トウシキミ

トウシキミ：星形の実と芳醇な香りをもつ植物

トウシキミ（唐樒、学名：Illicium verum）は、マツブサ科シキミ属に分類される常緑樹です。高さは最大15メートルにも達し、卵形から楕円形の革質の葉をつけます。3～5月と8～10月には、多数の花弁を持つ赤みを帯びた花を咲かせ、9～10月と3～4月には独特の星形をした果実を実らせます。この果実は、乾燥させて香辛料や生薬として利用されます。

特徴的な形態と芳香

トウシキミの葉は枝先に集まってつき、葉柄の長さは0.8～2センチ[[メートル]]、葉身は5～15センチ[[メートル]]×2～5センチ[[メートル]]の大きさです。葉脈は表側でやや凹んでおり、側脈は5～8対ありますが、目立たないこともあります。花は葉の付け根から伸びる花柄の先につき、花弁は7～12枚、ピンク色から暗赤色で広楕円形または広卵形をしています。雄しべは11～20個、雌しべは離生心皮で7～11個あります。

果実は直径3～3.5センチ[[メートル]]の集合袋果で、熟すと木質化して茶褐色になります。それぞれの袋果の中には、光沢のある茶色の扁球形の種子が1個ずつ入っています。この果実全体、または粉末にして利用されます。

芳香成分とシキミ酸

トウシキミの果実には、5～10％の精油が含まれており、その主成分はアネトールです。アネトールは精油成分の80～90％を占め、他にエストラゴール、メチルカビコール、シネオール、リモネン、フェランドレン、ピネンなどが含まれています。

トウシキミは、シキミ酸を多く含むことでも知られています。シキミ酸は植物界に広く存在する物質ですが、特にシキミ属植物に多く含まれます。このシキミ酸は、インフルエンザ治療薬オセルタミビル（タミフル）の合成原料として使われていました。しかし、シキミ酸自体にインフルエンザ治療効果はありません。2005年には遺伝子組み換え大腸菌によるシキミ酸生産技術が開発され、トウシキミへの依存度は大きく低下しました。

分布と生育環境

トウシキミは中国南東部からベトナム北部にかけて自生し、フィリピン、インドシナ半島、インド南部などでも栽培されています。平均気温20～22℃、年間降水量1200～1500ミリ[[メートル]]の地域に生育します。古くから栽培されているため、正確な原産地は不明です。

人間との関わり：香辛料、生薬、そして文化

名称と用途

トウシキミの果実は、8つの角を持つ星形をしていることから「八角」と呼ばれ、アニスに似た風味から「スターアニス」とも呼ばれます。ウイキョウに似た風味もあることから「八角茴香」や「大茴香」という別名もあります。トウシキミの枝葉や果実から抽出された精油は「ダイウイキョウ油」と呼ばれ、日本薬局方ではウイキョウの精油と区別なく「ウイキョウ油」として扱われています。

栽培

トウシキミは紀元前2000年頃から栽培されていると推定されています。現在では中国が世界最大の生産国で、生産量の80％を占めています。実生または挿し木で栽培され、収穫は植栽後9～10年目から80年頃まで続きます。中国では1年に2回、9～10月と3～4月に収穫されます。

香辛料としての利用

八角は、中華料理で広く使われる代表的な香辛料です。東坡肉、北京ダック、杏仁豆腐など、様々な料理に使用され、五香粉の材料にも含まれています。中華料理以外にも、インド料理、東南アジア料理など、世界各地の料理で使われています。また、リキュールにも使われます。

生薬としての利用

トウシキミの果実は生薬として「大茴香」と呼ばれ、芳香性健胃薬、駆風薬、鎮痛薬として用いられます。漢方薬の思仙散にも配合されています。

その他の利用

果実から抽出した香料は、香水、石鹸、歯磨き粉、タバコなどにも使用されます。樹皮も香料として利用されます。また、クリスマスリースやポプリの材料、観賞植物としても用いられています。

トウシキミとシキミ：有毒種との違い

トウシキミとよく似た植物にシキミがあります。シキミは日本に自生する植物で、果実はトウシキミと似ていますが、猛毒のアニサチンを含んでおり、食用には絶対に適しません。仏事には使われますが、間違って食べないように注意が必要です。

シキミ属には有毒種が多く存在し、トウシキミ以外の種にも注意が必要です。

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