セビメリン

セビメリンは、アセチルコリンに似た化学構造を持つ化合物です。この薬は、特に唾液腺に多く存在するムスカリン性アセチルコリン受容体に選択的に働きかけ、唾液の分泌を促す効果があります。主に、シェーグレン症候群やその他の原因による口腔乾燥症（口の渇き）の症状を改善するために使用される対症療法薬です。

開発の経緯

セビメリンは、日本の雪印乳業と日本化薬によって共同で開発されました。販売が開始されたのは2001年のことです。開発の初期段階では、「AF102B」というコード名で呼ばれ、アルツハイマー病の治療薬としての可能性を探る目的で研究が進められていました。しかし、その過程で、唾液分泌を持続的に促進する作用が発見され、研究の方向性が変更されました。その後、「SNI-2011」という名称で、口腔乾燥症などへの応用を目指した開発が進められ、現在のセビメリンとして実用化されました。

作用の仕組み

セビメリンは、キヌクリジン環を基本骨格とする新しいタイプの誘導体です。体内に吸収されると、主に唾液腺に存在するムスカリン受容体の中でも、特にM3受容体を選択的に刺激します。この刺激により、細胞内でイノシトールリン脂質の代謝回転が促進され、唾液の分泌が増加します。セビメリンは、アセチルコリン受容体に直接作用するため、副交感神経刺激薬（コリン作動薬）に分類されます。

体内での動き（薬物動態）

セビメリンは、日本ではカプセル剤として、口から飲む形で使用されます。薬を飲むと速やかに体内に吸収され、およそ1.5時間で血液中の濃度が最も高くなります（最高血中濃度, Cmax）。シェーグレン症候群の患者さんでは、健康な成人に比べて最高血中濃度や、血中から薬が完全に消失するまでの時間（AUC0～∞）がやや延長される傾向があります。また、薬の血中濃度が半分になるまでの時間（半減期）は、男性よりも女性の方が長くなることが知られています。

体内に吸収されたセビメリンは、主に肝臓でシトクロムP450という酵素群（特にCYP2D6とCYP3A4）によって代謝され、トランススルホキシド体とシススルホキシド体といった代謝物に変化します。代謝を受けずにそのままの形で残った薬の本体や、これらの代謝物は、腎臓でろ過され、最終的に尿として体外へ排泄されます。

どんな症状に使われるか

セビメリンが承認されている主な適応症は以下の通りです。

シェーグレン症候群および口腔乾燥症の患者さんにおける、口の乾燥症状の改善

使用してはいけない場合（禁忌）

以下のような病気や状態がある方には、セビメリンを使用することで症状が悪化する可能性があるため、使用が禁止されています（絶対禁忌）。

てんかん
虹彩炎
消化管や膀胱の出口が詰まっている状態
重い虚血性心疾患（心筋梗塞や狭心症など）
パーキンソニズムやパーキンソン病
気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患（COPD）

また、以下のような状態では、慎重に投与する必要があります。

消化器系の病気（消化性潰瘍、膵炎、過敏性腸症候群、胆のうや胆管の病気、肝臓の病気、唾液腺の腫れや痛みなど）
呼吸器系の病気（間質性肺炎など）
泌尿器系の病気（尿路結石、腎結石、腎臓の病気、前立腺肥大など）
甲状腺機能亢進症、全身性進行性強皮症など

高齢者、小児、妊婦・授乳婦への投与

高齢者：一般に腎臓や肝臓の機能が低下していることが多いため、薬が体内に長く留まり血中濃度が高くなる可能性があります。医師の慎重な管理のもとで使用されます。
小児：小児に対する使用経験はほとんどなく、安全性が確立されていません。
妊婦、産婦、授乳婦：動物実験（ラット）では、生まれた子供の体重が減少したり、薬が母乳に移行したりすることが確認されています。そのため、妊娠している可能性のある方には、治療上のメリットがリスクを上回ると判断される場合にのみ使用が検討されます。また、授乳中の方は、薬を服用している間は授乳を避けるよう指導されます。

副作用

セビメリンの副作用は、主にムスカリン受容体を刺激する作用に関連して起こります。特に消化器系の症状が多く見られます。

比較的頻繁に現れる副作用としては、吐き気、腹痛、下痢、多汗、嘔吐などが挙げられます。

まれではありますが、日常生活に影響を及ぼす可能性のある重大な副作用も報告されています。これには、めまい、振戦（ふるえ）、不眠、うつ病、眠気といった精神神経系の症状、かすみ目（霧視）、食欲不振、消化不良、お腹の張り、便秘、唾液腺の痛みや腫れなどの消化器系の症状、脈の乱れ、血圧上昇、頻脈、動悸などの循環器系の症状、息切れ、肺に影が見られるといった呼吸器系の症状、赤血球やヘモグロビン、白血球の減少といった血液系の異常、発疹、かゆみなどの皮膚症状、頻尿、肝機能や腎機能を示す検査値の異常などが含まれます。

他の薬との飲み合わせ（相互作用）

セビメリンを他の薬と一緒に使う際には、薬の作用がお互いに影響し合う可能性があるため注意が必要です。

コリン作動薬やコリンエステラーゼ阻害薬など、アセチルコリンの働きを強める薬：セビメリンもアセチルコリンに似た働きをするため、これらの薬と併用すると、薬の作用が必要以上に強くなり、副作用が現れやすくなる大変危険な場合があります。
抗コリン作動薬や抗コリン作用を持つ薬：これらの薬はアセチルコリンの働きを妨げるため、セビメリンの作用とは反対の方向に働きます。そのため、併用するとセビメリンの効果が弱まってしまう可能性があります。

一般的な使い方と量（処方例）

セビメリンは、通常、以下の疾患による口の乾燥症状を改善する目的で使用されます。

* 口腔乾燥症、シェーグレン症候群：通常、1回30mgを1日3回、食事の後に口から飲みます。

なお、口の中に歯周病など他の症状が進行している場合は、そちらの治療が優先されることもあります。

薬の形

セビメリンは、30mgのカプセル剤として利用できます。

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