ノルディック・アビエーション・キャピタル

ノルディック・アビエーション・キャピタル (NAC)

アイルランドを拠点とする地域航空機リース専門会社であるノルディック・アビエーション・キャピタル（Nordic Aviation Capital, NAC）について説明します。同社は主にターボプロップ機の購入、販売、リースを手がけており、この分野で世界最大の規模を誇ります。世界5カ国に事務所を構え、2020年時点では500機を超える地域航空機を保有し、50カ国以上の75を超える航空会社を顧客としています。特にATR機の保有数は世界最大であり、地域航空機リース市場におけるリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。

歴史

NACは1990年、マーティン・モラー・ニールセン氏によってデンマークのスキーヴェに設立されました。設立当初は小規模でしたが、1993年にフランスの航空機メーカーであるランス・アビエーション・インダストリーズからランス-セスナ F406 キャラバンIIを30機購入したことが、その後の主要な取引の始まりとなりました。これらの機体はレンタルや転売を通じて活用されました。

2000年頃からは、30席以上のキャパシティを持つターボプロップ機に重点を置くようになり、翌2001年には初のATR 42型機を取得しました。これが、その後のATR機隊構築の礎となります。

拠点の変遷も特徴的です。2004年には本社機能をデンマークのビルン空港近くに移転すると同時に、アイルランドのシャノン空港に事務所を開設しました。さらに事業拡大に伴い、2018年には本社をアイルランドのリムリックにある新ビルへ移す計画を表明し、実行しました。これにより、アイルランドに80名、全世界で220名以上の従業員を擁する規模に成長しました。

経営の転機の一つは、2008年にレゴ創業家が運営する持株会社キアクビ(Kirkbi A/S)と共同で、ATR 72型機39機を購入し、アメリカン航空へリースしたことです。この取引から得られた収益により、同社の資産は大きく形成されました。2010年にはリースされた機体数は150機を超え、資産総額は10億ドルに達しました。

同業他社との差別化を図る動きもありました。2010年には、デンマークの投資家らが設立した航空会社ジェットタイムの株式25パーセントをニールセン氏が取得。リース会社が航空会社を所有するという、当時としては珍しいケースとなりました。ジェットタイム設立時にはNACが4機の機体を提供しています。

航空機メーカーとの大型契約も積極的に行いました。2011年にはATR 72-600型機を10機新規契約（さらに10機オプション）として受領。翌2012年にはガルーダ・インドネシア航空向けにボンバルディア CRJ NextGenを12機購入し、総保有機数は200機を突破しました。そして、2013年のパリ航空ショーでは、ATRに対し同社として過去最大となる90機の新規発注を行い、その総額は21億ドルに上りました。続く2014年のファーンボロー国際航空ショーでも、ATR 42-600型機75機の新規契約を締結するなど、ATRの主要顧客としての地位を確固たるものにしました。

資本構成にも変化がありました。2015年8月には、スウェーデンの投資ファンドであるEQTパートナーズがNAC株式の半数を取得。EQTおよびキアクビとの提携体制となりました。創業者のニールセン氏は株式売却で大きな利益を得ましたが、引き続き取締役会長として経営に携わりました。また、同時期に米国の航空機リース会社エア・リース・コーポレーションから、ATR 42/72-600型機25機とエンブラエル E-Jet 175/190型機25機、合計50機を購入し、保有機隊の多様化を進めました。2016年には保有機数が350機を超え、事業規模はさらに拡大しました。

会社の信用力向上にも努め、2017年にはニューヨークの信用格付け会社クロール・ボンド・レイティング・エージェンシーからBBB+の認証を取得しました。

2019年のパリ航空ショーでは、ATRと105機以上の契約を結ぶとともに、エアバスA220 20機の発注に関する覚書(LOI)を締結し、最新鋭の地域航空機への投資も進めました。この時期には、シンガポールの政府系ファンドであるシンガポール政府投資公社(GIC)も株主として加わり、グローバルな資本基盤が強化されました。

近年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは航空業界に大きな打撃を与え、NACもその影響を受けました。2021年12月20日には、米国連邦倒産法第11章に基づく経営再建手続きを申請しましたが、主要債権者との間で再建支援契約を締結することができました。これにより、最大手の債権者からの新規資本注入を受け、事業を継続することが発表されています。リース業務や航空機の納入なども通常通り行われており、経営再建を進めながら事業活動を続けています。

主な保有機体（2019年6月時点）

NACは地域航空機分野で多様な機体を保有しています（マネージメント機体を含む）。

ATR 42: 33機
ATR 72: 156機
デ・ハビランド・カナダ DHC-8 (100/200/300/400シリーズ): 90機
ボンバルディア CRJ (900/1000シリーズ): 23機
エアバスA220-300: 7機
エンブラエル E-Jet (E190/195シリーズ): 144機
* エンブラエル E-Jet (E170/175シリーズ): 27機

この保有機隊構成からも、同社が地域航空輸送を支える多様なニーズに応えていることが分かります。

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