スズキ・フロンテ

スズキ・フロンテ：時代を駆け抜けた軽自動車

スズキ・フロンテは、1962年から1989年までスズキ自動車工業（現スズキ）が製造していた軽自動車です。その歴史は、日本のモータリゼーションの発展と共にありました。ここでは、フロンテシリーズの基本形であるセダンを中心に、商用モデルであるバン（ライトバン）やハッチバックについても詳しく解説します。

車名の由来

フロンテという名前は、「フロンティア精神」に由来しています。これは、業界の先駆者としての気概を示すとともに、初代モデルが採用した駆動方式であるFF（フロントエンジン・フロントドライブ）にも通じるものでした。しかし、2代目から4代目にかけては、RR（リアエンジン・リアドライブ）を採用。5代目で再びFFに戻るという変遷を辿りました。この車名は、社内公募によって決定されたもので、「フロンティアスピリット」とFF方式のクルマという2つの意味が込められています。

概要

スズキは1955年に日本初の軽4輪乗用車であるスズライトを発売しましたが、当時の軽乗用車の需要はまだ少なく、一時商用バンのみのラインナップに整理されました。しかし、1958年にスバル・360が大ヒットしたことを受け、スズキは再び軽乗用車の市場投入を決意します。その結果誕生したのがフロンテです。

初代フロンテは、その高いポテンシャルをレースで示し、1960年代から1970年代にかけてスズキを代表するモデルへと成長しました。1979年に派生車であるアルトが登場し、大ヒットするまで、長年にわたりスズキの主力軽乗用車でした。フロンテが乗用モデル（5ナンバー）であったのに対し、当初のアルトはフロンテとプラットフォームを共有した商用モデル（4ナンバーの軽ボンネットバン）として発売されました。

1989年、フロンテはアルトに統合され、かつてのフロンテに相当する乗用車仕様は「アルト（セダン）」、商用車仕様は「アルトバン」となりました。

2005年の東京モーターショーでは、フロンテ360をモチーフにしたスズキLCが出品され、そのデザインが話題となりました。

初代 TLA/FEA/FEA-II型（1962年 - 1967年）

初代フロンテは、2代目スズライトをベースに開発されました。スズライトは、ドイツのボルクヴァルトのロイトLP400を参考に開発されたため、フロンテも丸みを帯びた2ドアセダンボディ、盛り上がったフロントフェンダー、小径の丸型ヘッドランプなど、ロイトに似た外観をしていました。

当時としては珍しいFF方式を採用したのもロイトの影響ですが、フロンテには現在の車にも使われているボール型ジョイントが初めて採用されるなど、スズキ独自の技術も盛り込まれていました。価格は38万円と、スバル・360の39万円を意識した設定でしたが、スバル360の牙城を崩すには至りませんでした。

年表

1962年1月：生産開始。
1962年3月：スズライトバンTL型の乗用車版として『スズライト・フロンテ』が登場。駆動方式はFF。空冷2ストローク直列2気筒360ccエンジンを搭載。
1963年3月：FEA型にモデルチェンジ。エンジンがFE型に変更され、自動分離潤滑方式「セルミックス」を採用。フロントグリルの変更、トランクゲートを下ヒンジに変更するなどの改良を実施。
1963年5月：第1回日本グランプリにFEA型が参戦し、軽4輪部門でワンツーフィニッシュを達成。
1965年10月：FEA-II型にモデルチェンジ。ヘッドランプをフロントグリルと一体化し、エンジンオイルをクランクベアリングに直接噴射する「CCI」方式を採用。
1967年1月：生産終了。在庫販売体制へ移行。
1967年3月：販売終了。

2代目 LC10型（1967年 - 1970年）

2代目は、車名が「フロンテ360」となり、駆動方式をRRに変更。コラムシフトからフロアシフトに変更されました。ボディタイプは2ドアセダンと3ドアバンが用意され、車体後部のオーバーハング部分に搭載されたエンジンは、2輪車のエンジンをベースに新開発された2ストローク直列3気筒エンジンでした。このエンジンは、高い冷却性能と滑らかな回転特性、そして高回転でのパワーを両立させ、ライバル車に対して大きな優位性を持ちました。

インパネ周りは、スポーティなデザインで、正面には大型のコンビネーションメーターが配置されていました。

年表

1967年1月：生産開始。
1967年6月：発売。
1967年10月 - 12月：月産3,000台の目標を大幅に上回る2万6,281台を販売し、大ヒット。
1968年8月：アルミシリンダーの新型エンジンの性能と耐久性をアピールするため、イタリアの高速道路「アウトストラーダ・デルソル」でテスト走行を実施。
1968年11月：高性能バージョン「SS」を追加。シリンダーごとに3つのキャブレターを装備し、圧縮比を高めたことで、ノーマル比＋11psを達成。最高速度125km/h、0-400m加速19.95秒という驚異的な性能を誇った。
1970年4月：「SSS」を追加。標準エンジンの馬力も向上。
1970年10月：生産・販売終了。排出ガス規制により、わずか3年でフルモデルチェンジ。

フロンテバン LS10/LS11/LS20

1969年1月に登場。フロンテ360がRRになったことで、商用車への流用に不都合が生じ、スズキはフロンテの名で全く構成の異なるバンを開発しました。フロンテバン(LS10型)は、FRを採用。スタイルは、コークボトルラインのフロンテ360に対し、直線基調のプレーンなスタイルでした。

後に、後席の居住性を高めた乗用モデルのフロンテ・エステート(LS11型)が追加され、さらにテールゲートを廃したカスタム／ハイカスタム(LS11型)も追加されました。1972年には、水冷版のフロンテバン(LS20型)が登場し、エンジンは3気筒水冷のLC10W型に変更されました。

1973年4月、フロンテハッチ(LS30型)にフルモデルチェンジし生産を終了しました。

3代目 LC10 II型（1970年 - 1976年）

3代目は、1975年から始まる排出ガス規制を目前に控えながらも、軽自動車のパワーウォーズを制し、販売面でもトップセールスを記録しました。エンジンは基本的に従来の空冷3気筒2ストロークエンジンを使用。ボディスタイルは、直線基調の2ボックススタイルとなり、車高はかなり低く設定されました。フロントのトランクは拡大され、通称「スティングレイ・ルック」と呼ばれました。また、軽自動車としては初めて吊り下げ式クーラーが設定されました。

年表

1970年1月：生産開始。
1970年11月：3代目フロンテ（フロンテ71）発売。グレードは、スタンダード、デラックス、スーパーデラックス、ハイスーパー、S、SSS、SSS-R。
1971年5月：フロンテ71W追加発売。水冷エンジンを搭載。グレードは、GL-W、GT-W、GT-RW。
1971年9月：3代目フロンテをベースにしたスポーツカー、「フロンテクーペ」発売。
1971年11月：マイナーチェンジで72フロンテに名称変更。フロントグリルや内装のデザイン変更。
1972年3月：水冷エンジンにシングルキャブ仕様を追加。
1972年10月：マイナーチェンジで73年型としてニューフロンテシリーズを発売。ヘッドランプが丸型2灯式に変更。
1973年1月：生産終了。在庫販売体制へ移行。
1973年7月：4代目と入れ替わる形でセダンの販売終了。

4代目 LC20/LC31/SS10/SS20型（1973年 - 1979年）

4代目は、3代目のシャープなイメージから「オーバーシェル」へとスタイルを変えました。ファミリーユースへの対応も図り、4ドアモデルも設定。ガラスハッチを全車に採用しました。駆動方式は、RRレイアウトを踏襲。実用性向上のため、フロントのトランクルームに加え、リアのエンジンルーム上部にも荷室を設けました。

年表

1973年1月：生産開始。
1973年7月：発売。
1973年10月：オイルショックが発生。軽自動車にも車検制度が導入されたことで、販売台数が減少。
1974年：エンジン出力を変更。グレード名称も変更。
1976年5月：軽自動車規格改正に合わせてマイナーチェンジ。ボディを拡大し、「フロンテ7-S」となる。
1977年5月：一部改良。2ストロークエンジンが昭和53年排出ガス規制適合。
1977年6月：ダイハツ製550cc直列2気筒4サイクルSOHCエンジンを一部のグレードに搭載。
1978年10月：マイナーチェンジ。2ストローク車のエンジンを539ccのT5Aに変更。型式もSS20となる。
1978年10月：エンジンを自社開発の4ストロークエンジンであるF5A型に変更。
1979年1月：生産終了。在庫販売体制へ移行。
1979年5月：5代目にバトンタッチする形で販売終了。

フロンテハッチ LS30

1973年に登場。フロンテエステートなどの乗用モデルが廃止され、商用モデルのみとなりました。当時のブームを反映して、レジャーユーズを強く訴求していました。フロンテハッチは、運輸省には先代フロンテバン派生のハッチバックモデルとして届け出られました。

1976年、新規格に合わせて排気量と車体寸法を拡大した「ハッチ55」（SH10型）が登場。エンジンは水冷3気筒のLJ50型です。フロンテハッチで特徴的だったヘッドライトのデザインが、後年のアルトに似た直線基調のデザインに改められました。

1979年、アルト(SS30V型)にモデルチェンジし、生産・販売を終了しました。

5代目 SS30/40型（1979年 - 1984年）

5代目は、2代目から採用してきたRRレイアウトを捨て、駆動方式を初代と同様のFFに戻しました。商用版として登場し、大ヒットした初代アルトとはシャシを共用する姉妹車となりました。ボディは、1976年に改定された軽自動車規格に合わせて拡大され、直線基調のデザインに変更されました。

先代まで存在した3ドアハッチバックはアルトに譲り、4ドア+ガラスハッチに一本化されました。最大のセールスポイントは、120mm延長されたホイールベースによる室内空間の拡大で、後席の足元は小型乗用車並みとアピールされました。エンジンは、4ストローク3気筒と2ストローク3気筒の2タイプが採用されました。

年表

1979年1月：生産開始。
1979年5月：発売。
1980年5月：廉価グレード機種のFS-A（4ストロークモデル）、FX-A（2ストロークモデル）を追加。
1981年5月：マイナーチェンジ。ヘッドランプ周りの意匠が変更され、2ストロークエンジンが消滅。
1981年10月：2速ATのFS-Qシリーズを追加。
1982年2月：ガラスサンルーフ仕様を追加。
1983年5月：マイナーチェンジ。ヘッドランプを角型に変更。
1983年12月：エンジンをF8Aとしたマルチ・800をインドで生産・販売開始。
1984年1月：生産終了。在庫対応分のみの販売となる。
1984年9月：6代目と交代して販売終了。

6代目 CB71/72型（1984年 - 1988年）

6代目は、ファミリーユーザーを意識して開発され、プラットフォームから全面的に刷新されました。4ドアから5ドアハッチバックへと生まれ変わり、室内空間の広さが強調されました。搭載エンジンは、水冷直列3気筒 SOHCシングルキャブ仕様のF5A型のみ。駆動方式はFFだけで、トランスミッションは、4速/5速MTと2速ATが用意されました。

当時、軽自動車ブームが起きており、6代目フロンテの販売も好調でしたが、同時にモデルチェンジしたアルトのバリエーションも増加し、両車の差がほとんどなくなったため、次第に税制面で有利な商用車アルトへと人気が集中していきました。

年表

1984年1月：生産開始。
1984年9月：発売。
1986年1月：インドで2代目マルチ・800として販売開始。
1986年7月：マイナーチェンジ。リアサスペンションをI.T.L式に変更。ヘッドランプやフロントグリルを変更。
1987年1月：DOHC12バルブエンジンを搭載した「フロンテ・ツインカム」を追加。
1988年1月：4WDモデルのFMと、5ドアハッチバックのツインカムを追加。
1988年10月：7代目と入れ替わって生産・販売終了。

7代目 CN11型（1988年 - 1989年）

7代目は、5ドアハッチバックのボディに最新の12バルブエンジンであるF5B型を搭載。テレスコピック付きチルトステアリングや、上下5段階調節可能なシートベルトのショルダーアジャスターなどをクラス初搭載するなど、装備面も充実していました。

しかし、翌月からの消費税導入に伴い、物品税がかからなかった商用車にも消費税が課せられることになり、軽商用車のメリットが消滅したため、アルトに吸収統合される形でフロンテは販売終了となりました。歴代フロンテの中で、販売期間6ヶ月は歴代最短です。

スズライトシリーズ・フロンテシリーズの総合販売台数は約170万台です。

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