フェリックス・サモンド

フェリックス・エイドリアン・ノーマン・サモンド（1888年 11月19日 - 1952年 2月20日）は、イングランドに生まれ、イギリスおよびアメリカ合衆国で活躍した著名なチェリスト、そして優れたチェロ教師です。日本では氏の名前は「サルモンド」や「ザルモンド」と記されることもあります。

幼少期と音楽教育

音楽家系の家庭に育ったサモンドは、父はバリトン歌手、母は高名なピアニスト、クララ・シューマンに師事した人物でした。12歳でチェロを始め、ウィリアム・ホワイトハウスの指導を初めて受けます。奨学金を得てホワイトハウスの薫陶を続けた後、4年後にはロンドンの王立音楽アカデミーに進みました。19歳からはブリュッセル王立音楽院に留学し、エドゥアール・ジャコブの下で研鑽をさらに深めました。

キャリアの幕開け

1908年にベヒシュタイン・ホールで行われた彼のデビューコンサートは、大きな成功を収めました。この時の演奏会では、サモンドはブリッジのピアノ三重奏曲第1番やブラームスのピアノ四重奏曲第1番を披露しました。ピアノは彼の母、ヴィオラはブリッジ自身、ヴァイオリンはモーリス・サンズが担当しています。この成功により多くの演奏依頼が寄せられ、サモンドはその後イギリス各地でリサイタルを開催するほか、クイーンズ・ホール管弦楽団やロンドン交響楽団、ハレ管弦楽団といった主要なオーケストラとソリストとして共演する機会を得ました。また、ハロルド・バウアー（ピアノ）、ブロニスラフ・フーベルマン（ヴァイオリン）、ライオネル・ターティス（ヴィオラ）と共に結成したピアノ四重奏団として、アメリカへの演奏旅行も行っています。

エルガーとの出会いとチェロ協奏曲初演

第一次世界大戦の勃発は、サモンドの国際的な活動に一時的な影響を与えましたが、戦後彼は室内楽奏者として高い評価を得るようになりました。この時期、彼はウィグモア・ホールで開催されたエルガーの弦楽四重奏曲ホ短調およびピアノ五重奏曲イ短調の初演に参加しています。

サモンドが四重奏曲を演奏するのを聴いたエルガーは、ロンドン交響楽団とのクイーンズ・ホールでの演奏会で自身のチェロ協奏曲の初演ソリストとしてサモンドを指名しました。1919年 10月26日に行われたこの初演は、しかしながら波乱に満ちたものとなりました。演奏会ではエルガーが自身の協奏曲を指揮し、それ以外のプログラムはロンドン交響楽団の常任指揮者であったアルバート・コーツが担当することになっていました。コーツは自己中心的な性格で知られ、リハーサル時間の多くを自らのパートに使ってしまう傾向がありました。エルガーのために割り当てられていた1時間の貴重なリハーサル時間が、コーツによって大幅に食い潰されてしまったのです。十分な準備ができないまま本番を迎えたエルガーは、舞台裏で強い不満を露わにしました。結果として、演奏は深刻な準備不足が露呈し、批評家から厳しい評価を受けることになります。特に評論家アーネスト・ニューマンは、オーケストラの演奏を「見るに堪えない有様」と酷評しました。しかしエルガーは後に、サモンドがこの難曲を精力的に準備し、最善を尽くしてくれていなければ、自分はこの曲を二度と世に出さなかっただろうと述べて、サモンドの努力を高く評価しています。

アメリカへの移住と教育者としての功績

1922年 3月29日、サモンドはニューヨークのエオリアン・ホールでアメリカでのソロ・デビューを果たしました。その後アメリカに居を定めた彼は、演奏活動のためにイングランドやヨーロッパにも度々足を運びました。1924年にジュリアード音楽院の教員となったサモンドは、その翌年の1925年にはカーティス音楽院のチェロ科主任に就任し、1942年までその職を務め上げました。エルガー協奏曲の初演での苦い経験が影響したのか、彼はこの曲を教育の場で扱うことも、イングランド国外で演奏することもありませんでした。教育者としてのサモンドはアメリカで非常に高く評価され、数多くの才能あるチェリストを育てました。彼の門下からは、オーランド・コール、スゼット・フォルグ・ハラシュ、バーナード・グリーンハウス、レナード・ローズ、ダニエル・ザイデンベルク、アラン・シュルマンなど、後に名を成す多くの奏者が輩出されています。

演奏家としては、1924年にイグナツィ・パデレフスキ（ピアノ）、エフレム・ジンバリスト（ヴァイオリン）と共にピアノトリオを結成し、カーネギー・ホールで共演して熱烈な喝采を浴びるなど、活動を続けました。サモンドは、サミュエル・バーバー、エルネスト・ブロッホ、ジョルジェ・エネスク（2作品を初演）といった同時代の作曲家を含む、多様なチェロ作品に対して深い関心を持っていました。

晩年

サモンドが最後に故国イングランドの地を踏んだのは1947年のことでした。その後、彼は活動の拠点であったニューヨークで1952年 2月20日に亡くなりました。

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