ニネヴェの戦い (紀元前612年)

ニネヴェの戦い：古代オリエントの転換点

紀元前612年に起こったニネヴェの戦いは、新アッシリア帝国の首都ニネヴェ（現在のイラク、モースル市対岸）を舞台に、メディア、カルデア、バビロニアなどの連合軍とアッシリア帝国軍が激突した戦いです。この戦いの結果、ニネヴェは徹底的に破壊され、新アッシリア帝国は滅亡へと向かい、古代オリエントの覇権が変動する大きな転換点となりました。

戦いの背景

新アッシリア帝国は、紀元前10世紀に中アッシリア帝国の後を継いで台頭し、紀元前8世紀から7世紀にかけて最盛期を迎えました。アッシュールバニパル王の時代には、帝国はその版図をコーカサス山脈からエジプト、アラビア、ヌビア、そしてペルシアからキプロス、レバントにまで広げ、その支配下には多くの国や都市国家が存在しました。

しかし、アッシュールバニパル王が紀元前627年に亡くなると、その支配体制は徐々に不安定化しました。長年の圧政に不満を抱いていたメディア、ペルシア、バビロニア、カルデア、スキタイ、キンメリアといった周辺勢力は、アッシリアへの敵意を強め、反アッシリアの動きを活発化させます。アッシリアの支配は残虐であり、常に周辺勢力からの反発を招いていました。また、帝国の中心部では比較的平和が保たれていましたが、エジプト、エラム、バビロニアなどとの緊張状態は常に存在し、宮廷内での陰謀や内戦、反乱の火種が絶えませんでした。

アッシュールバニパル王の死後、後継者争いによって帝国は弱体化し、紀元前625年以降、中東、小アジア、コーカサス、レバントにおける支配力が揺らぎ始めます。その混乱に乗じて、バビロニアで勢力を拡大したカルデア人が反アッシリア連合を形成し、新バビロニア王国がアッシリアの打倒と首都ニネヴェの攻略を目指します。ニネヴェは政治的な中心地であるだけでなく、アッシュールバニパルの図書館が存在し、オリエント中の富が集まる重要な都市でした。

戦闘の経過

紀元前625年、カルデア属州総督ナボポラッサルがアッシリアに反旗を翻し、バビロンの建国を宣言しました。その後12年に及ぶ内戦の末、ナボポラッサルはアッシリア軍を破り、ティグリス川を遡上してアッシリアの諸都市を略奪しました。アッシリア軍も反撃を試みましたが、バビロニア軍の勢いを止めることはできませんでした。

バビロニアはメディア、ペルシア、キンメリア、スキタイと同盟を結び、ニネヴェ攻略に向け準備を進めます。紀元前612年、連合軍はニネヴェ近くまで侵攻し、アッシュールを攻撃し、神殿を破壊しました。その後、連合軍はニネヴェを包囲し、3ヶ月に及ぶ攻城戦の末、城壁を突破し、市街へと突入します。アッシリア王シン・シャル・イシュクンは戦死したとみられ、残存兵は逃走しました。

歴史家ディオドロスは、攻城戦中にティグリス川が氾濫し、ニネヴェ城内に流れ込んだことが、連合軍の侵攻を助けたと伝えています。また、旧約聖書の「ナホム書」には、ニネヴェの戦いが1ヶ月に及ぶ激しい市街戦だったと記されています。連合軍はニネヴェを徹底的に略奪、破壊し、この都市は灰燼に帰しました。

戦後の影響

ニネヴェ陥落は新アッシリア帝国滅亡への決定的な一撃となりました。アッシリア王族のアッシュール・ウバリト2世はハッラーンで抵抗を続けましたが、紀元前608年にハッラーンが陥落するとともにその消息は途絶え、新アッシリア帝国は完全に滅亡しました。

ニネヴェの戦いは、古代オリエントの勢力図を塗り替える出来事であり、新バビロニア王国がメソポタミアの覇権を握る新たな時代が幕を開けました。首都バビロンはニネヴェに代わりオリエントの中心となり、その繁栄は後の世にまで語り継がれています。

外部リンク

ABC 3 (Fall of Nineveh Chronicle)　（ABC 3　ニネヴェ陥落の年代記（日本語版））
The fall of Nineveh

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