トヨタ・ヤリスWRC

トヨタヤリスWRC：WRCを席巻したトヨタの挑戦

[トヨタ自動車]]は、1999年以来18年ぶりに2017年から[[世界ラリー選手権]へ復帰を果たしました。そのために開発されたのが、競技専用車「ヤリスWRC」です。本記事では、ヤリスWRCの開発から参戦、そしてその活躍までを詳しく解説します。

復活への道のり：WRC復帰までの歩み

トヨタのWRC復帰は、F1撤退後の2010年から噂され始めました。TMG（現TGR-E）によるWRCやIRCの視察、そしてカスタマー向けラリーカー販売の可能性を示唆する発言などが、復帰への期待感を高めていきました。

2011年末には、TRDが製作したヴィッツ(ヤリスの日本名)のグループR1B車両がお披露目され、WRC復帰への現実味が帯びてきました。2012年にはTMGがエントリーレベルでの復帰を宣言し、グループR1A車両を発売。さらに、WRCのエンジン規格であるGRE(グローバル・レース・エンジン)の開発に着手、スーパー2000規定のシャシーも開発しました。2013年には、GREとハイブリッドシステムを搭載した「ヤリス ハイブリッド-R コンセプト」を発表しています。

2014年にはヤリスWRCのテストカーが登場。ステファン・サラザン、セバスチャン・リンドホルム、エリック・カミリらがテストドライバーを務め、欧州各地でテスト走行を行いました。同時期、トヨタ自動車社長の豊田章男がラリーに興味を持ち参戦開始。WRC4度王者のトミ・マキネンから直接指導を受けるなど、WRC参戦への強い意志を示しました。

そして2015年1月、トヨタは2017年からWRC復帰を正式表明。フィンランドのTMR(トミ・マキネン・レーシング)を開発拠点、ドイツのTMGをエンジン開発拠点と決定。経験豊富なエンジニアを迎え入れ、開発は本格的に始まりました。同年12月には、TOYOTA GAZOO Racing WRT(World Rally Team)の体制が発表され、豊田章男が総代表、トミ・マキネンがチーム代表に就任しました。2016年にはシェイクダウンを行い、2017年シーズン開幕までに12,000マイルのテスト走行を実施しました。

参戦体制：トヨタとトミ・マキネンのタッグ

チームオペレーションとWRカー開発の大部分は、TMRが担いました。拠点はマキネンの故郷であるフィンランドのプーポラ村。地元企業との連携により、部品調達もスムーズに進みました。当初はトヨタ内部からマキネンへの反発もあったものの、豊田章男の決意とマキネンとの信頼関係によって、この体制が実現しました。

人材は10か国以上から集められ、日本人スタッフは1割ほどでした。マキネンは、「責任」、「透明性」、「信頼」の3つを重視し、チーム作りを進めました。エンジン開発はTMGの青木徳生が率い、空力開発もTMGの風洞設備で行われました。また、ベース車両である市販車の性能も開発に大きく影響を与え、日本本社との連携も密に行われました。マイクロソフトをテクノロジーパートナーとして迎え、データ解析や情報共有にも力を入れました。

メカニズム：ヤリスWRCの技術

ボディワーク

ボディ形状は3ドアハッチバック。市販車のデザインイメージを踏襲しつつ、空力性能を重視したデザインとなっています。楕円形のトヨタエンブレムはエンジン吸気口として機能します。フロントバンパー、カナード、サイドミラーステーなど、ダウンフォースの発生を促進する空力デバイスが数多く採用されています。リアには大型リアウィングやディフューザーを装備し、アグレッシブなリアビューを演出しています。

2017年モデルは、高温環境下でのオーバーヒートや空力バランスの課題がありましたが、2018年モデルではこれらの問題が改善されました。

エンジン

TMG製のGRE(グローバル・レース・エンジン)を搭載。1600cc直列4気筒直噴ターボエンジンで、最高出力380馬力以上、最大トルク425Nm以上を発生します。矢嶋洋、青木徳生ら、F1エンジン開発経験者によって開発されました。参戦前には、マキネンのリクエストにより設計を3回作り直すなど、開発には多くの努力が費やされました。

その他

Xtrac製の6速シーケンシャルセミATトランスミッション、フルタイム4WD、BOS製のサスペンションなど、高性能なパーツが使用されています。一部には市販車のヤリスのパーツも使用されています。

戦績：輝かしい勝利の数々

2017年

ドライバーは、ヤリ-マティ・ラトバラ、ユホ・ハンニネン、エサペッカ・ラッピの3人が務めました。開幕戦モンテカルロでラトバラが2位入賞、第2戦スウェーデンで優勝を果たすなど、好成績を収めました。第9戦ラリー・フィンランドではラッピが初優勝、ハンニネンが3位入賞しました。シーズン終了後、オィット・タナックを獲得しました。

2018年

開幕戦モンテカルロではタナックとラトバラが2-3位でフィニッシュ。第5戦ラリー・アルゼンチンでタナックが初優勝を果たしました。ラリー・フィンランド、ラリー・ドイチェランド、ラリー・オブ・ターキーと3連勝を飾るなど活躍を見せ、マニュファクチャラーズタイトルを獲得しました。

2019年

クリス・ミークが新たに加入しました。タナックが6勝を挙げ、ドライバーズタイトルを獲得しました。しかし、マニュファクチャラーズタイトルはヒュンダイに奪われました。シーズン終了後、タナックがトヨタを離脱しました。

2020年

ドライバーラインナップを刷新。セバスチャン・オジェ、エルフィン・エヴァンス、カッレ・ロバンペラが加入しました。オジェがチームメイト対決を制し、ドライバーズチャンピオンを獲得しました。

2021年

ヤリ-マティ・ラトバラがチーム代表に就任。マシンは従来モデルのアップデート版を使用しました。ドライバーズ、コドライバーズ、マニュファクチャラーズの3部門制覇を果たしました。ロバンペラが最年少優勝記録を更新し、勝田貴元がサファリラリーで2位入賞を果たしました。2022年からは「ラリー1」規定が導入されるため、ヤリスWRCは役目を終えました。

ヤリスWRCは、トヨタのWRC復帰を象徴するマシンとして、数々の勝利とタイトルを獲得し、WRCの歴史に大きな足跡を残しました。その革新的なデザインと高い戦闘力は、後発メーカーでありながらトップカテゴリーで戦えることを証明しました。

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