バンクスマツ

バンクスマツ（Pinus banksiana）

バンクスマツは、マツ科マツ属に分類される常緑針葉樹です。その学名「banksiana」は、著名なイギリスの植物学者ジョゼフ・バンクスにちなんで名付けられました。この名前が和名としても広く用いられています。

分類と近縁種

マツ属の中でも複維管束亜属に属し、特にコントルタマツ（Pinus contorta）とは遺伝的に近縁で、自然条件下で雑種を形成することが確認されています。報告によっては、バージニアマツ、テーダマツ、クロマツとの交雑も示唆されていますが、これらは正確な確認には至っていません。

分布と生育環境

北米大陸北部の広範囲を原産地とし、カナダの大部分およびアメリカ合衆国北東部のミネソタ州からメイン州にかけて分布します。カナダでは最も広い分布域を持つマツであり、特にオンタリオ州に多数生育します。アメリカではミネソタ、ウィスコンシン、ミシガン州一帯に主要な分布域があります。ただし、その分布は連続的ではありません。

生育地の気候は、東部を除き大陸性気候が主流です。夏は比較的涼しく、冬は非常に厳しい寒さとなり、降水量は少なめです。年間平均気温は-5℃から5℃、北限は年間最高気温が約30℃となる永久凍土地帯に近接します。年間降水量は主に400mmから900mmの範囲で、夏場の乾燥がしばしば見られます。霜の下りない期間は短く、多くの地域で3ヶ月から4ヶ月程度です。

土壌への適応性が高く、他の植物が生育困難なほど乾燥した砂や砂利質の土地でも育つことができます。しかし、最もよく成長するのは、水はけが良く肥沃な砂地で、夏に地下水面が地表から1～2メートル程度の場所です。根に菌根が形成されていれば、アルカリ性の石灰岩土壌でも生育可能です。火災に対する適応力が高く、火災が頻繁に起こる地域では競合種を抑えて優勢になることがあります。

コントルタマツと並び、北米では最も北に分布するマツの一種です。両種の分布域はロッキー山脈付近で一部重複しており、アルバータ州やサスカチュワン州の一部で自然雑種が見られます。

木材資源としての価値は他の樹種に比べて低いとされ、積極的に他国へ移植されることはありません。日本国内では、主に東北や北海道などの寒冷地の演習林、植物園、公園などでわずかに見ることができます。

形態

成木の樹高は環境によって大きく異なり、9メートルから22メートルに達します。生育条件が悪い場所では、樹高が低く低木状になることもあります。樹冠は不規則な形になることが多く、枝が四方に伸びる姿が特徴的です。樹皮は白っぽい灰色で、鱗状に粗く裂けます。

葉は短い二針葉で、長さは2～4センチメートルほどです。わずかに湾曲し、帯黄緑色をしています。アカマツやクロマツ、ゴヨウマツなど日本のマツと比較してもかなり短く、一見するとモミ属やツガ属の葉を思わせるほどです。

雌雄同株で、一つの木に雄花と雌花がつきます。卵形の雌花は樹冠の上部の若い枝に、雄花は樹冠の下部の古い枝に形成されます。

球果（松かさ）の特性

バンクスマツの球果は、枝に強固に付着しており、成熟してもすぐに地上に落ちず、何年も樹上に残る性質があります。これは、火災によって種子散布を行う「セロチニー」と呼ばれる生態への適応であり、リギダマツやコントルタマツといった他の火災適応種と共通する特徴です。

球果は強い熱に晒されるまで開きません。これは、鱗片を接着する樹脂の性質によるもので、通常50℃以上の熱で樹脂が溶けて開きます。山火事は球果を開かせる典型的な要因ですが、低い枝についた球果は30℃程度の温度でも開くことがあり、また-45℃以下の極寒によっても開裂することが知られています。

球果のサイズは3～5センチメートルで、形は真っ直ぐなものから勾玉のように強く湾曲したものまで様々です。若い時期には小さな棘がありますが、熟す前にはほとんど脱落します。一つの球果に含まれる種子の数は15個から75個と幅があり、強く湾曲した球果は直線的なものに比べて種子の数が少ない傾向があります。

種子の成熟度は、球果の色、重さ、比重、種子の色などによって判断できます。例えば、ウィスコンシン州北東部では、球果が茶色で鱗片内部が赤褐色、種子が暗褐色または黒色、含水率が45%以下のものが成熟しているとされます。成熟した球果は、しばらくの間比重が1より大きく、水に沈みます。

生態（生活環）

開花と結実

蕾は当年生の枝に夏期に形成されます。ウィスコンシン州北部では7月下旬から8月上旬に始まり、雄花原基は雌花より少し早く形成されます。これらの蕾は冬を越し、春に成長を再開して花粉を飛ばします。花粉散布は通常5月中旬から6月上旬に行われますが、時期は天候に大きく左右されます。

受精は、受粉から約13ヶ月後、球果が最大サイズに達した頃に起こります。バンクスマツは風を利用して花粉を運ぶ風媒花であり、基本的には他の個体の花と受粉する他家受粉が主ですが、25%以上、時にはそれ以上の自家受粉も起こります。球果と種子が成熟するのは、受粉した翌年の成長期の終わりです。前述のように、熱がない限り球果は開かず、種子を散布しません。球果は樹上に留まり、火災などの散布条件が整うのを待ち続けます。

発芽と成長

種子は適切な条件下で15日から60日、長い場合は100日以上かけて発芽します。発芽には水分、温度（18℃程度）、そして光が不可欠です。連続的な光の下では16℃から27℃の範囲で良好な発芽が見られますが、光が遮られると発芽率は著しく低下します。火災跡地や伐採跡地では、残った切り株や倒木が地表の温度上昇や乾燥を緩和し、発芽と若木の成長を助けると考えられています。

実生苗の成長は、最初の3年間はゆっくりですが、4年目以降に速まります。1年生で樹高5cm程度、2年目で15cm、4年目には30～90cmに達します。人工林ではさらに早期成長が速い場合があります。

比較的若いうちから花をつけることができ、最適な条件下で育てられた苗床では、播種後わずか12ヶ月で雌花を形成した例も報告されています。雄花の形成はこれより遅く、人工林では5～10年生で開花を始めるのが一般的です。

繁殖

自然状態での無性繁殖は知られていませんが、挿し木や接ぎ木による増殖は可能です。挿し木の場合、若い個体から採取した枝（挿し穂）ほど発根率が高く、樹齢が上がるにつれて発根率は急激に低下します（例：4年生75%、10年生5%）。

生態（環境・生物との関係）

気候の影響

バンクスマツは火災に強い適応を持つ一方、特に早春に起こる火災に対して若木は脆弱です。また、厳しい乾燥は多くの個体、特に粗い土壌で生育するものに致命的な影響を与えます。長期間の冠水にも弱く、ミネソタ州北部で4ヶ月間の冠水により多くの木が枯死した例があります。

土壌と植生との関係

土壌は発芽に重要な影響を与えます。ミネソタ州北部の研究では、伐採後のミネラルに富む土壌で最も高い発芽率（60%）が確認され、焼けた腐植土壌（49%）、腐植除去日陰（47%）、手つかずの腐植土壌（17%）と続きました。ミネラル豊富な土壌、火災によって競合種が排除された場所、高い地下水面、そして適度な日影が苗木の生育に最適とされます。

様々な樹種と混生しますが、典型的な陽樹であるため、光が遮られると生存が困難になります。粘土質の土壌など生育に適さない場所では、ヤマナラシ類やハシバミ類といった競合種に負けることが多いです。バンクスマツの林は林冠が閉塞しにくく明るいため、下層植生が豊かになりやすい傾向があります。また、落葉によって土壌が酸性化するため、ブルーベリーなど酸性土壌を好む植物が生育しやすい環境が形成されます。

動物との関係

バンクスマツの若い純林は、絶滅危惧種のカートランドアメリカムシクイの重要な繁殖地となっています。山火事の抑制により生息地が減少したため、近年では皆伐と植栽を組み合わせてこの鳥の生息環境を確保する試みが行われています。

多くの動物がバンクスマツを食害します。オジロジカは若い木を枯死させることがあり、カンジキウサギは特に若い密集林で大きな被害をもたらすことがあります。アメリカアカシカは幹や枝の樹皮を剥いで食べるため、「巻き枯らし」による枯死を引き起こし、カナダの一部地域で深刻な問題となっています。ヤマアラシも樹齢の高い林で広範囲に被害を与えることがあります。

昆虫との関係

様々な昆虫がバンクスマツの各部位を食害します。根を穿孔するゾウムシ類（Hylobius spp.）、枝や幹を穿孔するゾウムシ類（Pissodes spp.）やアリ類、葉を食べるハバチ類（Neodiprion spp.など）やコガネムシ、ガの仲間などが知られています。針葉内部を食害する「needle miner」と呼ばれる昆虫も複数存在します。

微生物との関係

多くのマツ類と同様、特定のキノコと共生して菌根を形成し、水分や栄養の吸収を助けます。しかし、いくつかの菌類は病原体としてバンクスマツに寄生します。根株心腐病（カイメンタケ、マツノネクチタケなど）やならたけ病（ナラタケ）といった多くの樹木に共通する病害に加え、葉のさび病、胴枯病、腫瘍病（Gremmeniella abientina、若い木に大きな被害）などにかかりやすい性質があります。

特にさび病は様々な種類があり、中にはマツと別の植物（ヤマモモ科、ナラ類など）の間を交互に感染して生活環を完了するもの（発疹さび病、Eastern Gall）や、マツからマツへと直接感染するもの（Western Gall）があります。これらの病害は苗木に深刻な被害をもたらし、枯死率を高めることがあります。コントルタマツとの雑種は、一部のさび病に対する感受性が高くなることが報告されています。

利用

木材として利用されますが、瘤が多く、腐朽に対する耐性も高くないため、他の高品質なマツ材に比べて価値は低いとされます。製材だけでなく、粉砕してパルプや燃料、電柱などにも利用されます。

関連事項

バンクスマツの分布域北限は、北方林（Boreal forest）、近年ではタイガとも呼ばれる森林地帯の一部を形成しています。

参考文献

Wikipedia 英語版 en:Jack pine
United States Department of Agriculture Forest Service "Jack Pine"
Conifer Specialist Group (1998). "Pinus banksiana". IUCN Red List of Threatened Species.
Burns, R.M. 1990. Silvics of North America. Vol. 1 Conifers. USDS.
National Geographic Field guide to tree's of North America.
林業技術ハンドブック(2001) 全国林業改良普及協会

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