フィンガルの洞窟

フィンガルの洞窟：自然が創造した壮大な大聖堂

スコットランドのヘブリディーズ諸島に位置するスタファ島。この無人島に存在するフィンガルの洞窟は、自然の驚異を目の当たりにできる場所です。玄武岩の柱状節理が創り出す独特の景観は、訪れる人々を魅了し、多くの芸術家にインスピレーションを与えてきました。

洞窟の成り立ち

フィンガルの洞窟は、スコットランド・ナショナル・トラストが管理する自然保護区内にあります。洞窟を形成しているのは、約6000万年前に噴出した溶岩が冷え固まる際にできた柱状節理です。溶岩が冷却される過程で、六角形の割れ目ができ、それが徐々に内部へと伸びていくことで、規則的な柱の群れが形成されます。この現象は、泥が乾燥する際にひび割れができる様子と似ています。その後、波の浸食作用によって、これらの柱状節理が削られ、現在の洞窟の形となりました。

洞窟の特徴

洞窟内部は、自然が生み出したとは思えないほどの壮麗な空間が広がります。アーチ状に湾曲した天井、波の反響によって生じる神秘的な音響は、まるで巨大な大聖堂の中にいるような感覚を与えます。ゲール語で「歌の洞窟」を意味する「Uamh-Binn」という名が、この洞窟の雰囲気をよく表しています。洞窟の入り口は大きく開いており、内部には海水が満ちています。小舟で直接入ることはできませんが、遊覧船で近くまで行くことが可能です。また、満潮位よりも高い場所にある岩棚を伝って、徒歩で洞窟内を散策することもできます。

歴史と文化

1772年、自然主義者のジョゼフ・バンクスによって「発見」されたフィンガルの洞窟は、ジェイムズ・マクファーソンの叙事詩『オシアン詩集』によって広く知られるようになりました。詩集の主人公であるフィンガルは、アイルランド神話の英雄フィン・マックールに相当するとされています。また、作曲家フェリックス・メンデルスゾーンは、1829年にこの洞窟を訪れ、その神秘的な雰囲気に触発され、演奏会用序曲『ヘブリディーズ諸島（フィンガルの洞窟）』を作曲しました。この曲によって、フィンガルの洞窟は世界的に有名な観光地となり、多くの芸術家や著名人が訪れるようになりました。

洞窟を訪れた人々

19世紀には、ジュール・ヴェルヌ、ウィリアム・ワーズワース、ジョン・キーツ、アルフレッド・テニスンといった文人や、印象派の画家ジョゼフ・ターナーなど、多くの著名人がフィンガルの洞窟を訪れました。特に、ターナーは1832年に「スタッファ島、フィンガルの洞窟」という絵画を制作し、その景観を後世に伝えました。また、劇作家のアウグスト・ストリンドベリは、フィンガルの洞窟をモチーフにした『夢の戯曲』を執筆しています。

フィンガルの洞窟の描写

小説家のウォルター・スコットは、フィンガルの洞窟を「私が今まで見た中で最も非凡な場所の一つだ」と評し、その壮大さを絶賛しました。彼は、洞窟を「大聖堂の屋根のように高い玄武岩の柱だけで出来ており、深い波立つ海によって永遠に洗われ、赤い大理石で舗装されたかのように敷き詰められている」と描写しています。この言葉からも、洞窟の独特な美しさと、自然が作り出した造形美への驚きが伝わってきます。

観光情報

フィンガルの洞窟へは、4月から9月までの期間、地元の旅行会社が実施する遊覧船ツアーに参加することでアクセスできます。また、島に上陸して、徒歩で洞窟まで行くことも可能です。洞窟内からは、海を隔てて聖アイオナ島を望むことができ、洞窟の入り口が額縁のように島の景色を切り取る、美しい風景を楽しむことができます。

洞窟の規模

フィンガルの洞窟の規模については、いくつかの異なる情報源があります。
Wood-Nuttal Encyclopaedia （1907年版）: 水深69メートル、高さ20メートル。
National Public Radio: 水深45メートル、高さ22メートル。
* Show Caves of the World: 水深85メートル、高さ23メートル。

これらの数値は若干異なりますが、いずれもこの洞窟が非常に大きく、その壮大さを物語っています。


フィンガルの洞窟は、自然の力と美しさが融合した、まさに奇跡のような場所です。その神秘的な雰囲気は、訪れる人に深い感動とインスピレーションを与えてくれることでしょう。

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