ディニス1世 (ポルトガル王)

ディニス1世：ポルトガルを築いた農民王

ディニス1世（1261年 - 1325年）は、ポルトガル史上重要な君主の一人であり、「農民王」として知られています。彼の治世は、政治、経済、文化の各方面にわたる改革によって特徴づけられ、ポルトガルの国家基盤を強固なものとしました。

生涯

ディニス1世は、アフォンソ3世とベアトリス・デ・カスティーリャの息子として生まれました。幼少期には、アルガルヴェ地方の領有権問題が浮上しましたが、父王と外祖父の尽力により、最終的にポルトガル領として確定しました。1279年に即位すると、王権強化と国内の安定に力を注ぎました。

王権強化と貴族・聖職者の抑制

ディニス1世は、王領検地を繰り返し行い、土地台帳を作成することで、貴族の領主裁判権を制限し、相続を再確認することで王権を強化しました。教会との関係においては、1289年に妥協が成立し、安定した関係を築きました。

文化振興

ディニス1世は、公文書をラテン語からポルトガル語に改め、コインブラ大学の前身であるエストゥード・ジェラルを創設しました。これにより、ポルトガル語の普及と学術の発展を促進し、文化の基盤を築きました。また、自身も詩人として100以上の作品を残し、ポルトガル文学の発展に貢献しました。

経済発展

ディニス1世は、農業、漁業、商業の各分野において、積極的な政策を推進しました。貴族に土地の耕作を奨励し、沼沢地の干拓や荒地の開墾を奨励しました。レイリアの海岸には防風林として松を植えさせ、後の大航海時代におけるポルトガル船の建造に貢献しました。漁業では、捕鯨とマグロ漁を奨励し、イングランド領海での出漁権を獲得しました。商業においては、課税免除の「自由市」を設け、国内交易を促進しました。また、外国貿易にも力を入れ、フランドル、フランス、イングランド、イタリアとの貿易を振興しました。ジェノヴァから航海技術者を招き、ポルトガル海軍を創設し、海上保険を創設するなど、海運の発展にも尽力しました。

騎士団への対応

ディニス1世は、国内の騎士修道会にも積極的に関与しました。サンティアゴ騎士団をカスティーリャから分離させ、ポルトガル国内のレコンキスタに貢献させました。テンプル騎士団が解散された際には、その財産をイエス・キリスト騎士団に譲り受けさせ、後の大航海時代における探検航海の資金源としました。

国内の反乱と王妃イザベルの仲裁

治世中、ディニス1世は弟アフォンソの反乱に直面しました。王位継承権を主張するアフォンソは、3度にわたり反乱を起こしましたが、いずれも失敗に終わりました。晩年には、王子アフォンソ（後のアフォンソ4世）が譲位を迫り、反乱を起こしましたが、王妃イザベルの仲裁により和解しました。

王妃イザベル

ディニス1世の王妃イザベルは、慈悲深く、国民への奉仕を怠らなかったことで知られています。彼女は、貧しい人々にパンを配るなどの慈善活動を行い、国民から深く愛されました。その徳の高さから、後に聖人として認定されました。

子女

ディニス1世は、王妃イザベルとの間に、コンスタンサとアフォンソ4世をもうけました。また、複数の愛妾との間に数多くの庶子をもうけました。

参考文献

A.H.デ・オリヴェイラ・マルケス著、金七紀男訳『世界の教科書=歴史010 ポルトガル 1』ほるぷ出版、1981年。
安部真穏『波乱万丈のポルトガル史』泰流社（泰流選書）、1994年。
合田昌史「ポルトガルの誕生」『新版世界各国史16 スペイン・ポルトガル史』収録。立石博高編、山川出版社、2000年。
金七紀男『ポルトガル史（増補新版）』彩流社、2010年。

関連項目

カルモ修道院
ヴィラ・レアル
トマール
シントラ宮殿
* オリベンサ

ディニス1世は、ポルトガルに安定と繁栄をもたらし、文化の発展に貢献した名君として、歴史に名を刻んでいます。彼の治世は、ポルトガルの国家基盤を確立し、後の大航海時代へと繋がる礎となりました。

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