ソルビタン脂肪酸エステル

ソルビタン脂肪酸エステル

ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタンと脂肪酸のエステル化合物であり、その乳化作用や界面活性作用から、食品、化粧品、工業分野で広く利用されています。1945年にアメリカのAtlas社によって開発され、日本では古くから食品添加物として用いられてきました。

多様な種類

ソルビタン分子には4つの水酸基があり、これらに結合する脂肪酸の種類と数によって、多種多様なソルビタン脂肪酸エステルが存在します。例えば、

R=ステアリン酸: ソルビタンモノステアレート
R=オレイン酸: ソルビタンモノオレエート
R=ラウリン酸: ソルビタンモノラウレート

といった具合に、脂肪酸の種類によって名称が異なります。ただし、実際の合成反応では、ソルビタン1分子に結合する脂肪酸の数を厳密に制御することは難しく、通常は複数の分子種の混合物として得られます。これらの混合物を分離することは困難であり、また、その必要性も低いことから、混合物のまま製品として販売されています。

「ソルビタンモノステアレート」などの名称は、ソルビタンと脂肪酸のモル比を表しており、例えばソルビタンモノステアレートは、ソルビタンとステアリン酸を1:1のモル比でエステル化反応させた混合物であることを意味します。

HLB値（親水性-親油性バランス）は、ソルビタントリオレエートの2.0からソルビタンモノラウレートの8.6まで幅広く存在し、全体としてやや疎水性の傾向があります。

幅広い用途

ソルビタン脂肪酸エステルは、O/W（水中油滴）型およびW/O（油中水滴）型乳化剤として、様々な食品に利用されています。

O/W型乳化剤：ソルビタンモノステアレートとソルビタントリステアレートの組み合わせが、ショ糖脂肪酸エステルと共にコーヒーフレッシュに、レシチンやグリセリン脂肪酸エステルと共にホイップクリームに用いられます。
W/O型乳化剤：ソルビタンモノステアレートは、マーガリンの水分分離防止やパン製造時の離型剤として使用されます。ソルビタンジエステルやトリエステルは、バタークリームの離水防止や保型性向上のために用いられることがあります。

その他、ソルビタントリオレエートやトリエルシネートは、プリンミックスや発酵食品、佃煮などの消泡剤として使用されます。粉末ココアや粉末カレーなどの油脂を含む粉末食品には、分散性向上のためにソルビタンモノラウレートやモノステアレートが添加されることがあります。モノステアレートは、チューインガムの歯への付着防止やチョコレートのファットブルーム軽減にも効果があります。

近年では、殺虫・殺菌剤（カダンセーフ、ムシラップ）や展着剤（スカッシュ）として、天然由来の農薬としても注目されています。これらの製品は、比較的毒性が低いことが特徴です。

さらに、医薬品や化粧品の添加物、プラスチック用の帯電防止剤、滑剤、防曇剤、消泡剤、顔料分散剤、食器洗浄機用乾燥仕上げ剤など、幅広い用途に利用されています。

主なメーカー

花王: 食品用「エマゾール」、一般用「レオドール」を展開。カダンセーフ原液も製造。
理研ビタミン
日油

ソルビタン脂肪酸エステルは、その多様な種類と用途から、現代社会において欠かせない存在となっています。

参考文献

* 『食品用乳化剤 -基礎と応用-』戸田義郎・門田則昭・加藤友治編 1997年 光琳

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