フロリダ級戦艦

フロリダ級戦艦：アメリカ海軍初のタービン推進戦艦

フロリダ級戦艦は、アメリカ海軍が建造した弩級戦艦の艦級です。このクラスの最大の特徴は、アメリカ海軍の戦艦として初めて、全艦が蒸気タービン機関を搭載し、同時に4軸推進方式を採用した点にあります。これは、それまでの戦艦がレシプロエンジンを使用していたのに対し、大きな技術的進歩でした。

開発と概要

フロリダ級は、1908年の海軍整備計画において、デラウェア級戦艦の改良型として2隻の建造が承認されました。当初は14インチ連装砲塔を4基搭載する超弩級戦艦として計画されましたが、当時のアメリカの工業力では大口径砲の製造が間に合わず、最終的にデラウェア級と同等の12インチ連装砲塔5基10門を装備する弩級戦艦として設計がまとめられました。

しかし、フロリダ級は単なるデラウェア級の焼き直しではありませんでした。新設計の5インチ速射砲を16門搭載し、副砲の強化が図られました。また、居住区の拡大も行われ、デラウェア級に比べて排水量が1,500トン増加しています。

フロリダ級は、1909年と1910年にそれぞれ就役しました。前級では国産タービンの燃費の悪さが指摘されたため、イギリス製のパーソンズ式直結タービンを採用し、アメリカ戦艦初の4軸推進を実現しました。これらの改良により、フロリダ級は後継艦に繋がる新たな技術基盤を築いた、エポックメイキングな艦級となりました。

艦形の特徴

フロリダ級の船体形状は、デラウェア級と同様に短船首楼型を採用しています。ただし、議会によって艦形の大型化が認められたため、全長と全幅が拡大され、艦上構造物の密集化が改善され、居住区も拡大しました。

艦首には、浮力確保用の膨らみを持つ特徴的な形状をしています。艦首甲板上には、12インチ連装砲塔が背負い式に2基、2番主砲塔の基部から一段高い艦上構造物が始まり、その上に操舵装置を備えた司令塔が設置されています。司令塔の背後には、籠状の前部マストがそびえ立ち、司令塔と前部マストを基部とした三角形状の船橋が設けられていました。前部マストの下部に航海艦橋、頂上部に見張り所が設けられています。

前部マストの背後には2本の煙突が立ち、そこから一段下がった左右舷側甲板上が艦載艇置き場となっており、探照灯台を基部とするクレーンにより運用されました。2番煙突の後方には、籠状の後部マストが立ち、3番主砲塔が後方を向いて配置されています。その後方には、一段下がった後部甲板上に4番主砲塔と5番主砲塔が背中合わせに配置されています。

舷側部には5インチ速射砲が設置され、重心低下のため当初は1番主砲塔側面に配置されましたが、波浪の影響を受けやすかったため、後に2番主砲塔基部に移設されました。さらに、船体中央部にケースメイト（砲郭）配置で放射状に単装で5基、艦尾側に2基、片舷8基ずつ計16基が装備されました。

近代化改装

フロリダ級は、第一次世界大戦後の1920年代にボストン海軍工廠で近代化改装を受けました。外観上、籠状の前部マストにあった航海艦橋は密閉型となり、前部マストの中段に箱型の戦闘艦橋が新設されました。また、頂上部の見張り所も密閉型となりました。

機関の換装により、煙突は1本に統合され、籠状の後部マストは撤去されました。後部マスト跡地は水上機の運用スペースとなり、3番主砲塔の上にカタパルトが設置されました。後部マストは3番・4番主砲塔の間に簡素な単脚式のものが移設されました。

射撃指揮装置も刷新され、艦橋上に新型の装置が設置され、航海艦橋の上と2番～4番主砲塔上に測距儀が搭載されました。また、波浪の影響を受けていた舷側の副砲ケースメイト5基のうち、前側の3基は閉塞され、片舷3門ずつ最上甲板上に計6門が移設されました。

武装

フロリダ級の主砲は、12インチ（45口径）砲を連装砲塔に収めています。最大仰角15度で約18,290mまで砲弾を届かせることができ、射程10,920mで251mmの装甲を貫通する能力を持っていました。砲塔の旋回角度は左右150度、俯仰能力は仰角15度・俯角5度です。砲弾の装填は主に電力で行われ、補助的に人力が必要でした。

副砲は、5インチ（51口径）速射砲を採用し、ケースメイト配置で片舷7基ずつ計14基を搭載しています。最大仰角15度で射程14,490mの砲弾を撃ち出すことが可能でした。その他、対艦用に53.3cm魚雷発射管を水線下に2門装備していました。

就役後には、対空火器として3インチ高角砲が搭載されました。その後、対空練習艦となった「ユタ」には、5インチ高角砲や1.1インチ機関砲、ヴィッカーズ4cm機関砲などが追加されました。

機関

フロリダ級は、14基の石炭専焼水管缶とパーソンズ式タービンを採用し、最大出力28,000馬力、速力20.75ノットを発揮しました。搭載燃料は石炭2,500トンと重油400トンで、航続距離は10ノットで6,860海里でした。

近代化改装時には、ボイラーが重油専焼水管缶4基に交換され、推進機関もギヤードタービン4基4軸推進に更新され、最大出力は47,000馬力、速力は22ノットに向上しました。燃料も重油に統一され、航続距離は10ノットで16,500海里と大幅に延長されました。

同型艦

フロリダ (USS Florida, BB-30)
ユタ (USS Utah, BB-31)

艦歴

フロリダ級は、第一次世界大戦時にはアメリカ大西洋艦隊の主力として配備され、イギリス海軍の本国艦隊の指揮下に入りました。大戦中は、北海やノルウェー沖での哨戒任務や船団護衛任務に従事しましたが、特筆すべき戦果は挙げていません。

海軍休日には、ロンドン軍縮条約により「フロリダ」が解体処分となりました。一方、「ユタ」は標的艦として保有が認められ、武装や防御装甲が撤去された後、対空射撃訓練用の練習艦として再就役しました。

第二次世界大戦中の1941年12月7日、真珠湾攻撃において、「ユタ」は戦闘艦と間違われて航空攻撃を受け、左舷に魚雷を受けて横転沈没しました。

真珠湾攻撃後

横転した「ユタ」の右舷を牽引して復元を試みましたが、船体が海底を滑り、復旧を断念しました。その後、船体は放棄され、現在も真珠湾に残されています。「ユタ」は1944年に退役・除籍され、艦内には真珠湾攻撃で死亡した乗員がそのまま残されており、船体そのものが墓標となっています。

参考図書

「世界の艦船 増刊第22集 近代戦艦史」 (海人社)
「世界の艦船 増刊第83集 近代戦艦史」 (海人社)
「世界の艦船 増刊第28集 アメリカ戦艦史」 (海人社)
「Conway All The World's Fightingships 1906–1921」 (Conway)
「Conway All The World's Fightingships 1922-1946」 (Conway)
「Jane's Fighting Ships Of World War I」 (Jane)

外部リンク

Florida' BB 30 (1909)「フロリダ」の写真とスペックのあるページ（英語）
Utah' BB 31 (1909)「ユタ」の写真とスペックのあるページ（英語）
* US Navy page on the class - ウェイバックマシン

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