ナクシェ・ロスタム

ナクシェ・ルスタム：古代ペルシアの記憶を刻む岩壁

ナクシェ・ルスタムは、イランのペルセポリス近郊に位置する、巨大な岩壁に古代の歴史が刻まれた遺跡です。その名は「ロスタムの絵」を意味し、かつて岩壁のレリーフが英雄ロスタムの物語を描いたものと信じられていたことに由来します。この遺跡には、アケメネス朝時代の王墓群と、サーサーン朝時代のレリーフ群が共存し、古代ペルシアの栄華を今に伝えています。

アケメネス朝の王墓

岩壁の高い位置には、十字形に彫られた4つの墓が並んでいます。これらはアケメネス朝の王たちの墓であり、墓誌銘からダレイオス1世の墓であることが特定されています。残りの墓は、クセルクセス1世、アルタクセルクセス1世、ダレイオス2世のものと考えられています。

ダレイオス1世の墓には、古代ペルシア語、エラム語、アッカド語の3つの言語で碑文が刻まれており、これはベヒストゥン碑文と並ぶ、古代ペルシアの重要な碑文の一つです。セレウコス朝時代には、さらにアラム語の刻文が追加されました。これらの碑文は、古代ペルシアの言語や文化、歴史を解き明かす上で貴重な資料となっています。

カアバイェ・ザルトシュト

岩壁の近くには、カアバイェ・ザルトシュト（ザラスシュトラの立方体）と呼ばれる、アケメネス朝時代の巨大な建造物があります。その用途は未だ謎に包まれていますが、神殿や火壇として使われたとする説があります。

この建造物の外側の3面には、サーサーン朝のシャープール1世の事績が刻まれています。北側がギリシア語、東側がパフラヴィー語、西側がパルティア語で、それぞれ同じ内容が記述されており、当時の国際的な情報伝達の様子を伺い知ることができます。

シャープール1世の碑文には、ローマ皇帝ゴルディアヌス3世との戦い、そしてフィリップスとの和平交渉について記されています。ローマ側の史料には記録されていないマッシナの戦いや、ゴルディアヌス3世の死に関する記述は、アジアとヨーロッパの関係史を理解する上で非常に重要な情報源となっています。

サーサーン朝のレリーフ

ナクシェ・ルスタムには、サーサーン朝時代の王たちが勝利の場面を描いたレリーフが数多く残されています。これらのレリーフは、サーサーン朝の王権の象徴であり、その軍事的な成功を誇示するものでした。

これらのレリーフは、当時の衣装や武器、戦術を知る上でも貴重な資料であり、サーサーン朝の文化や社会を研究する上で欠かせない存在となっています。

ナクシェ・ルスタムは、アケメネス朝とサーサーン朝という、古代ペルシアの二つの王朝の歴史が交錯する場所です。その岩壁に刻まれた文字やレリーフは、数千年の時を超えて、私たちに古代文明の息吹を伝えてくれます。

参考文献
* The Ancients in Their Own Words - Michael Kerrigan、Natascha Spargo、Joe Conngally、 Michael Spilling, 2010

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