ブライアン・ウィルソン (アルバム)

ブライアン・ウィルソン

『ブライアン・ウィルソン』は、ザ・ビーチ・ボーイズの中心人物として知られるアメリカのミュージシャン、ブライアン・ウィルソンが1988年にリリースした、自身初の公式ソロ・スタジオ・アルバムです。

背景

このアルバムの制作には、ウィルソンの長年にわたる精神的な治療の歴史が深く関わっています。彼は1975年から、当時の妻マリリン氏が手配した精神科医ユージン・ランディ氏の治療を受けるようになりました。ランディ氏は1976年に一度ウィルソンの担当を離れますが、1983年には再び彼の治療にあたっています。ランディ氏は、1987年の映画サウンドトラックにウィルソンが提供した楽曲「Let's Go to Heaven in My Car」において、共作者およびエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされるなど、ウィルソンの音楽活動にも影響を及ぼすようになります。

本作の初回盤でも、ランディ氏はエグゼクティブ・プロデューサーを務め、収録曲11曲のうち5曲でウィルソンと共に共作者として名を連ねています。また、一部楽曲の共作者としてクレジットされたアレクサンドラ・モーガン氏は、ランディ氏の妻でした。しかし、ランディ氏の治療手法、特にウィルソンへの過度な介入（俗に言うマインド・コントロール的な側面）は後に問題視されます。その結果、ランディ氏は1992年に裁判所の命令によりウィルソンとの接触を禁じられました。これを受け、2000年にライノ・エンタテインメントから発売された本作の再発盤では、ランディ氏およびモーガン氏の名前が作曲クレジットから削除されています。

アルバム制作の契約面では、アンディ・ペイリー氏の尽力によりサイアー・レコードとの契約を獲得しました。ペイリー氏は本作でも複数の楽曲で共同プロデューサーを務め、音楽面での協力を行っています。

楽曲

収録曲には、ウィルソンの内面や経験が反映されたものが多く見られます。「ラヴ・アンド・マーシー」は、ウィルソンがバート・バカラックの「世界は愛を求めている」をピアノで弾いていた際に着想を得たという、アルバムを代表する名曲です。この曲は、後の1999年のツアーでコンサートの締めくくりに演奏される定番となり、ウィルソンの半生を描いた2014年の伝記映画『ラブ＆マーシー 終わらないメロディー』のエンド・クレジットにも使用されました。

ドリーム・アカデミーのメンバー、ニック・レアード＝クルーズ氏と共作した「ウォーキン・ザ・ライン」について、ウィルソン自身は「いつ落っこちるかわからない薄氷の上を歩いてきた」という自身の人生を象徴した歌詞だと語っています。「ワン・フォー・ザ・ボーイズ」は、ウィルソンが長年活動を共にしたザ・ビーチ・ボーイズに捧げられた楽曲で、制作初期には「There We Were」という仮題が付けられていました。エレクトリック・ライト・オーケストラを率いるジェフ・リン氏と共作した「レット・イット・シャイン」では、リン氏が曲の大部分を完成させた後、ウィルソンが冒頭のコーラス部分を付け加える形で制作されました。

フリートウッド・マックのリンジー・バッキンガム氏との共作「ヒー・クドゥント・ゲット・ヒズ・プア・オールド・ボディ・トゥ・ムーヴ」は、ウィルソンいわく「脳を活性化させるためには、運動が極めて重要だ」というメッセージが込められた楽曲です。この曲は元々シングル「ラヴ・アンド・マーシー」のB面として発表され、アルバム本編には未収録でしたが、2000年のリマスター盤ではボーナス・トラックとして追加収録されました。

特にアルバムのハイライトとして挙げられることが多いのが、8分を超える大作「リオ・グランデ」です。評論家の中には、この曲をウィルソンが『スマイル』期に構想していた組曲にも匹敵する、実験的かつ雄大な試みと評価する声もあります。

反響と評価

本作はリリース後、母国アメリカのビルボード200チャートに13週にわたりランクインし、最高位は54位を記録しました。スウェーデンのアルバム・チャートでは、合計8週にわたりトップ40入りし、最高で23位となりました。

批評家の評価は賛否両論に分かれました。音楽評論家のリッチー・ウンターバーガー氏はオールミュージックのレビューで5点満点中3点を与え、特にプロダクションに対して否定的な見解を示しています。彼は、1980年代後半特有の「無味乾燥でシンセサイザーが多用されたアレンジと、エコー過多なパーカッション」を挙げ、アルバム全体のサウンドを「魅力に欠ける」と評しました。楽曲自体もウィルソンのキャリアの中でも特に優れた部類ではないとしましたが、一方で「リオ・グランデ」は「ウィルソンが『スマイル』期に書いたミニチュアのコンセプト組曲に匹敵する、唯一ある程度の成功を収めた試み」として高く評価しています。

対照的に、クリス・ウィルマン氏は2000年のエンターテインメント・ウィークリー誌のレビューで本作に最高のA評価を与えています。彼は「もしフルバンドを従え、弟カール・ウィルソンのボーカルがあれば、1960年代以来となるビーチ・ボーイズの傑作になっただろう」と述べ、作品の潜在的な可能性を称賛しました。イギリスの音楽誌『NME』が発表した1988年の年間ベスト・アルバムリストでは、本作が32位に選出されるなど、一定の評価も得ています。

収録曲

以下は、2000年にライノ・エンタテインメントから発売されたリマスターCDに準拠したトラックリストです。初回盤では、トラック1, 2, 3, 7, 8にユージン・ランディ、トラック2, 7, 8にアレクサンドラ・モーガンが共作者としてクレジットされていました。

1. ラヴ・アンド・マーシー - "Love and Mercy" (Brian Wilson) - 2:55
2. ウォーキン・ザ・ライン - "Walkin' the Line" (B. Wilson, Nick Laird-Clowes) - 2:40
3. メルト・アウェイ - "Melt Away" (B. Wilson) - 3:01
4. ベイビー・レット・ユア・ヘア・グロウ・ロング - "Baby Let Your Hair Grow Long" (B. Wilson) - 3:17
5. リトル・チルドレン - "Little Children" (B. Wilson) - 1:50
6. ワン・フォー・ザ・ボーイズ - "One for the Boys" (B. Wilson) - 1:50
7. ゼアズ・ソー・メニー - "There's So Many" (B. Wilson) - 2:47
8. ナイト・タイム - "Night Time" (B. Wilson, Andy Paley) - 3:38
9. レット・イット・シャイン - "Let It Shine" (B. Wilson, Jeff Lynne) - 3:58
10. 夢で逢いましょう - "Meet Me in My Dreams Tonight" (B. Wilson, A. Paley, Andy Dean) - 3:06
11. リオ・グランデ - "Rio Grande" (B. Wilson, A. Paley) - 8:15

2000年リマスターCDボーナス・トラック (トラック26は隠しトラック)

12. ブライアン「ラヴ・アンド・マーシー」を語る - "Brian on "Love and Mercy"" - 2:23
13. ヒー・クドゥント・ゲット・ヒズ・プア・オールド・ボディ・トゥ・ムーヴ - "He Couldn't Get His Poor Old Body to Move" (B. Wilson, Lindsey Buckingham) - 2:36
14. ビーイング・ウィズ・ザ・ワン・ユー・ラヴ - "Being With the One You Love" (B. Wilson) - 2:35
15. 僕の車で天国へ - "Let's Go to Heaven in My Car " (B. Wilson, Gary Usher) - 3:40
16. トゥー・マッチ・シュガー - "Too Much Sugar" (B. Wilson) - 2:38
17. ゼアズ・ソー・メニー（デモ） - "There's So Many (Demo)" (B. Wilson) - 1:53
18. ウォーキン・ザ・ライン（デモ） - "Walkin' the Line (Demo)" (B. Wilson, N. Laird-Clowes) - 2:51
19. メルト・アウェイ（アーリー・ラフ・ミックス） - "Melt Away (Early Version - Alternate Vocal)" (B. Wilson) - 2:03
20. ナイト・タイム（トラック・ミックス） - "Night Time (Instrumental)" (B. Wilson, A. Paley) - 4:05
21. リトル・チルドレン（デモ） - "Little Children (Demo)" (B. Wilson) - 2:01
22. ナイト・ブルーミン・ジャスミン（デモ） - "Night Bloomin' Jasmine (Demo)" (B. Wilson) - 2:20
23. リオ・グランデ（コンパイルド・ラフ・ミックス） - "Rio Grande (Early Version - Compiled Rough Mixes)" (B. Wilson, A. Paley) - 6:07
24. ブライアン「リオ・グランデ」を語る - "Brian on "Rio Grande"" - 1:20
25. ブライアン、音楽とレコードについて語る - "Brian on "The Source"" - 1:04
26. "Brian Fan Club X-Mas Message" - 0:54

参加ミュージシャン

ブライアン・ウィルソン - ボーカル、ピアノ、オルガン、キーボード、エミュレータ、ヴィブラフォン、ベル、チャイム、グロッケンシュピール、パーカッション、サウンド・エフェクト、ボーカル・アレンジ
アンディ・ペイリー - エレクトリック・ギター、アコースティック・ギター、ベース、ドラムス、パーカッション、キーボード、ハーモニカ、アディショナル・バックグラウンド・ボーカル
マイケル・バーナード - コンピューター、シンセサイザー・プログラミング、ドラムス、キーボード、パーカッション
テレンス・トレント・ダービー - バックグラウンド・ボーカル(on #2)
ラス・タイトルマン - バックグラウンド・ボーカル(on #2)
クリストファー・クロス - バックグラウンド・ボーカル(on #8)
マイケル・アンドレアス - フルート、サクソフォーン
ザ・ベイサイド・ブルーグラス・バンド - マンドリン、バンジョー、ベース、アコースティック・ギター
スチュアート・ブランバーグ - トランペット
ジェフ・ボヴァ - キーボード、プログラミング
ジミー・ブラロウアー - ドラム・プログラミング、シェイカー
ランス・ブラー - トランペット
ロビー・コンドー - シンセサイザー・プログラミング、キーボード
アンドリュー・ディーン - キーボード、ヴィブラフォン、パーカッション、シンセサイザー・プログラミング、ベル
エリオット・イーストン - ギター
トッド・ヘールマン - フェアライト
トリス・インボーデン - ドラムス、シンバル、ハイハット
ハイメン・カッツ - フルート、ピッコロ
ロビー・キルゴア - キーボード・プログラミング
ハリー・キム - トランペット
ケヴィン・S・レスリー - フットステップ
スティーヴ・リンゼイ - シンセサイザー・プログラミング、キーボード
ジェフ・リン - キーボード、ベース、6弦ベース、ギター
ジェイ・ミグリオリ - バリトン・サクソフォーン
フランク・モロッコ - アコーディオン
ロブ・マウンジー - エミュレータ・ティンパニ、ピアノ、シンセ・ギター、エミュレータ・チェロ
ディーン・パークス - ギター
ボブ・ライリー - ドラムマシン
フィリップ・セス - キーボード、シンセサイザー・プログラミング
トニー・サルヴェイジ - ヴァイオリン、ミュージックソー
キャロル・スティール - パーカッション
ラリー・ウィリアムズ - ホーン、サクソフォーン・ソロ、シンセサイザー・プログラミング、キーボード

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