デルタ・ブルース

デルタ・ブルース：ミシシッピの魂が響く音楽

デルタ・ブルースは、アメリカ合衆国南部のミシシッピ川流域、特にミシシッピ・デルタ地帯やテネシー州メンフィス周辺で誕生した、初期のブルース音楽です。この音楽は、アフリカ系アメリカ人の苦悩や喜び、希望を表現する手段として生まれました。ギターとハーモニカが主な楽器として使われ、魂を揺さぶるような激しいボーカルスタイルが特徴です。そのルーツは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのミシシッピ・デルタ地域における、アフリカ系アメリカ人の過酷な生活環境と深く結びついています。

デルタ・ブルースの誕生と発展

1920年代から、初期のデルタ・ブルースの録音が始まりました。当時の録音は、多くの場合、一人のミュージシャンがギターを弾きながら歌うスタイルでした。初期の代表的なミュージシャンとしては、チャーリー・パットンやロバート・ジョンソンが挙げられます。彼らの音楽は、深い悲しみと、それを乗り越えようとする強い意志が感じられます。また、ビッグ・ジョー・ウィリアムズ、ロバート・ウィルキンス、トミー・ジョンソンなども、この時期に活躍しました。

南北戦争後、奴隷制度から解放されたアフリカ系アメリカ人たちは、季節労働者としてミシシッピ川流域を移動する生活を送っていました。デルタ・ブルースのミュージシャンたちも例外ではなく、各地を旅しながら音楽を演奏しました。その結果、デルタ・ブルースはミシシッピを越え、南部各地へと広がっていきました。スキップ・ジェームスやエルモア・ジェームスなど、デルタ地域出身ではないミュージシャンも現れ、その影響力の大きさを物語っています。

デルタ・ブルースから派生した音楽

時代が進むにつれて、デルタ・ブルースはアメリカ全土へと広がっていきました。特に、多くのアフリカ系アメリカ人が移住したシカゴやデトロイトなどの北部都市では、エレクトリック・ブルース（シカゴ・ブルース）へと進化しました。マディ・ウォーターズなどは、デルタ・ブルースからシカゴ・ブルースへの移行を代表するミュージシャンです。音楽的なルーツは同じですが、楽器や演奏スタイルに変化が見られます。

デルタ・ブルースの音楽的特徴

初期のデルタ・ブルースと、戦後の北部都市ブルースの間には、音楽的な違いがあるかどうかについて、学者や研究者の間でも意見が分かれています。確かに、基本的なハーモニー構造（ブルー・ノート・スケールやスリー・コードなど）は共通しています。しかし、アコースティックギターのシンプルな奏法や、リズムを強調したスタイルは、デルタ・ブルースならではの特徴と言えるでしょう。また、歌詞の内容も、奴隷制度や差別の歴史、そしてそこから生まれる人間の感情を反映しているものが多いです。

デルタ・ブルースと社会背景

1920年代のミシシッピ・デルタ地域では、白人の農場主による黒人への差別的な扱いは続いていました。デルタ・ブルースのシンガーの中には、準奴隷的な環境から逃れてきた者もおり、その経験がデルタ・ブルース独自の文化を形成する要因の一つとなりました。彼らは、音楽を通じて不当な社会への抵抗を表現しました。

逃亡や反乱を企てた人々は、「パーチマン農場」と呼ばれる刑務所に収監されました。Bukka Whiteやレッドベリーなどのアーティストは、この刑務所での経験を歌にしています。ブルースは、社会のメインストリームではないサブカルチャー、そしてカウンターカルチャー的な音楽の初期の例であると言えるでしょう。

デルタ・ブルースの代表的なミュージシャン

ロバート・ジョンソン
チャーリー・パットン
サン・ハウス
ブッカ・ホワイト
スキップ・ジェームス
エルモア・ジェームス
マディ・ウォーターズ
ビッグ・ビル・ブルーンジー

カントリー・ブルースのミュージシャン

ブラインド・ブレイク
ブラインド・レモン・ジェファーソン
ブラインド・ウィリー・ジョンソン
ブラインド・ウィリー・マクテル
ブラインド・ボーイ・フラー
トミー・ジョンソン
リロイ・カー
ロバート・ナイトホーク
ロバート・ロックウッド・ジュニア
ロバート・ウィルキンス

デルタ・ブルースは、単なる音楽ジャンルを超え、アメリカの歴史、社会、文化を映し出す鏡です。その魂を揺さぶる音楽は、今もなお多くの人々に愛され、影響を与え続けています。

外部リンク

Trail of the Hellhound – Delta Blues in the lower Mississippi Valley
The Mississippi Delta Blues Society of Indianola
* The Blues - マーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー

もう一度検索

デルタ・ブルース