ブラックヘレン

ブラックヘレン：小さな巨人、そして偉大な血統の祖

ブラックヘレン (Black Helen, 1932年 - 1957年) は、アメリカ競馬史に名を刻んだ伝説的なサラブレッドです。小柄な体格でありながら、類まれな才能と強靭な精神力で、牡馬相手に数々の栄光を掴み取りました。その輝かしい競走成績と、優れた繁殖牝馬としての功績から、1991年にはアメリカ競馬殿堂入りを果たしています。

幾多の困難を乗り越え、才能を開花させた幼少期

ケンタッキー州のアイドルアワーストック牧場で、著名なオーナーブリーダーであるエドワード・ライリー・ブラッドリーによって生産されました。母はラトロワンヌ、全姉には後に活躍するバイムレックがいます。しかし、ブラックヘレンは体が小さく、体重は900ポンド（約408kg）、体高は15ハンド（約152cm）ほどしかありませんでした。その体格から、処分も検討された時期もあったといいます。

しかし、ウィリアム・ハーリー調教師の指導の下、調教が始まると、彼女の潜在能力が花開きます。彼女の小さな体躯からは想像もつかないほどの驚異的なスピードとスタミナ、そして闘争心を秘めていたのです。

2歳時の鮮烈なデビューと連勝街道

2歳となった1934年7月、ブラックヘレンはシカゴ地域の競馬場でデビューしました。最初の注目を集めたのは、ワシントンパーク競馬場で行われたウェストプルマンパース。5ハロン戦で4馬身差の圧勝を収め、レコードタイムに迫る好タイムを記録しました。続くアーリントンパーク競馬場でのレースでは、6馬身差の勝利とトラックレコードを樹立。この活躍から『New York Times』紙は彼女を「今季最高の2歳牝馬」と称賛しました。

その後、喉の病気で一時休養を挟みますが、復帰後はローレルパーク競馬場、ピムリコ競馬場で連勝を重ねます。特にエリコットパースでは、単勝オッズ1.1倍という圧倒的な支持を受け、圧勝。ピムリコ競馬場のパイクスヴィルパースでは、初のマイル戦ながら3馬身差で勝利を収め、7連勝を達成しました。

しかし、その後2戦で敗れシーズンを終えます。それでも、1934年の『ブラッド・ホース』誌の最優秀2歳牝馬部門では、数々のステークス競走を制した強豪ネリーフラッグに次ぐ第2位にランクインするなど、その才能は高く評価されていました。

3歳時の頂点：アメリカンダービー制覇

3歳になった1935年、ブラックヘレンはさらに進化を遂げます。フロリダダービーでは牡馬相手に圧勝し、その実力を改めて証明しました。当初はプリークネスステークスへの出走も検討されましたが、登録は取り消され、代わりにドレクセルパースを制します。

そして迎えたコーチングクラブアメリカンオークス。13頭立ての競争で、同厩舎のブラッドルート・バードフラワーとともに1番人気に支持されました。激しい競り合いを制し、ハナ差で勝利を収めます。

そして、彼女の最大の偉業がアメリカンダービー制覇です。牡牝混合競走でありながら、2歳時に活躍したネリーフラッグや他の有力牡馬を相手に、最初から最後まで先頭を譲ることなく独走。半馬身差で優勝し、史上初の牝馬によるアメリカンダービー制覇という偉業を達成しました。

その後もアーリントンパークでのブラックストーンパースを制するなど活躍を続けましたが、アーリントンクラシックステークスでは三冠馬オマハに敗れ、夏場は結果を残せませんでした。しかし、秋にはローレルパーク競馬場で再び勝利を収め、メリーランドハンデキャップでも優勝を飾りました。

繁殖牝馬として、そしてその血統の未来へ

繁殖牝馬としては、ステークス勝ち馬を輩出することはできませんでしたが、その産駒からは、後にステークス勝ち馬を輩出する繁殖牝馬が誕生しています。ビーライクマム、ブロス、リソースフル、フラフラ、チュージーなど、多くの産駒が活躍し、その血統は現代まで受け継がれています。

1941年には、ブラックヘレンの名を冠した「ブラックヘレンハンデキャップ」がハイアリアパーク競馬場に創設され、2001年の廃止までG2競走として行われていました。

ブラックヘレンの小さな体躯に秘められた、並外れた才能と強靭な闘志。そしてその血統が現代にも受け継がれていることは、彼女が真の「小さな巨人」であったことの証でしょう。彼女の物語は、これからも人々に語り継がれていくことでしょう。

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