バート・ヤンシュ
バート・ヤンシュ（Bert Jansch、1943年11月3日 - 2011年10月5日）は、スコットランドのグラスゴーに生まれ、英国フォーク音楽界に多大な影響を与えたギタリスト、シンガーソングライターです。ペンタングルというバンドの創設メンバーとしても知られています。本名はハーバート・ヤンシュ（Herbert Jansch）といいます。
初期には「英国のボブ・ディラン」と評されることもありましたが、彼の音楽はインストゥルメンタル作品にこそ真価を発揮しました。彼は、デイヴィ・グレアムやアン・ブリッグスといったフォークシンガーから影響を受け、その一方で、ジョニー・マー、バーナード・バトラー、レッド・ツェッペリン、ニール・ヤングなど多くのミュージシャンに影響を与えました。2001年にはBBC RADIO 2のフォーク・アウォーズで、生涯の功績を称えるライフタイム・アーカイブメント・アウォードを受賞しています。2011年10月5日、癌のためロンドンのホスピスで67歳で亡くなりました。
バート・ヤンシュは、ヴィクトリア時代にドイツのハンブルクから移住したユダヤ系の家庭に生まれました。エディンバラで育ち、10代の頃にギターを始めました。ロイ・ゲスト (Roy Guest) が主催するフォーククラブに通うようになり、そこでアーチー・フィッシャー (Archie Fisher)やジル・ドイル (Jill Doyle) と出会い、ビッグ・ビル・ブルーンジー、ピート・シーガー、ブローニー・マギー、ウディ・ガスリーといったアーティストの音楽に触れました。
苗木業者として働いた後、音楽に専念することを決意。イギリス各地のフォーククラブで演奏を重ね、マーティン・カーシー、イアン・キャンベル、アン・ブリッグスなどから影響を受けました。この時期に「Blackwaterside」や「Reynardine」といった後の重要なレパートリーとなる楽曲を習得しました。1963年から1965年にかけてはヨーロッパを放浪し、各地のバーやカフェで演奏しながらヒッチハイクで旅を続けましたが、モロッコのタンジールで赤痢に感染し、イギリスへ帰国しました。
1960年代中頃、ロンドンではフォークミュージックへの関心が高まっており、バート・ヤンシュはロンドンへ移住します。エンジニア兼プロデューサーのビル・リーダー (Bill Leader) と出会い、彼の自宅で録音した音源が、トランスアトランティック・レコーズ (Transatlantic Records) に買い取られ、1965年にデビューアルバム『バート・ヤンシュ』をリリース。その後、『自由と魂』、『自画像』と立て続けにアルバムを発表しました。
アルバム『自画像』に収録された「Blackwaterside」は、アイルランド民謡に独自のギターアレンジを加えたもので、このギター伴奏部分は後にジミー・ペイジによって「Black Mountain Side」としてレッド・ツェッペリンのアルバムに収録されました。
ロンドンでは、ジョン・レンボーン（共同生活者）、デイヴィ・グレアム、ポール・サイモンなど、革新的なアコースティック・ギタリストと交流を深め、オールド・ブロンプトン通りのトゥルバドールやソーホーのレ・クザンなどのクラブで演奏しました。
ジョン・レンボーンは、トテナム・コート通りに「蹄鉄フォーククラブ」を開き、そこで2人は頻繁に共演し、複雑に絡み合うギター演奏スタイルを確立しました。このスタイルは「フォーク・バロック」と呼ばれ、1966年に発表された共作アルバム『華麗なる出会い』にその特徴が顕著に表れています。
ジャッキー・マクシーが2人のギタリストと歌い始めたのも「蹄鉄フォーククラブ」でした。その後、ダニー・トンプソン（コントラバス）とテリー・コックス（ドラムス）が加わり、ペンタングルが結成されました。
1968年にはヘザー・シューウェルと結婚。ヘザーとの出会いがきっかけで生まれた楽曲も多く、アルバムにはヘザーに捧げられた曲も収録されています。ヘザーは後に彫刻家として成功しています。
ペンタングルは1968年にロイヤル・フェスティバル・ホールで初のメジャーコンサートを行い、同年にデビューアルバムを発表しました。ヤンシュはソロ活動を中断し、ペンタングルとして海外ツアーとアルバム制作に専念しました。バンドはフォークミュージックグループとして捉えられましたが、メンバーはオリジナル楽曲を多く演奏し、ヤンシュはその作曲の多くを担いました。ペンタングルは1973年に解散し、その後ヤンシュは妻と共にウェールズのランピーター近くの農場に移り、音楽活動を一時的に休止しました。
2年間の農耕生活の後、音楽活動に復帰し、1977年にマイク・ピゴット (Mike Piggott)、ロッド・クレメンツ (Rod Clements)、ピック・ウィザーズ (Pick Withers) とアルバム『A Rare Conundrum』を制作。その後、マーティン・ジェンキンズ (Martin Jenkins)（ヴァイオリン）とナイジェル・スミス (Nigel Smith)（ベース）を加え、コナンドラム（Conundrum）を結成し、オーストラリア、日本、アメリカを巡る6ヶ月のツアーを行いました。コナンドラム解散後、アメリカでアルバート・リーとアルバム『ハートブレイク』を制作しました。帰国後、ロンドンのフルハムに自身のギターショップ「Bert Jansch's Guitar Shop」をオープンしました。
1980年代にはペンタングルが新メンバーを加えて再結成。オリジナルメンバーからは、ヤンシュとジャッキー・マクシーが参加しました。1995年以降は、ロンドンの「12 Bar Club」で頻繁に演奏し、そのライブ録音は公式ブートレッグアルバムとしてリリースされました。2000年代には、バーナード・バトラーやジョニー・ホッジとの共演、デイヴィ・グレアムとのツアーなど、精力的な活動を続けました。生涯最後のスタジオアルバム『ブラック・スワン』（2006年）では、ベス・オートンやデヴェンドラ・バンハートがゲスト参加し、自身初の全英アルバムチャート入りを果たしました。
ヤンシュの音楽は、フォーク、ジャズ、古楽、インド音楽など、多岐にわたる音楽からの影響を受けており、独自のギタースタイルを生み出しました。彼の演奏は、ベーシックなクローハンマースタイルを基盤としつつ、珍しいコードやコードへの音の付加、高音弦の半音ベンドなど、独創的な要素が特徴です。「Needle of Death」では、シンプルなフィンガーピッキングの中に9thコードを加え、アルペジオの中間音で「さざなみ」のような効果を生み出しています。また、「Reynardine」では、高音弦を半音ベンドする際に低音弦でコードを維持する奏法が用いられ、デミニッシュ5thから完全5thへのベンドが独特な響きを作り出しています。
スタジオ・アルバム
『バート・ヤンシュ』 - Bert Jansch (1965年)
『自由と魂』 - It Don't Bother Me (1965年)
『自画像』 - Jack Orion (1966年)
『華麗なる出会い』 - Bert and John (1966年) ※ジョン・レンボーンとの連名
『ニコラ』 - Nicola (1967年)
『バースデイ・ブルース』 - Birthday Blues (1969年)
『ローズマリー・レーン』 - Rosemary Lane (1971年)
『ムーンシャイン』 - Moonshine (1973年)
L. A. Turnaround (1974年)
Santa Barbara Honeymoon (1975年)
Poor Mouth (1976年) ※デンマーク盤
A Rare Conundrum (1977年) ※上記『Poor Mouth』のジャケットや曲順を変更したイギリス盤
Avocet (1978年)
Thirteen Down (1980年) ※バート・ヤンシュ・コナンドラム名義
『ハートブレイク』 - Heartbreak (1982年)
From the Outside (1985年)
Sketches (1990年)
Ornament Tree (1990年)
『ホェン・ザ・サーカス・カムズ・トゥ・タウン』 - When the Circus Comes to Town (1995年)
Toy Balloon (1998年)
Crimson Moon (2000年)
『エッジ・オブ・ア・ドリーム』 - Edge of a Dream (2002年)
『ブラック・スワン』 - The Black Swan (2006年)
ライブ・アルバム
『ライヴ・アット・ラフォーレ』 - Live at La Foret with Martin Jenkins (1980年)
『ライヴ・イン・コンサート』 - BBC Radio 1 Live in Concert (1993年) ※バート・ヤンシュ・コナンドラム名義
Live at the 12 Bar: An Authorised Bootleg (1996年)
『ヤング・マン・ブルース』 - Young Man Blues - Live In Glasgow 1962 - 1964 (1998年)
Downunder: Live in Australia (2001年)
『ライヴ・アット・シティ・ホール'74 (リヴァー・セッションズ)』 - The River Sessions (2004年)
Fresh As a Sweet Sunday Morning (2007年) ※CD+DVD、2006年4月22日 シェフィールド・メモリアル・ホールでのライブ
Sweet Sweet Music (2012年)
『ストローリング・ダウン・ザ・ハイウェイ』 - Strolling Down The Highway (2016年) ※CD+DVD、2006年収録
コンピレーション・アルバム
Lucky Thirteen (1966年)
Stepping Stones (1969年)
Box of Love (1972年)
Strolling Down the Highway (1986年)
『スリー・コード・トリック』 - Three Chord Trick (1993年)
『アフター・ザ・ロング・ナイト+プレイング・ザ・ゲーム』 - After the Long Night / Playing The Game (1996年) ※with ローレン・オーバック
* Just a Simple Soul (2018年)
www.bertjansch.com バート・ヤンシュ公式ウェブサイト
初期には「英国のボブ・ディラン」と評されることもありましたが、彼の音楽はインストゥルメンタル作品にこそ真価を発揮しました。彼は、デイヴィ・グレアムやアン・ブリッグスといったフォークシンガーから影響を受け、その一方で、ジョニー・マー、バーナード・バトラー、レッド・ツェッペリン、ニール・ヤングなど多くのミュージシャンに影響を与えました。2001年にはBBC RADIO 2のフォーク・アウォーズで、生涯の功績を称えるライフタイム・アーカイブメント・アウォードを受賞しています。2011年10月5日、癌のためロンドンのホスピスで67歳で亡くなりました。
生い立ちと音楽活動の初期
バート・ヤンシュは、ヴィクトリア時代にドイツのハンブルクから移住したユダヤ系の家庭に生まれました。エディンバラで育ち、10代の頃にギターを始めました。ロイ・ゲスト (Roy Guest) が主催するフォーククラブに通うようになり、そこでアーチー・フィッシャー (Archie Fisher)やジル・ドイル (Jill Doyle) と出会い、ビッグ・ビル・ブルーンジー、ピート・シーガー、ブローニー・マギー、ウディ・ガスリーといったアーティストの音楽に触れました。
苗木業者として働いた後、音楽に専念することを決意。イギリス各地のフォーククラブで演奏を重ね、マーティン・カーシー、イアン・キャンベル、アン・ブリッグスなどから影響を受けました。この時期に「Blackwaterside」や「Reynardine」といった後の重要なレパートリーとなる楽曲を習得しました。1963年から1965年にかけてはヨーロッパを放浪し、各地のバーやカフェで演奏しながらヒッチハイクで旅を続けましたが、モロッコのタンジールで赤痢に感染し、イギリスへ帰国しました。
1960年代 ロンドンでの活動
1960年代中頃、ロンドンではフォークミュージックへの関心が高まっており、バート・ヤンシュはロンドンへ移住します。エンジニア兼プロデューサーのビル・リーダー (Bill Leader) と出会い、彼の自宅で録音した音源が、トランスアトランティック・レコーズ (Transatlantic Records) に買い取られ、1965年にデビューアルバム『バート・ヤンシュ』をリリース。その後、『自由と魂』、『自画像』と立て続けにアルバムを発表しました。
アルバム『自画像』に収録された「Blackwaterside」は、アイルランド民謡に独自のギターアレンジを加えたもので、このギター伴奏部分は後にジミー・ペイジによって「Black Mountain Side」としてレッド・ツェッペリンのアルバムに収録されました。
ロンドンでは、ジョン・レンボーン（共同生活者）、デイヴィ・グレアム、ポール・サイモンなど、革新的なアコースティック・ギタリストと交流を深め、オールド・ブロンプトン通りのトゥルバドールやソーホーのレ・クザンなどのクラブで演奏しました。
ジョン・レンボーンは、トテナム・コート通りに「蹄鉄フォーククラブ」を開き、そこで2人は頻繁に共演し、複雑に絡み合うギター演奏スタイルを確立しました。このスタイルは「フォーク・バロック」と呼ばれ、1966年に発表された共作アルバム『華麗なる出会い』にその特徴が顕著に表れています。
ジャッキー・マクシーが2人のギタリストと歌い始めたのも「蹄鉄フォーククラブ」でした。その後、ダニー・トンプソン（コントラバス）とテリー・コックス（ドラムス）が加わり、ペンタングルが結成されました。
1968年にはヘザー・シューウェルと結婚。ヘザーとの出会いがきっかけで生まれた楽曲も多く、アルバムにはヘザーに捧げられた曲も収録されています。ヘザーは後に彫刻家として成功しています。
ペンタングル時代（1968年-1973年）
ペンタングルは1968年にロイヤル・フェスティバル・ホールで初のメジャーコンサートを行い、同年にデビューアルバムを発表しました。ヤンシュはソロ活動を中断し、ペンタングルとして海外ツアーとアルバム制作に専念しました。バンドはフォークミュージックグループとして捉えられましたが、メンバーはオリジナル楽曲を多く演奏し、ヤンシュはその作曲の多くを担いました。ペンタングルは1973年に解散し、その後ヤンシュは妻と共にウェールズのランピーター近くの農場に移り、音楽活動を一時的に休止しました。
1970年代後半から再始動
2年間の農耕生活の後、音楽活動に復帰し、1977年にマイク・ピゴット (Mike Piggott)、ロッド・クレメンツ (Rod Clements)、ピック・ウィザーズ (Pick Withers) とアルバム『A Rare Conundrum』を制作。その後、マーティン・ジェンキンズ (Martin Jenkins)（ヴァイオリン）とナイジェル・スミス (Nigel Smith)（ベース）を加え、コナンドラム（Conundrum）を結成し、オーストラリア、日本、アメリカを巡る6ヶ月のツアーを行いました。コナンドラム解散後、アメリカでアルバート・リーとアルバム『ハートブレイク』を制作しました。帰国後、ロンドンのフルハムに自身のギターショップ「Bert Jansch's Guitar Shop」をオープンしました。
1980年代以降の活動
1980年代にはペンタングルが新メンバーを加えて再結成。オリジナルメンバーからは、ヤンシュとジャッキー・マクシーが参加しました。1995年以降は、ロンドンの「12 Bar Club」で頻繁に演奏し、そのライブ録音は公式ブートレッグアルバムとしてリリースされました。2000年代には、バーナード・バトラーやジョニー・ホッジとの共演、デイヴィ・グレアムとのツアーなど、精力的な活動を続けました。生涯最後のスタジオアルバム『ブラック・スワン』（2006年）では、ベス・オートンやデヴェンドラ・バンハートがゲスト参加し、自身初の全英アルバムチャート入りを果たしました。
バート・ヤンシュの音楽性
ヤンシュの音楽は、フォーク、ジャズ、古楽、インド音楽など、多岐にわたる音楽からの影響を受けており、独自のギタースタイルを生み出しました。彼の演奏は、ベーシックなクローハンマースタイルを基盤としつつ、珍しいコードやコードへの音の付加、高音弦の半音ベンドなど、独創的な要素が特徴です。「Needle of Death」では、シンプルなフィンガーピッキングの中に9thコードを加え、アルペジオの中間音で「さざなみ」のような効果を生み出しています。また、「Reynardine」では、高音弦を半音ベンドする際に低音弦でコードを維持する奏法が用いられ、デミニッシュ5thから完全5thへのベンドが独特な響きを作り出しています。
ディスコグラフィー
スタジオ・アルバム
『バート・ヤンシュ』 - Bert Jansch (1965年)
『自由と魂』 - It Don't Bother Me (1965年)
『自画像』 - Jack Orion (1966年)
『華麗なる出会い』 - Bert and John (1966年) ※ジョン・レンボーンとの連名
『ニコラ』 - Nicola (1967年)
『バースデイ・ブルース』 - Birthday Blues (1969年)
『ローズマリー・レーン』 - Rosemary Lane (1971年)
『ムーンシャイン』 - Moonshine (1973年)
L. A. Turnaround (1974年)
Santa Barbara Honeymoon (1975年)
Poor Mouth (1976年) ※デンマーク盤
A Rare Conundrum (1977年) ※上記『Poor Mouth』のジャケットや曲順を変更したイギリス盤
Avocet (1978年)
Thirteen Down (1980年) ※バート・ヤンシュ・コナンドラム名義
『ハートブレイク』 - Heartbreak (1982年)
From the Outside (1985年)
Sketches (1990年)
Ornament Tree (1990年)
『ホェン・ザ・サーカス・カムズ・トゥ・タウン』 - When the Circus Comes to Town (1995年)
Toy Balloon (1998年)
Crimson Moon (2000年)
『エッジ・オブ・ア・ドリーム』 - Edge of a Dream (2002年)
『ブラック・スワン』 - The Black Swan (2006年)
ライブ・アルバム
『ライヴ・アット・ラフォーレ』 - Live at La Foret with Martin Jenkins (1980年)
『ライヴ・イン・コンサート』 - BBC Radio 1 Live in Concert (1993年) ※バート・ヤンシュ・コナンドラム名義
Live at the 12 Bar: An Authorised Bootleg (1996年)
『ヤング・マン・ブルース』 - Young Man Blues - Live In Glasgow 1962 - 1964 (1998年)
Downunder: Live in Australia (2001年)
『ライヴ・アット・シティ・ホール'74 (リヴァー・セッションズ)』 - The River Sessions (2004年)
Fresh As a Sweet Sunday Morning (2007年) ※CD+DVD、2006年4月22日 シェフィールド・メモリアル・ホールでのライブ
Sweet Sweet Music (2012年)
『ストローリング・ダウン・ザ・ハイウェイ』 - Strolling Down The Highway (2016年) ※CD+DVD、2006年収録
コンピレーション・アルバム
Lucky Thirteen (1966年)
Stepping Stones (1969年)
Box of Love (1972年)
Strolling Down the Highway (1986年)
『スリー・コード・トリック』 - Three Chord Trick (1993年)
『アフター・ザ・ロング・ナイト+プレイング・ザ・ゲーム』 - After the Long Night / Playing The Game (1996年) ※with ローレン・オーバック
* Just a Simple Soul (2018年)
外部リンク
www.bertjansch.com バート・ヤンシュ公式ウェブサイト
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