ヒジャーズ王国

ヒジャーズ王国の興亡

ヒジャーズ王国は、1916年から1932年の間、アラビア半島西部に存在した国家です。その歴史は、ハーシム家のフサイン・イブン・アリーによる建国から、サウード家による併合まで、激動の時代を映し出しています。

ハーシム朝の成立と展開

ヒジャーズ王国の創始者であるフサイン・イブン・アリーは、イスラム教の預言者ムハンマドの子孫であり、長きにわたりヒジャーズ地域を統治してきたハーシム家の一員でした。彼は、オスマン帝国の支配下にあったマッカ（メッカ）の太守に任命され、その地位を利用して勢力を拡大しました。第一次世界大戦中、フサインはイギリスと秘密協定「フサイン＝マクマホン協定」を結び、オスマン帝国に対して反旗を翻しました。これにより、1916年、ヒジャーズ王国が成立し、フサインは「アラブ人の王」を名乗りました。

しかし、この「アラブ人の王」という称号は、実際には紅海沿岸のヒジャーズ地域のみを支配するに過ぎず、その権威は限定的でした。また、イギリスはアラブ国家の建設を支援すると約束しながら、実際にはサイクス・ピコ協定によってアラブ地域を分割することを決定しており、フサインの「アラブ統一」の夢は実現困難な状況でした。フサインの支配は、オスマン帝国からの独立を達成したものの、その実態はメッカのシャリーフ自治領が独立しただけのものに過ぎませんでした。

カリフ即位と孤立

1924年、フサインはトルコ共和国でカリフ制が廃止されたことを受け、自らカリフに即位しました。しかし、一地方政権の王に過ぎないフサインがカリフを僭称したことは、アラブ世界全体から反発を招き、彼は孤立を深めました。この混乱に乗じて、長年の対立関係にあったワッハーブ派のイブン・サウード率いるナジュド・スルタン国がヒジャーズ王国に侵攻を開始します。フサインは退位を余儀なくされ、息子のアリー・イブン・フサインに王位を譲り、キプロス島へ亡命しました。

王国の滅亡

後を継いだアリーは、イブン・サウードとの和睦を試みましたが失敗し、1925年にはマッカ、マディーナ（メディナ）、ジェッダといった主要都市を失いました。アリーは一族とともにイラクに逃れ、ここにハーシム家によるヒジャーズの支配は終わりを告げました。独立王国としてのヒジャーズ王国は、わずか9年でその歴史に幕を閉じました。ヒジャーズ領のうち、イギリス軍が防衛していたアカバのみはヨルダンに併合されました。

サウード朝による併合と消滅

ヒジャーズを占領したサウード家は、イブン・サウードの子であるファイサルをヒジャーズ知事に任命しました。その後、1926年にイブン・サウードはヒジャーズ王を宣言し、1931年にはナジュドとの連合王国（ナジュド及びヒジャーズ王国）を成立させました。1932年、この連合王国がサウジアラビア王国と改称されることで、ヒジャーズ王国は名実ともに消滅しました。

歴代君主

フサイン・イブン・アリー（在位：1916年 - 1924年）
アリー・イブン・フサイン（在位：1924年 - 1925年）

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