フエ市

フエ市の概要

フエ市は、ベトナム中部の重要な都市であり、かつて阮朝の都として栄華を極めました。2025年1月1日まではトゥアティエン＝フエ省の省都でしたが、同日をもって省全域が中央直轄市のフエ市へと改編されました。歴史的な建造物群はユネスコの世界遺産に登録され、宮廷芸能のニャーニャック（雅楽）も無形文化遺産として保護されています。

呼称の由来

フエという名称は、漢字表記の「順化（トゥアン・ホア）」に由来します。14世紀に陳朝が設置した順州と化州のうち、かつてフエが属していた化州の漢字音「hoá」が変化したと考えられています。フランス植民地時代には「ユエ」とも呼ばれていました。また、当時の外国人は「スェウナ」「スィネア」「シネア」などと呼んでいました。

地理的特徴

フエは、南シナ海から約16km内陸に位置し、アンナン山脈の支脈に囲まれた沖積地にあります。フオン川（香江）が市内を流れ、旧市街と新市街を分けています。雨季にはフオン川が増水しやすく、市街地の一部が水没することもあります。郊外には温泉も存在します。

歴史

フエの歴史は古く、紀元前111年には前漢の日南郡の首府が置かれたと推定されています。2世紀末には林邑の都カンダプルプラがフエ付近に存在し、貿易港として栄えました。1307年には大越に割譲され、化州と改称されました。16世紀からは広南阮氏の本拠地となり、1636年には富春（フースアン）都城が完成しました。富春は南シナ海貿易の中心地として発展しましたが、西山党の乱によって一時的に占領されました。1801年、阮朝の創始者である嘉隆帝が富春を制圧し、都に定めました。以降、阮朝の都として栄え、中国文化とチャム文化が融合した独自の文化が形成されました。阮朝は1883年にフランスの保護国となり、第二次世界大戦末期まで阮朝の皇帝が宮殿に住み続けましたが、1945年の八月革命によって阮朝は滅亡しました。

ベトナム戦争とフエ

ベトナム戦争中には、フエで激しい戦闘が繰り広げられました。1968年のテト攻勢では、フエは多大な被害を受け、多くの人々が犠牲となりました。特に、フエ虐殺事件は、多くの官吏、警官、教師、学生が殺害された悲劇として知られています。

行政区画

フエ市は、27の坊（区）で構成されています。

アンクウ坊（An Cựu）
アンドン坊（An Đông）
アンホア坊（An Hoà）
アンテイ坊（An Tây）
フオンロン坊（Hương Long）
フオンソー坊（Hương Sơ）
キムロン坊（Kim Long）
フービン坊（Phú Bình）
フーカット坊（Phú Cát）
フーハウ坊（Phú Hậu）
フーヒエップ坊（Phú Hiệp）
フーホア坊（Phú Hoà）
フーホイ坊（Phú Hội）
フーニュアン坊（Phú Nhuận）
フートゥアン坊（Phú Thuận）
フオックヴィン坊（Phước Vĩnh）
フオンドゥク坊（Phường Đúc）
テイロック坊（Tây Lộc）
トゥアンホア坊（Thuận Hoà）
トゥアンロック坊（Thuận Lộc）
トゥアンタイン坊（Thuận Thành）
トゥイビエウ坊（Thuỷ Biều）
トゥイスアン坊（Thuỷ Xuân）
チュオンアン坊（Trường An）
ヴィンニン坊（Vĩnh Ninh）
ヴィーザ坊（Vĩ Dạ）
* スアンフー坊（Xuân Phú）

経済と市場

フエの特産品は象牙細工やガラス細工です。また、精米、製材、繊維、セメント工業も盛んです。ドンバ市場はフエの台所として知られ、食料品や雑貨、衣料品などが販売されています。1986年の台風で一度崩壊しましたが、再建されました。

建築物と世界遺産

フエには、阮朝時代の皇宮、皇帝廟、寺院などの歴史的建造物が数多く残されており、その一部は「フエの建造物群」としてユネスコの世界遺産に登録されています。旧市街はフオン川を挟んで官僚や庶民が住むエリアと、フランス人居住区に分かれていました。旧市街は碁盤の目状に区画され、城壁に囲まれた皇宮があります。

皇宮（グエン朝王宮）

皇宮は、中国の皇城を模して建設された星型の城郭です。城壁は高さ6.6m、幅21mで、外には濠が掘られています。皇宮の内部には、午門、太和殿、顕臨閣（世廟）などの重要な建築物があります。午門は皇宮の正門で、太陽が真上に来るように設計されています。太和殿は政治の中心であり、皇帝の象徴である龍があしらわれています。顕臨閣は歴代皇帝と皇后を祀る廟です。皇宮の建築には、中国、フランス、ベトナムの伝統的な建築様式が取り入れられています。

遺跡と陵墓

フエの郊外には、歴代皇帝の陵墓が点在しています。明命帝、嗣徳帝、啓定帝などの陵墓は、それぞれ独特の様式を持ち、美しい庭園や建築物が見られます。特に、啓定帝の陵墓は、バロック様式を取り入れた独特なデザインが特徴的です。

寺院と教会

フエには、多くの寺院や教会が建てられています。ティエンムー寺は、フエで最も有名な寺院で、チャム族によって作られたレンガの丘の上に建てられています。フエ大教会（聖マリア救済教会）は、ヨーロッパのカテドラル建築とベトナムの伝統的な建築様式が融合した建物として知られています。

フエの伝統的な家屋

フエの伝統的な家屋は、ロイ、ルオン、フォの3種類に分けられます。ロイは正方形の住居で、ルオンは庭園付きの邸宅、フォは町屋です。特に、ルオンはかつて旧貴族や高級官僚の住居として使われ、庭園には池、築山、蓮池などが設けられています。

フエの世界遺産登録までの経緯

フエの建造物群は、ベトナム戦争で大きな被害を受けましたが、1993年にユネスコの世界遺産に登録されました。この登録は、歴史的重要性を持つ建造物を保護する上で重要な転機となりました。世界遺産登録後、フエは観光地として注目を集め、多くの観光客が訪れるようになりました。

水上生活者

フオン川には、屋根付きの小舟で生活する水上生活者が多く住んでいます。彼らは川の流れに沿って集落を形成し、漁や輸送を生業としています。

音楽と文化

フエでは、かつて宮廷音楽が盛んでしたが、帝政の廃止によって一時的に断絶しました。しかし、近年ではユネスコの支援により、宮廷音楽の伝統が復活し、ニャーニャク（雅楽）がユネスコの無形文化遺産に登録されています。また、フエはアオザイとノンバイトーの発祥地とも言われています。

食文化

フエ料理は、唐辛子を多用した辛い味付けが特徴です。小皿に盛られた料理や一口大の料理が多く、米粉を蒸した料理がよく見られます。宮廷料理は華美ですが、一般家庭の料理は簡素です。ブンボーフエやコムヘンといった郷土料理も有名です。

美術館・博物館

フエには、フエ宮廷美術博物館、歴史革命博物館、軍事博物館などの博物館があります。これらの施設では、歴史的な遺物や文化財が展示されています。

スポーツと教育

フエには、トゥーゾー・スタジアムというスポーツ施設があります。また、フエ大学やベトナム仏教学院フエ校などの教育機関も多く存在します。

温泉

フエには、ミーアン温泉、アルバ・タインタン温泉などの温泉リゾート施設があります。

交通

フエには、ハノイやホーチミンを結ぶ鉄道や道路が通っており、フバイ国際空港からはこれらの都市への航空便が運行されています。

姉妹都市・友好都市

フエは、ニューヘイブン（アメリカ）、ホノルル（アメリカ）、ケベック（カナダ）、静岡市（日本）、西条市（日本）、ブロワ（フランス）などと姉妹都市や友好都市の関係を結んでいます。

フエを舞台にした作品

映画『フルメタル・ジャケット』の一部は、フエを舞台に撮影されました。

まとめ

フエは、歴史、文化、自然が融合した魅力的な都市です。世界遺産に登録された建造物群や、独自の食文化、伝統的な音楽は、多くの観光客を魅了しています。ベトナムを訪れる際には、ぜひフエを訪れて、その魅力を体感してみてください。

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