ピアノ協奏曲第2番 (バルトーク)

バルトーク：ピアノ協奏曲第2番 Sz.95, BB101

バルトーク・ベーラが1930年8月から1931年9月にかけて作曲したピアノ協奏曲第2番は、その驚異的な演奏難易度から、ピアノ協奏曲の中でも屈指の超絶技巧を要求される作品として知られています。独奏ピアノは時に打楽器のように扱われ、短い断片的な旋律が飛び交い、時には重厚な和音塊が響き渡るなど、バルトーク特有の力強く前衛的な音楽語法が展開されます。

作曲の背景

バルトーク自身ピアニストであり、前作のピアノ協奏曲第1番は自身のレパートリー拡充も視野に入れていましたが、この第2番については、前作がオーケストラと聴衆双方にとって構成的に難解であったという反省がありました。バルトークは「第1番はよくできた作品だと思うが、構成面でオーケストラにとっても、そして聴衆にとっても難しいところがあった。そこで、それと平衡をとるようなオーケストラの演奏がそれほど困難でなく、聴衆にとってもっと快い作品としてこの第2番を作曲した」と述べており、より響きが明快で、オーケストラや聴衆にとって受け入れやすい作品を目指した意図がうかがえます。しかし皮肉なことに、独奏ピアノパートは前作以上に難解なものとなりました。

初演と演奏史

作品は1933年1月23日、ドイツのフランクフルトにて初演されました。独奏ピアノは作曲者自身のバルトーク、指揮はハンス・ロスバウトが務めました。日本での初演はやや遅く、1959年4月20日、NHK交響楽団の定期公演にて行われ、ピアノをアンドール・フォルデス、指揮をウィルヘルム・シュヒターが担当しました。

バルトーク自身による録音も存在します。1938年3月22日にブダペストで行われたこの録音は、全3楽章から5つの抜粋ではありますが、作曲家自身の解釈を知る上で極めて貴重な資料です。エルネスト・アンセルメ指揮によるこの録音は、録音状態が良いとは言えませんが、その歴史的価値から現在でもHungaroton Classicからリリースされたアルバム「Bartók Recordings From Private Collections」などに収録されています。

楽器編成と特殊な音域

編成は独奏ピアノに加えて、ピッコロ（フルート持ち替え）、フルート2、オーボエ2、クラリネット2（うち1人はバスクラリネット持ち替え）、ファゴット2（うち1人はコントラファゴット持ち替え）、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、小太鼓、トライアングル、大太鼓、シンバル、タムタムといった大規模な管楽器と打楽器群、そして弦楽五部です。

特筆すべきは、この作品の独奏ピアノパートが、低音域が拡張されたベーゼンドルファーのインペリアルピアノを想定して書かれている点です。一般的なピアノの最低音であるA2よりさらに低いF2やG2、Gis2といった音が指定されており、通常のピアノでは物理的に演奏できません。インペリアル以外で演奏される場合は、これらの箇所は通常オクターブ高く弾かれるか、あるいは省略されることがあります。バルトークの作品では、ピアノ協奏曲第3番やピアノ・ソナタなど、他にもインペリアルを想定した作品が存在します。

楽章構成

全3楽章構成で、各楽章は独自の楽器法と構造を持ちます。

1. 第1楽章：アレグロ
ト調、4分の3拍子。ソナタ形式に基づきますが、バルトーク独特の自由な扱いです。特筆すべきは、この楽章で弦楽器が一切使用されないことです。管楽器群のけたたましいほど華やかな響きと、ピアノの硬質で打楽的な音色が鮮やかな対比を生み出します。ピアノパートは打楽的な要素が多い一方、軽快に疾走する部分も含まれます。一般的な協奏ソナタ形式とは異なりながらも、独奏カデンツァが挿入されています。

2. 第2楽章：アダージョ
ハ調、三部形式。静謐な両端部ではコラール風の楽想が奏でられ、こちらは弦楽器が中心で金管楽器は使用されません。中間部はプレスト、4分の2拍子となり、スケルツォ的な性格を帯びます。この中間部には、通常の運指では対応不可能なほど密集した和音（トーンクラスター）が登場し、演奏者は両手の平を用いて鍵盤を叩くことが要求される箇所があり、この楽章の、そして作品全体の難易度を象徴しています。コラールが再帰する際には、やや変奏が加えられています。

3. 第3楽章：アレグロ・モルト
4分の2拍子。この楽章でようやく全ての楽器が揃って演奏されます。原始的な舞踊を思わせる力強い主要主題を中心に、様々な主題が複雑に交錯するバルトーク独特のロンド形式です。バルトークが好んだ「アーチ方式」、すなわち楽章構造がシンメトリカルに配置される手法が取り入れられており、登場する主題の多くは第1楽章の楽想に基づいています。この点から、ある意味では変奏曲としての側面も持っています。

演奏と評価

この協奏曲は、その圧倒的な難易度から、世界中のピアニストにとって挑戦的なレパートリーとなっています。多くの著名な演奏家が録音を残しており、マウリツィオ・ポリーニ、ラン・ラン、ゾルタン・コチシュ、レイフ・オヴェ・アンスネス、アンドラーシュ・シフなどが代表的な録音をリリースしています。また、スヴャトスラフ・リヒテルやユジャ・ワン、ボリス・ベレゾフスキーといったピアニストによるライブ演奏や放送録音も知られています。

コンクールの課題曲としても採用されることがあり、1970年代のラ・ロシェル国際ピアノコンクールや1990年代のウンベルト・ミケーリ国際ピアノコンクールなどで取り上げられました。日本の浜松国際ピアノコンクールでも第10回で初めて課題曲となりましたが、本選でこの難曲を選んだピアニストはいませんでした。

参考文献として、『最新名曲解説全集10 協奏曲III』（音楽之友社）などに詳しい解説が掲載されています。楽譜は国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）でも公開されています。この作品は、バルトークの創造力とピアノ演奏の限界を追求した、20世紀ピアノ協奏曲の重要な位置を占める傑作です。

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