ソ連の宇宙犬

ソ連の宇宙犬とは、ソビエト連邦が宇宙開発のために宇宙船に搭乗させた犬たちのことです。1950年代から1960年代にかけて、人間が宇宙へ行くことが可能かどうかを検証するため、少なくとも57回にわたり犬が宇宙空間に送られました。ただし、1匹の犬が複数回宇宙へ行ったケースもあるため、実際に宇宙へ行った犬の数はこれより少ないです。多くの犬は生きて地球に帰還しましたが、残念ながら命を落とした犬もいました。その原因の多くは、技術的な問題によるものでした。

訓練

宇宙実験に犬が選ばれた理由は、長時間動けない環境への適応能力が高いと判断されたためです。訓練では、15～20日間も小さな箱に閉じ込められるなど、厳しい環境への耐性を養いました。また、飼い犬よりもストレスに強いとされる野良犬が選ばれ、さらに糞尿の処理の都合上、メス犬が優先的に選ばれました。

訓練内容は多岐にわたり、長時間立位を保つ訓練、宇宙服を着用する訓練、ロケット発射時に所定の位置を維持する訓練、そして、発射時の加速に耐えるための遠心分離機での訓練などが実施されました。食事は、パン粉、肉粉、牛脂などを原料としたゼリー状のタンパク質が与えられました。これは、繊維質が豊富で消化が良いものでした。しかし、報告によると、帰還した犬の6割以上が便秘や胆石に悩まされていたそうです。

弾道飛行

1951年から1952年にかけて、数匹の犬がR-1ロケットで高高度飛行を経験しました。

デジク、ツィガン、リサ

1951年7月22日、デジク（Дезик）とツィガン（Цыган）が初めて大気圏外へと到達しました。2匹は高度100kmに達した後、無事に地球へ帰還しました。ツィガンはその後、ソ連の物理学者アナトーリー・ブラゴンラヴォフのペットとして迎えられました。デジクは同年9月にリサ（Лиса）と共に2度目の飛行に挑みましたが、残念ながら2匹とも命を落としました。

リサとルィジク

リサ（Лиса）とルィジク（Рыжик）は、1954年6月2日に高度100kmまでの高高度飛行を行いました。

スメラヤとマルィシュカ

スメラヤ（Смелая）は9月の飛行を予定していましたが、発射直前に脱走してしまいました。科学者たちはオオカミに食べられてしまうことを心配しましたが、翌日無事に発見され、マルィシュカ（Малышка）と共に宇宙へ旅立ちました。

ボリクとЗИБ

ボリク（Болик）も1951年9月の発射前に脱走してしまいました。急遽、近所にいた野良犬が捕獲され、ЗИБ（ZIB：ロシア語で「行方不明のボリクの代理」の略）と名付けられ、宇宙へ送られました。

オドヴァジュナヤとスネジンカ

オドヴァジュナヤ（Отважная）は1959年7月2日に、別の犬スネジンカ（Снежинка）、そしてウサギのマルフーシャ（Марфуша）と一緒に宇宙へ行きました。オドヴァジュナヤは、その後1959年から1960年の間にさらに5度も宇宙飛行を経験しました。

アリビナとツィガンカ

アリビナ（Альбина）とツィガンカ（Цыганка）は、高度85km地点でカプセルから放出されましたが、無事に着地しました。アリビナはスプートニク2号の搭乗候補にもなりましたが、その後宇宙へ行くことはありませんでした。

ダムカとクラサフカ

ダムカ（Дамка）とクラサフカ（Красавка）は、1960年12月22日に打ち上げ予定の宇宙船に搭乗予定でしたが、計画は中止となりました。

他にも、ディムカ（Дымка）、モドニツァ（Модница）、コズャフカ（Козявка）などの犬が弾道飛行を経験しました。少なくとも4匹の犬が1951年9月に打ち上げられ、そのうち2匹以上が命を落としたとされています。

軌道飛行

ライカ

ライカ（Лайка）は、1957年11月3日にスプートニク2号に乗って地球周回軌道を飛行した、最初の地球生物となりました。しかし、再突入装置は搭載されておらず、片道切符の旅でした。当初、ソ連は「1週間生存後、薬物で安楽死させる予定だった」と発表しましたが、2002年10月には「気密室の断熱材の不具合により、打ち上げ後5～7時間でストレスと高温により死亡した」と発表を訂正しました。

バルスとリシチカ

バルス（Барс）とリシチカ（Лисичка）は、1960年7月28日にロケットに搭乗しましたが、打ち上げ後28.5秒でロケットが爆発し、命を落としました。

ベルカとストレルカ

ベルカ（Белка）とストレルカ（Стрелка）は、1960年8月19日にスプートニク5号に搭乗し、宇宙で1日を過ごした後、無事に地球に帰還しました。これは、地球軌道を周回して生還した最初の生物となりました。彼らはウサギ1匹、ネズミ42匹、ラット2匹、ハエ、そして多くの植物や菌類と共に宇宙へ行き、すべて生きて帰還しました。ストレルカは、その後、プショーク（Пушок）というオス犬との間に6匹の子犬をもうけました。そのうちの1匹はプシンカ（Пушинка）と名付けられ、1961年にニキータ・フルシチョフからジョン・F・ケネディの娘キャロライン・ケネディに贈られました。贈呈の際、プシンカはソ連のスパイではないことを確認するために厳重な検査を受けました。冷戦のさなか、プシンカとケネディ家の愛犬チャーリーは4匹の子犬をもうけました。プシンカの子孫は2007年時点でも確認されています。

プチョールカとムーシュカ

プチョールカ（Пчёлка）とムーシュカ（Мушка）はスプートニク6号に乗り、植物や昆虫とともに1960年12月1日に地球軌道上で1日を過ごしました。しかし、誘導の失敗により12月2日の再突入に失敗し、すべての生物が命を落としました。ムーシュカは、スプートニク2号の訓練を受けた3匹の犬のうちの1匹でした。

チェルヌーシュカ

チェルヌーシュカ（Чернушка）はスプートニク9号に乗り、1961年3月9日に宇宙飛行士のダミー人形イヴァン・イヴァノヴィッチ、ネズミ、モルモットと共に地球を一周しました。イヴァンは再突入時に射出座席で脱出しパラシュートで着陸しました。チェルヌーシュカはカプセルに乗ったまま無事に地球に帰還しました。

ズヴョズダチカ

ユーリイ・ガガーリンによって名付けられたズヴョズダチカ（Звёздочка）は、ダミー人形と共にスプートニク10号で1961年3月25日に地球を一周しました。これは、4月12日にガガーリンが歴史的な飛行を成功させる前の最後の飛行となりました。今回もダミーはパラシュートで、ズヴョズダチカはカプセルのままで両方とも無事に帰還しました。

ヴェテロクとウゴリョーク

ヴェテロク（Ветерок）とウゴリョーク（Уголёк）はボスホート計画のコスモス110号に乗り、1966年2月22日から3月16日までの22日間を軌道上で過ごしました。これは1973年6月にスカイラブで26日間を過ごしたピート・コンラッド他2人に破られるまで、生物の宇宙滞在の最長記録であり、現在でも犬の宇宙滞在最長記録となっています。

大衆文化におけるソ連の宇宙犬

“Space Race” での描写

米ソの宇宙開発競争を描いたテレビドラマ『宇宙へ〜冷戦と二人の天才〜』では、生還の見込みが低い状況で犬を宇宙へ送ることに対し、西側諸国の動物愛護団体からの厳しい批判があったことが描かれています。このような批判が政治的決定に影響を与えることはなかったものの、R-7ロケットによる打ち上げ実験の際、ソ連の技術者が西側の動物保護団体の批判を気にしていた場面がありました。

MCU版

マーベル・シネマティック・ユニバース（MCU）では、コスモ（Cosmo）という名前で登場し、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ではフレッドが、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーホリデー・スペシャル』以降はスレートが演じ、マリア・バカローヴァが声を担当し、日本語吹替版では悠木碧が声を担当しています。

キャラクター像

白い宇宙服とヘルメットを身に着けたメスの宇宙犬。以前はタニリーア・ティヴァン/コレクターのコレクションの一つでしたが、現在は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」の一員となっています。

変異体

“アース21818”に存在するコスモの“変異体”も登場しており、正史のコスモと同様にタニリーア・ティヴァンのコレクションの一つとして扱われています。

能力

コスモはテレキネシス能力を持つとされています。

各作品における描写・活躍

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
MCU初登場。ティヴァンのショップのカプセルにコレクションとして保管されていましたが、ロケットと遭遇し、お互いに威嚇しあう様子を見せました。その後、ショップが爆発した際に逃げ出したと思われましたが、ポストクレジットシーンではティヴァンの顔を舐める様子が描かれました。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』
エンドロールの中の映像にのみ登場しました。
『ホワット・イフ...?』シーズン1第2話
アース21818におけるコスモが登場しました。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーホリデー・スペシャル』
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』

ソ連の宇宙犬