ネットワークアタッチトストレージ

ネットワークアタッチトストレージ（NAS）とは

ネットワークアタッチトストレージ（NAS）は、コンピュータネットワークに直接接続して使用するファイルサーバーです。TCP/IPネットワークに接続された補助記憶装置として機能し、コントローラとハードディスクまたはソリッドステートドライブで構成されたファイルサービス専用のコンピュータです。多くの場合、OSはNAS用にチューニングまたは独自開発されたものが用いられます。

概要

NASは、ローカルエリアネットワーク（LAN）を介して複数の端末でファイルを共有するためのストレージ機器です。従来のファイルサーバーと同様の役割を持ちますが、用途を特化させることで、より高速で導入や管理が容易になるという利点があります。NASは、ファイル共有に特化したアプライアンスであると言えます。

一般的に「NAS（ナス）」と呼ばれ、カタカナ表記では「ネットワーク・アタッチド・ストレージ」と表記されることが多いです。コントローラ部分を独立させたものは、NASゲートウェイまたはNASヘッドと呼ばれることもあります。

ハードウェア

ハードディスクドライブ（HDD）

主にシリアルATA接続のHDDが利用されます。個人や小規模事業所など予算が限られる場合を除き、RAIDを構成してデータの冗長性や可用性を高めるのが一般的です。ホットスワップ可能なディスクインターフェースを使用することで、システム稼働中でもディスクの交換が可能です。

ソリッドステートドライブ（SSD）

HDDと比較して高速性や信頼性に優れるSSDを使用したNAS（オールフラッシュNAS）製品も登場しています。

CPU

NASの主な演算処理は、RAIDのパリティ計算や巡回冗長検査（CRC）です。ネットギア製のReadyNASでは、ローエンドモデルにはこれらの計算エンジンを搭載したARM SoCが、ミドルクラスにはIntel Atom、ハイエンドにはIntel Core i3が使用されています。これらの専用エンジンにより、比較的処理速度の低いSoCでも、RAIDのパリティ計算やbtrfs、iSCSIのCRC32C、dm-cryptの暗号化/復号を高速に処理できます。CPUは、これらの処理と並行してウイルススキャンなどの他のジョブを実行できます。

その他

NASは、デスクトップパソコンとは異なり、ビデオカードやキーボード、マウスなどのインターフェースが不要な設計となっています。ハイエンドモデルでは、ネットワークカードを2つ備えたり、ホットスワップ可能な複数の電源や冷却ファンを備えるなど、障害発生時のダウンタイムを低減するための機能が搭載されています。また、10ギガビット・イーサネット（10GbE）を搭載したモデルもあり、高性能コントローラやRAIDとの組み合わせにより、ネットワーク上限のスループット（400〜500MB/s）に達する製品もあります。

ソフトウェア

NASのOSには、主にLinuxやWindows Storage Serverが採用されています。OpenSolarisも使用されることがあります。メーカーからは、ネットワーク経由でバグ修正や性能・機能向上のためのアップデートが提供されます。ファイルシステムには、高性能・高信頼性が求められ、チェックサムやジャーナリング機能を持つext4、btrfs、ZFSなどが使用されます。

管理者の負担を軽減するために、様々な設定作業が自動化または簡便化されています。例えば、4ベイ（ディスク4台収納可能）のNASの場合、最初のディスクを装着すると自動的にパーティションが設定され、数分後にはファイル共有が可能になります。2台目を挿入すると自動的にRAID1が構成され、3台目を挿入するとRAID5がWebブラウザから選択可能になり、4台目にはRAID6も選択可能になるなど、設定が容易に行えます。

また、動的なウイルス検出・通知・隔離機能、DLNA機能、外出先からもアクセスできるパーソナルクラウド機能なども提供されています。ボリュームの設定や容量・温度などの監視はブラウザで行うのが基本ですが、スーパーユーザーでのログインを許可することで追加ソフトのインストールが可能な製品もあり、カスタマイズも可能です。ただし、カスタマイズはサポート対象外となることに注意が必要です。

ファイル共有プロトコル

NASは、様々なクライアントに対応するために、複数のファイル共有プロトコルを提供しています。

Network File System (NFS): Solaris、Linux、macOSなど、多くのUNIX/Unix系OSがサポートするプロトコル。WindowsでもServices for UNIXを導入することでNFSクライアントとして機能します。
Server Message Block (SMB), Common Internet File System (CIFS): Microsoft Windowsで主に利用されるプロトコル。UNIX系OSでCIFS機能を提供するSambaも広く利用されています。
Apple Filing Protocol (AFP): Classic Mac OSやmacOSで利用されるプロトコル。Unix系OSでAFP機能を提供するnetatalkも広く利用されています。
WebDAV: プラットフォームへの依存性が低いプロトコルとしてHTTPを拡張したWebDAVを備える機種もあります。
iSCSI: ファイル共有ではありませんが、ストレージエリアネットワーク(SAN)でも使えるようiSCSIを備える機種もあります。

NASとSANの違い

NASは、ストレージエリアネットワーク（SAN）に対抗して命名されましたが、ネットワークの種類、提供するストレージ形態、価格帯などの点で大きく異なります。

NAS

汎用的で安価なイーサネットを用いたLAN。
共有するのはファイル。
導入コスト・保守コストともに安価。

SAN

高価なファイバーチャネルネットワーク。
共有するのはストレージのリソースプール。遠隔にあるディスクがローカルディスクのように動作する。
ファイル共有は不可。
拡張性、セキュリティ、安定性が高い。

データベースやグループウェアなどのアプリケーションの中には、NAS上にデータを生成することを許可しないものもあります。このようなアプリケーションはSANでしか対応できません。しかし、ファイルサービスに限るとNASの方が優れている場合が多いです。SANでもディスクとファイバーネットワークを一つの筐体に収め、OSにファイルサーバー機能を持たせればNASとして利用できます。大規模なNASはSANで構成されることもあります。

ウイルスの脅威

2014年には、NASを標的としたランサムウェア「SynoLocker」が確認されました。これは、ファイルを暗号化して金銭を要求する典型的な暗号化ランサムウェアであり、Synology製NASのOS「Synology DSM」の古いバージョンに存在する脆弱性を突いたものです。エフセキュア社とSynology社は攻撃の拡大に注意を呼びかけるとともに、NAS-OS「Synology DSM」を最新版にアップデートするように促しました。

関連項目

ファイルサーバ
分散ファイルシステム
ストレージエリアネットワーク
補助記憶装置
RAID
ダイレクトアタッチトストレージ

代表的なメーカー

ASUSTOR
ネットアップ
ネットギア
EMCコーポレーション
QNAP
ヒューレット・パッカード
デル
Thecus
IBM
TerraMaster
Synology

NASに特化したOS

TrueNAS - FreeBSDベース。CIFS/SMB, FTP, NFS, rsync, iSCSI等に対応。
NASLite - Linuxベース。CIFS/SMB, FTP, NFS等に対応。
Openfiler - Linuxベース。CIFS/SMB, WebDAV, FTP, NFS, rsync, iSCSI等に対応。
OpenMediaVault - Linuxベース。CIFS/SMB, FTP, NFS, rsync, AFP等に対応。

一般家庭・SOHO向け製品

ASUSTOR
QNAP
ネットギアReadyNAS
Thecus
Link Station（バッファロー）
Tera Station（バッファロー）
玄箱
LANDISK（アイ・オー・データ機器）
LAN Tank - GLAN Tank
Windows Home Server
nasne（ソニー・インタラクティブエンタテインメントおよびバッファロー）
DiskStation
auひかりホームゲートウェイ

外部リンク

* ネットワークアタッチトストレージ - IT用語辞典 e-Words

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