ヒスパニア・バエティカ

ヒスパニア・バエティカ：ローマ帝国の豊かなる属州

ヒスパニア・バエティカは、イベリア半島に存在したローマ帝国の属州の一つで、現在のスペイン、アンダルシア地方に相当します。東にヒスパニア・タッラコネンシス、西にルシタニアと接していました。元老院属州であり、元老院の任命したプロコンスルによって統治されていました。

ローマの到来以前

ローマが侵入する以前、この地にはケルト系の部族が居住し、地中海沿岸部ではフェニキア人が活動していました。ワイン、オリーブ、そして魚醤「ガルム」の産地として、古くから地中海世界において重要な地域でした。

第一次ポエニ戦争後、ハミルカル・バルカがカルタゴ・ノウァ（現カルタヘナ）を建設。ローマはギリシア人の植民市と同盟を結び、影響力を拡大し、カルタゴとの関係は緊張しました。紀元前226年にはエブロ川を境に相互不可侵条約を結びましたが、紀元前218年、ハンニバルがサグントゥム（現サグント）を攻撃し、第二次ポエニ戦争が勃発しました。ハンニバルはアルプスを越えてイタリア半島へ侵攻し、弟のハスドルバルにこの地の統治を任せました。

ハンニバルがイタリアで戦っている間、ヒスパニア・バエティカはローマ軍の攻勢を受け、紀元前209年にスキピオ・アフリカヌスによってカルタゴ・ノウァが陥落。紀元前207年にはハスドルバルがメタウルスの戦いで戦死しました。

ローマの属州として

第二次ポエニ戦争後、ローマはこの地域を属州としました。当初、イベリア半島の属州は「ヒスパニア・キテリオル」（南方）と「ヒスパニア・ウルステリオル」（北方）に分割されていました。紀元前14年、アウグストゥスのローマ領再編により、イベリア半島の属州は3分割され、「ヒスパニア・バエティカ」が誕生しました。州都はコルドバに置かれました。

帝政時代、ヒスパニア・バエティカはローマの中でも裕福な属州となり、裕福な中流階層が生まれました。彼らのもとで解放奴隷などが活躍しました。治安が良く、軍隊の駐留もなく、ローマ軍は東隣のタッラコネンシスに駐在するのが常でした。経済的な隆盛を背景に、皇帝ウェスパシアヌスは支持基盤を築くため、この地域の自由民全員に「投票権なしのローマ市民権」を与えました。そして、属州出身者として初の皇帝トラヤヌス、続いてその甥のハドリアヌスがこの地から現れました。しかし、409年にはヴァンダル族に蹂躙され、ローマの属州ではなくなりました。その後、東ローマ帝国による再支配（スパニア属州、552年頃 - 620年代）の期間を除き、ゲルマン人の支配を受けることとなります。

西ローマ滅亡後

ヴァンダル族の支配は短期間で終わり、代わりに西ゴート族が侵入し、彼らの領土の一部となりました。最盛期にはイベリア半島がほぼ西ゴート王国の領土となりました（550年代から620年代までの約70年間は東ローマ帝国に支配された時期もあります）。しかし、南方からイスラム勢力のウマイヤ朝が侵入し、711年に西ゴート王国は滅亡しました。

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