーエリア: 2等室の一部に対面式座席と大型テーブル。
ベビーカースペース: 1等室と2等室の一部に座面折畳式。
自転車スペース: 2等室の一部に4台分の自転車ラック。
シートピッチ拡大スペース: 2等室の一部に通常の1950mmよりも広いボックスシート。

トイレは、車いす対応の大型のものがFとGに、男女兼用と男性用、女性用トイレがB、D、Kに、男女兼用トイレがHに設置されています。各クラス共通の装備として、座席ごとのテーブル、サービスコンセント、通信用電波増幅装置、無線LAN設備、手荷物置場、液晶ディスプレイが備わっています。

トンネル通過時の気圧変動対策として、乗降扉や空調装置などに気密性を高めるシール機構が採用され、貫通幌や窓は気圧変動に耐える構造となっています。また、外気温が-10℃の時でも、トンネル内温度が最大35℃になることを想定し、急激な温度変化にも対応できるよう設計されています。

運転室は中央運転席のデスクタイプで、ワンハンドルのマスターコントローラー、針式圧力計、液晶ディスプレイなどが設置されています。連結器はVoith Turbo製のType 10で、電気連結器と緩衝器を装備しています。

走行機器

制御方式は、IGBTを使用したコンバータ・インバータ式で、ABB製BORDLINE CC1500を各床下に搭載しています。1台の主変換装置で2台の主電動機を駆動します。主電動機はかご形三相誘導電動機で、架線電圧に応じて最大出力を調整します。台車はボルスタレス式で、枕ばねは空気ばね、軸ばねはコイルばねを使用しています。基礎ブレーキ装置はディスクブレーキで、従台車には渦電流レールブレーキも設置されています。

集電装置はシングルアーム式で4基搭載しており、スイス国内用とイタリア国内AC25kV用、ドイツ・オーストリア国内用とイタリア国内DC3000V用のものがあります。ブレーキ装置は、回生ブレーキ、発電ブレーキ、空気ブレーキ、渦電流レールブレーキを装備しています。保安装置としては、ETCS、Integra-Signum、ZUB 262、SCMT、PZB/LZBを搭載しています。

運行開始

RABe501形は、シュタッドラー社のスイス国内工場で組み立てられています。2016年にはInnoTransに出品され、2017年には試運転が開始されました。チェコの高速試験線やオーストリアで試験を行い、スイス、イタリア、ドイツ、オーストリアでの運行認可プロセスが進められました。

2019年4月には単独編成での運行許可が下り、同年5月からチューリッヒ-エルストフェルト間で営業運転を開始しました。2019年12月からはゴッタルドベーストンネルを通過する運行が開始され、2020年にはミラノまでの運行が開始される予定です。

RABe501形の導入とチェネリベーストンネルの開業により、チューリッヒ-ミラノ間の所要時間は3時間に短縮される予定です。また、チューリッヒ-ルガーノ間のインターシティでも使用される計画です。

参考文献

『SBB vergeben Auftrag für BeNe-Züge an Stadler』「Schweizer Eisenbahn-Revue （6/2014)」
『Giruno-Marquette vorgestellt』「Schweizer Eisenbahn-Revue （8-9/2015)」
『Die Innotrans 2016 in Berlin』「Schweizer Eisenbahn-Revue （11/2016)」
『Erster RABe501 "Giruno" für die SBB vorgestellt』「Schweizer Eisenbahn-Revue （7/2017)」