タカ航空110便緊急着陸事故

1988年 5月24日、タカ航空（現アビアンカ・エルサルバドル）の110便は、ベリーズからアメリカ・ニューオーリンズへ向かう途中、激しい雷雨に見舞われ、両エンジンが停止するという危機に直面しました。この事故は、航空機の安全性に関する重要な教訓と、その後の技術革新に繋がる出来事となりました。

事故概要

タカ航空110便は、ボーイング737-3T0型機（機体記号：N75356）で運航されていました。乗員は機長（当時29歳）、副操縦士、飛行教官の3名、客室乗務員4名、そして乗客38名の計45名が搭乗していました。機長は過去に内戦で負傷し左目を失っていましたが、その経験は後の緊急事態においても冷静な判断を下す上で重要な役割を果たしました。

機材履歴

事故機は、1988年1月26日に初飛行し、タカ航空に引き渡されるまで約2週間しか経っていませんでした。この機体は、ボーイング737型機として1505番目に製造され、ポラリス・エアクラフト・リーシングを経てタカ航空にリースされました。その後、1989年から1995年の間にアビアテカ、アメリカウエスト航空、モリスエア、サウスウエスト航空へと所有者が変わり、2016年12月に退役するまで、各航空会社で活躍しました。

事故発生

110便は、通常通りベリーズシティの空港を離陸し、メキシコ湾上を飛行していました。高度11,000mから降下中、機長と副操縦士は気象レーダーで降雨域を確認。予定経路の両側に豪雨を示す赤いセルを捉えていましたが、機体は高度9,100mで雲中に入りました。操縦士は、降雨と着氷によるエンジン停止を防ぐため、「連続点火システム」と着氷防止装置を作動させました。

しかし、高度5,000mを通過する際、両エンジンが突然停止。機体は推力と電力を失い、滑空状態となりました。その後、補助動力装置（APU）が起動し電力が回復、ウインドミルスタートやエンジンスターターによるエンジン再始動を試みましたが、推力は十分には回復しませんでした。燃焼加速を試みるも、エンジンが過熱したため、更なる故障を避けるために停止せざるを得ませんでした。

緊急着陸

管制塔は高速道路への着陸を勧告しましたが、過去の航空事故を考慮し、操縦士はこれを拒否。結果、ニューオーリンズ東部のミシューにある川への着水を試みることになりました。幸運にも、その近くにNASAミシュー組立施設の草地の堤防を発見し、操縦士は機体を安全に着陸させることに成功。乗員乗客全員が無事でした。

事故調査と原因

国家運輸安全委員会（NTSB）の調査によると、110便が遭遇した雷雨はレベル4であり、この状況下での両エンジン停止は、降雨の吸入に関するFAAの基準がエンジンの全開状態を想定していたため、エンジンの出力が弱められていた110便では、降水量と雹がフレームアウトを招いたことが原因だと結論づけられました。また、第2エンジンは過熱により破損していました。

当初、機体を解体して輸送する計画でしたが、事故調査中に機体が沈み始めたため、ボーイングの技術者とテストパイロットが現地でエンジンを交換。最小限の燃料を搭載し、舗装された道路から離陸させ、近隣の空港へ回送しました。

事故後の対応

この事故を受け、CFMインターナショナルは、CFM56エンジンに、豪雨や雹などの気象状況下でもガスタービンを連続点火させるセンサーを追加するなどの改良を行いました。また、エンジンノーズコーンやファンブレードの間隔、そして与圧ドアの改良も加えられ、エンジンからの水排出能力が向上しました。

その後

事故機の機長は、2023年9月1日に49年間のパイロットとしてのキャリアを終えました。この事故は、航空安全の重要性を再認識させる出来事として、映像化もされています。

映像化

メーデー!:航空機事故の真実と真相第9シーズン第12話「NOWHERE TO LAND」
世界衝撃映像100連発カメラが見た劇的瞬間 2016年2月10日放送
世界まる見え!テレビ特捜部 2024年6月10日放送

関連事項

この事故は、以下の航空事故とも比較されることがあります。

サザン航空242便墜落事故
リーブ・アリューシャン航空69便不時着事故
スカンジナビア航空751便不時着事故
ガルーダ・インドネシア航空421便不時着事故
CFMインターナショナル CFM56（当該機に使用されていたエンジン）

外部リンク

Air & Space Magazine
Description of the NASA Michoud Facility and Air Traffic Controller's account of the event

タカ航空110便の緊急着陸事故は、パイロットの冷静な判断と卓越した操縦技術によって、乗員乗客全員が無事に生還するという奇跡的な結末を迎えました。この事故は、航空機エンジンの設計における重要な教訓となり、その後の航空安全に大きく貢献しました。

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