タンボラ山

タンボラ山：人類史上最大規模の噴火とその後

インドネシア中南部、スンバワ島に位置するタンボラ山は、標高2,851メートルの成層火山です。スンバワ島の北部に広がるサンガル半島の大部分を占め、山頂には直径約6キロメートル、深さ約600メートルの巨大なカルデラが存在します。この火山は、1815年に発生した、記録に残る人類史上最大規模の噴火で知られています。

地理と生態系

タンボラ山は、フローレス海に突き出したサンガル半島にあり、南側にはサーレ湾が広がっています。湾口にはモヨ島とサトンダ島という小さな島々が点在しています。この地域は、多様な生態系を有しており、マングローブ林、海岸、低地から山岳地帯までの森林、そしてサバナなど、5種類の環境が見られます。サーレ湾のマングローブ林には、ジュゴンやイルカが生息し、モヨ島とサトンダ島周辺海域には、30種以上の鳥類（コバタン、オーストラリアツカツクリなど）、ルサジカ、イノシシ、カニクイザルなどの哺乳類、そしてアミメニシキヘビなどの爬虫類が生息する豊かな自然環境が保たれています。この地域の生態系の価値が認められ、2019年にはユネスコの生物圏保護区に指定されました。

1815年の大噴火とその影響

1812年から火山活動が始まり、1815年4月10日から12日にかけて、タンボラ山は凄まじい大噴火を起こしました。その爆発音は1,750キロメートルも離れた場所で聞こえ、500キロメートル離れたマドゥラ島では、火山灰によって3日間も暗闇が続いたと言われています。噴火によって、高さ3,900メートルあった山頂は2,851メートルにまで低くなり、面積約30平方キロメートル、深さ1,300メートルの巨大な火口が形成されました。噴出物の総量は150立方キロメートルにも達し、半径約1,000キロメートルの範囲に火山灰が降り注ぎました。

この大噴火は、地球規模の気象変動をもたらしました。火山灰によって農作物が壊滅的な被害を受け、世界各地で異常な夕焼けが観測されました。1815年の夏は異常に低温となり、アメリカ北東部では6月まで雪や霜が降り、イギリスやスカンディナビアでは長雨が続きました。異常低温による不作と食糧不足は、社会不安を引き起こしました。翌1816年は「夏のない年」と呼ばれ、世界的に深刻な影響が出ました。

フランスの作家ヴィクトル・ユーゴーは『レ・ミゼラブル』で、イギリスの作家メアリー・シェリーは『フランケンシュタイン』で、それぞれこの時の異常気象について言及しています。タンボラ山の大噴火は、スンバワ島中心集落の壊滅をもたらし、直接的な死者は1万人に上り、飢饉や疫病なども含めると7万人から12万人の犠牲者が出たと推定されています。また、この噴火によって、タンボラ地方で話されていたタンボラ語も消滅しました。現在、タンボラ山では火口底の噴気活動のみが確認されています。世界的に1.7℃の気温低下が見られ、スイスなどでは深刻な飢饉が発生しました。しかし、1810年から10年間の地球の平均気温は0.5℃低かったことが判明しており、この異常気象の原因をタンボラ山以外の噴火とする説もあります。最新の調査では、1809年頃に、タンボラ山噴火の半分程度の規模の噴火が熱帯地方で発生した可能性が示唆されています。

タンボラ山の現在

現在、タンボラ山は活火山として、その噴火の歴史と自然環境の両面から注目を集めています。大噴火から200年以上が経過した現在でも、その影響は世界の歴史に刻まれ、自然災害の脅威と地球環境の脆さを私たちに教えてくれています。

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