デイヴィ・グレアム

デイヴィ・グレアム：音楽シーンに革命をもたらした孤高のギタリスト

デイヴィ・グレアム（1940年 - 2008年）は、イングランド出身のギタリストであり、その音楽性はフォーク、ブルース、ジャズ、中東音楽、インド音楽など多岐に渡ります。商業的な成功は限られていましたが、1960年代のイギリスのフォークシーンにおいて重要な役割を果たし、多くのミュージシャンに影響を与えました。

生い立ちと音楽との出会い

レスターシャーで生まれたグレアムは、スカイ島出身の父とイギリス領ギアナ出身の母を持ちます。幼少期からハーモニカやピアノに触れましたが、本格的な音楽教育は受けていません。スキッフルなどの音楽に影響を受け、ギターを始めました。18歳になると、ギリシャ、北アフリカ、パリを旅し、ストリートミュージシャンとして活動。1959年にはBBCのテレビ番組に出演し、「クライ・ミー・ア・リヴァー」のインストゥルメンタル・バージョンを演奏しました。

1960年代：音楽シーンへの登場と革新

1962年、EP「3/4 AD」でレコードデビュー。この作品には、彼の代表曲であるインストゥルメンタル「Angi」が収録されています。「Angi」は、バート・ヤンシュ、サイモン&ガーファンクル、チキン・シャックなど、多くのアーティストによってカバーされました。1963年には、ファーストアルバム『ザ・ギター・プレイヤー』を発表。このアルバムは、ジャズからの影響を反映した内容で、ソニー・ロリンズ、キャノンボール・アダレイ、ポール・デスモンドなどの楽曲をアコースティック・ギターでカバーしています。音楽評論家のTom Jurekは、このアルバムを「1960年代から1970年代の英国フォーク・シーンにおけるアコースティック・ギターのインストゥルメンタル作品としては、特に偉大な作品の一つ」と評しました。1964年には、セカンドアルバム『フォーク、ブルース&ビヨンド』を発表。ボブ・ディランやリトル・ウォルターのカバー、イギリス民謡などを収録し、自身のボーカルも披露しています。同年、女性フォーク歌手シャーリー・コリンズとの共演盤『フォーク・ルーツ、ニュー・ルーツ』も発表しました。

1970年代：音楽性の深化と活動の停滞

1968年のアルバム『ラージ・アズ・ライフ・アンド・トゥワイス・アズ・ナチュラル』では、ラヴィ・シャンカルからの影響を受け、インド音楽に傾倒。コロシアムのジョン・ハイズマンとディック・ヘクストール＝スミス、ペンタングルのダニー・トンプソンが参加しました。1969年のアルバム『ハット』にもトンプソンが参加し、ビートルズやサイモン&ガーファンクルのカバーも収録されています。しかし、グレアムはドラッグの問題を抱え、1970年代初頭には妻との離婚、音楽活動の停滞を経験します。活動休止中は、ギターの他にウードやサロードなどの民族楽器を練習し、様々な言語を学びました。

1976年以降：再起と晩年

1976年、6年ぶりにアルバム『All That Moody』を発表し、活動を再開。1978年のアルバム『コンプリート・ギタリスト』は、彼を敬愛するジョン・レンボーンがプロデュースしました。1979年のアルバム『ダンス・フォー・トゥー・ピープル』では、マーティンのアコースティック・ギターに加え、フラメンコギター、ウード、サロード、ブズーキも使用しました。2005年、BBCラジオでグレアムを特集したドキュメンタリー番組「Whatever Happened to Davy Graham」が放送されました。2007年には、生前最後のアルバム『ブロークン・ビスケッツ』を発表。2008年に肺癌と診断され、同年12月15日にロンドンで亡くなりました。

音楽的な影響と評価

グレアムは、ミュージシャンズ・ミュージシャンとして知られ、後続のギタリストに大きな影響を与えました。バート・ヤンシュは彼を「僕の絶対的なヒーロー」と評し、ポール・サイモンは「恐らくイングランドで最も偉大なギタリスト」と評しています。レイ・デイヴィスは、キンクス結成前にグレアムにギターを貸したことがあり、「ビッグ・ビル・ブルーンジーを別にすれば、あんなに凄いブルース・ギタリストを見たことはなかった」と語っています。彼は変則チューニングを多用し、特にDADGADチューニングを広めました。ジョン・レンボーンは、「仮に、デイヴィがDADGADの発明者というだけの人物だったとしても、やはり彼は不朽の名声を得るのは確実だ」と述べています。ジミー・ペイジ、マーティン・カーシー、ポール・サイモンなども、グレアムの変則チューニングの影響を受けています。また、早い時期からモロッコ音楽を吸収し、音楽評論家のアンディ・ファイフは「ピーター・ガブリエルよりも10年以上先駆けてワールドミュージックを西洋に持ち込んだ」と評しました。

デイヴィ・グレアムは、その革新的な音楽性とギターテクニックで、音楽史に名を刻んだ偉大なギタリストです。

もう一度検索