スポケーン・ポートランド・アンド・シアトル鉄道

スポケーン・ポートランド・アンド・シアトル鉄道：太平洋岸北西部の鉄道史に刻まれた足跡

スポケーン・ポートランド・アンド・シアトル鉄道（Spokane, Portland and Seattle Railway、以下SP&S）は、アメリカ合衆国北西部を舞台に20世紀前半を駆け抜けた重要な鉄道会社でした。1905年の設立から1970年の合併まで、その存在は太平洋岸北西部の発展に深く関わっています。本稿では、SP&Sの歴史、路線網、そしてその後の動向について詳細に見ていきます。

ポートランドへの新たなアクセスルート

20世紀初頭、ユニオン・パシフィック鉄道やサザン・パシフィック鉄道がオレゴン州を中心に勢力を拡大する中、主要都市ポートランドへの直通ルートは限られていました。ノーザン・パシフィック鉄道による遠回りなルートしかなかった状況下、グレート・ノーザン鉄道とノーザン・パシフィック鉄道は共同で、ポートランドからコロンビア川北岸沿いにパスコへと至る鉄道建設に乗り出します。当初は『ポートランド・アンド・シアトル鉄道』という名称でしたが、スポケーン住民からの要望を受け、現在の名称に変更されました。

1908年3月11日、SP&Sはついに全線開通を迎えました。オレゴン州の鉄道網に割って入ったこの新たなルートは、既存勢力に対する挑戦状とも言うべきものでした。

事業拡大と競争

SP&Sの勢いは止まりませんでした。1909年にはオレゴン州ベンドに向けたオレゴン・トランク鉄道の建設を開始、ワシントン州とカリフォルニア州を結ぶルートを構築することで、南北方向の交通を支配していたサザン・パシフィック鉄道に対抗しました。さらに、1910年にはポートランドとセイラムを結ぶインターアーバン、オレゴン電気鉄道を買収し、1912年にはユージーンまで路線を延長しました。これらの積極的な事業展開は、SP&Sのネットワークを拡大し、地域経済の発展に大きく貢献しました。

合併とその後

1970年、SP&Sは親会社であるグレート・ノーザン鉄道とノーザン・パシフィック鉄道、そしてシカゴ・バーリントン・アンド・クインシー鉄道の合併に伴い、バーリントン・ノーザン鉄道（BN）にリースされる形で吸収されました。未決済の債権があったため、完全な合併は1979年11月1日まで延期されました。その後もBNがSP&Sの運営を継続していましたが、1987年にはチーニーからスネーク川沿いの路線の一部を放棄しました。

現在、パスコとポートランド間のSP&S旧線の一部は、BNの後継であるBNSF鉄道によって運営されており、カスケード山脈特有の急曲線が多いBNSFの既存路線に代わる重要なルートとして機能しています。

廃線跡の再生

1991年、ワシントン州立公園システムがSP&Sの旧線の一部を取得し、コロンビア・プラトー・トレール公園を整備しました。4,109エーカー（約16.6平方キロメートル）という広大な面積に、全長130マイル（約178キロメートル）の遊歩道が整備され、人々のレクリエーション空間として生まれ変わりました。

まとめ

スポケーン・ポートランド・アンド・シアトル鉄道は、太平洋岸北西部の鉄道発展に大きな足跡を残しました。その歴史は、企業間の競争、地域経済の発展、そして持続可能な土地利用のあり方について、多くの示唆を与えてくれます。現在もその路線の一部はBNSF鉄道によって活用され、また廃線跡は公園として新たな役割を担っています。SP&Sの物語は、単なる鉄道史にとどまらず、現代社会への示唆に富んだ歴史的遺産となっています。

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