ネメアーの獅子

ネメアーの獅子：ギリシア神話の怪物

ネメアーの獅子（ネメアーのしし、古希: Νεμέος λέων, Neméos léōn）は、ギリシア神話に登場する怪物であり、その強大な力と恐ろしい姿で知られています。ネメアの谷に住み着き、人々や家畜を襲ったと伝えられています。

神話における出自

ネメアーの獅子の出自については、いくつかの説が存在します。

エキドナとオルトロスの子：一般的な説では、母は怪物エキドナ、父はエキドナの子供である双頭の犬オルトロスであるとされています。
エキドナとテュポーンの子：別の説では、父は巨人テュポーンであるとされています。
セレーネーの生み出したもの：エピメニデースによれば、月の女神セレーネーが恐ろしい身震いをした際に地上に降ってきたとされています。
セレーネーが育てた：ヒュギーヌスによれば、セレーネーはネメアーの獅子を二つの入り口がある洞窟で育てたとされています。

ヘーラクレースの難行

ネメアーの獅子は、英雄ヘーラクレースが課せられた12の難行の最初の試練の対象となりました。ヘーラクレースは獅子を退治し、その毛皮を持ち帰ることを命じられました。

不死身の毛皮：ヘーラクレースは、まず矢を放ちましたが、獅子の毛皮は傷一つ付きませんでした。次に棍棒で殴りつけましたが、これも効果がありませんでした。ネメアーの獅子の毛皮は、いかなる武器も通さない不死身の力を持っていたのです。
絞殺：ヘーラクレースは、最終的に3日間かけて獅子の首を締め上げ、絞殺することに成功しました。
戦利品：ヘーラクレースは、獅子の皮を剥ぎ、その爪で引き裂き、自らの衣服としました。また、肉は食料としたと伝えられています。

星座「獅子座」

ネメアーの獅子は、その死後、動物の王としてゼウスによって天に上げられ、星座の一つである「獅子座」になったとされています。これは、ヘーラクレースの偉業を称えるとともに、ネメアーの獅子の強さを永遠に語り継ぐための措置であると考えられます。

不死の伝説

ネメアーの獅子の毛皮には、それを身にまとった者に不死を授けるという伝説も生まれました。アイスキュロスの悲劇『トラーキアの女たち』では、トロイア戦争の英雄大アイアースが幼い頃にヘーラクレースによって毛皮でくるまれ、不死を授けられたとされています。しかし、ヘーラクレースが矢筒を身に着けていたために脇腹だけ毛皮が触れず、その部分だけは不死にならなかったという逸話もあります。

生態

ネメアーの獅子は、通常のライオンよりも大柄で、洞窟を住居とするなど、その生態にはヨーロッパホラアナライオンとの共通点が多く見られます。単独で行動する習性なども、その共通点の一つです。

参考文献

『ギリシア悲劇全集10 アイスキュロス断片』「トラーキアーの女たち」逸身喜一郎訳、岩波書店（1991年）
アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫（1953年）
『ソクラテス以前哲学者断片集 第1分冊』「エピメニデス」山口義久、岩波書店（1996年）
ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫（2005年）
ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫（1984年）
木曽明子「二つのアイアース像」『西洋古典論集』第9巻、京都大学西洋古典研究会、1991年12月、1-13頁

外部リンク

エラトステネス『星座物語』11. しし座

ネメアーの獅子は、ギリシア神話において重要な役割を果たす怪物であり、その物語は、古代ギリシアの人々の想像力と英雄への憧憬を今に伝えるものです。

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