スペースX CRS-26

スペースX CRS-26ミッション (SpX-26)

2022年11月26日に実行されたスペースX CRS-26ミッション（別名SpX-26）は、国際宇宙ステーション（ISS）への重要な商業補給任務でした。本ミッションはアメリカ航空宇宙局（NASA）との契約に基づき、スペースX社が開発・運用する無人補給船「カーゴドラゴン」を用いて遂行されました。これは、2016年1月に締結されたNASAの商業補給サービス（CRS）フェイズ2契約に基づくスペースX社の6回目の宇宙飛行となりました。

カーゴドラゴンの特徴

本ミッションで使用されたカーゴドラゴンは、再利用性を重視した設計となっています。スペースX社は、各機体を最大5回まで繰り返し使用することを計画しており、これにより宇宙輸送コストの削減を目指しています。有人宇宙船である「クルードラゴン」とは異なり、カーゴドラゴンには宇宙飛行士が搭乗しないため、緊急脱出システムであるスーパー・ドラコエンジン、座席、操縦制御システム、生命維持装置などは搭載されていません。カーゴドラゴンを含む「ドラゴン2」カプセルは、先行モデルの「ドラゴン1」から様々な改良が加えられており、特に機体の改修にかかる時間を短縮することで、次のミッションまでの準備期間が大幅に短縮されています。ISSでの任務を終えたカーゴドラゴンは、ペイロードを搭載して地球へ帰還し、フロリダ州沖の海域に着水することで回収されました。

主要ペイロード

CRS-26ミッションで輸送されるペイロードの種類、打ち上げ日時、軌道パラメータといった主要な要素は、契約主体であるNASAによって決定されました。

本ミッションの特に重要なペイロードの一つは、国際宇宙ステーション（ISS）伸展式太陽電池アレイ（iROSA）の2対目となる新しい太陽電池アレイでした。これは、高性能なXTJ Prime宇宙太陽電池を利用しており、ISSの電力供給能力を強化することを目的としています。この大型アレイは、カーゴドラゴン宇宙船の非与圧トランク部分に収納されて宇宙ステーションへ運ばれました。新しいアレイ（4Aおよび3Aと指定）の設置作業は、宇宙飛行士による2回の船外活動を必要としました。1回目の船外活動では、アレイを取り付けるための準備として改造キットの設置が行われ、続く2回目の船外活動で新しい太陽電池パネル本体が取り付けられました。

科学研究ペイロード

CRS-26ミッションでは、多様な科学研究や技術開発のためのペイロードも多数輸送されました。これには、NASAグレン研究センターや欧州宇宙機関（ESA）による研究活動が含まれていました。

ESAの宇宙での縫合実験では、微小重力環境が組織の治癒プロセスにどのように影響するかを詳細に調査しました。この実験では、生検で採取された生きた組織が宇宙に送られ、宇宙飛行士が組織を活性化させた後に切断・縫合し、その後の治癒メカニズムを継続的に監視しました。また、ESAの造骨細胞実験は、宇宙飛行中に見られる骨形成障害のメカニズムの解明を目指すとともに、微小重力条件が試験管内（in vitro）での骨芽細胞の機能に変化をもたらすかどうかの調査を目的としていました。さらに、ESAの「Orbit Your Thesis」プログラムの一環として、「微小重力下での動脈」に関する研究ペイロードも、ISS内のICE Cubes施設に設置され、実験が行われました。

CubeSatの放出

本ミッションでは、複数の小型衛星（CubeSat）もISSへ運ばれ、NRCSD#24およびJ-SSOD#24といった放出機構を通じて宇宙空間に展開されました（この中には、NASAのELaNa 49計画の一部も含まれています）。輸送されたCubeSatには以下のようなものがあります。

TJREVERB: トーマス・ジェファーソン科学技術高校の生徒が製作した2UサイズのCubeSatで、低軌道におけるイリジウムの受動的磁気安定化技術の試験を行いました。
ORCASat: 世界各地の主要天文台（特にチリのルービン天文台やハワイのパンスターズ）で使用される精密測光の校正を目的とした2UサイズのCubeSatです。
MARIO: ミシガン大学とNASAの協力による3UサイズのCubeSatで、低軌道環境におけるピエゾアクチュエーターや健康監視システムの性能を評価し、将来の先進的な宇宙機器開発に役立つデータ収集を目指しました。
NUTSat: NFU等が開発した2UサイズのCubeSatで、システムエンジニアリングの訓練や民間航空機安全技術の実証を目的としています。
LORIS: ダルハウジー大学が開発したカナダ大西洋州初のCubeSat（カナダ宇宙機関打ち上げ）で、搭載カメラによる写真撮影を通じて海岸線や海洋生物の活動を調査・監視しました。
petitSat: ゴダード宇宙飛行センターのCubeSatです。
SPORT: ブラジル宇宙機関、航空技術大学、国立宇宙研究所とNASAマーシャル宇宙センターの共同開発による6UサイズのCubeSatで、日没前後の電離圏構造の理解を深め、無線通信に影響を与える妨害現象の予測精度向上を目指しました。
DanteSat: NPC SpaceMindのCubeSatです。
Surya Sattelite-1 (SS-1): スーリヤ大学による1UサイズのCubeSatです。
OPTIMAL-1: ArkEdge Spaceによる3UサイズのCubeSatです。
* HSKSAT: 原田精機による3UサイズのCubeSatです。

これらの多様なペイロードをISSへ輸送したCRS-26ミッションは、宇宙ステーションの機能維持・向上と、科学技術研究の推進に大きく貢献しました。

もう一度検索