ラトロワンヌ

ラトロワンヌ：競走馬から名門牝系の祖へ

ラトロワンヌ (1926-1954) は、フランスで生まれ、アメリカでその名を不朽のものとした競走馬にして繁殖牝馬です。競走成績自体は目覚ましいものではありませんでしたが、アメリカで数々の名馬を生み出し、アメリカ競馬界における名門牝系ラトロワンヌ系の礎を築きました。その生涯と功績は、競馬史に燦然と輝く一頁と言えるでしょう。

輝かぬ競走馬時代

フランスの名オーナーブリーダー、マルセル・ブサックの所有馬として競走生活を送ったラトロワンヌ。全兄がイギリスとフランスで重賞勝ちを収めていたことから、彼女への期待も大きかったようです。しかし、2歳時は全てのレースで着外。3歳になってもその状況は変わらず、フランス1000ギニーにも出走するも結果は着外でした。

期待外れの結果に、ブサックはイギリスへの遠征を決断。ニューマーケット競馬場でのレースでは3着と初めて入着を果たし、続くレースでも2着に入るなど、僅かながら光を見せました。しかし、その後のレースでは再び着外に終わり、競走馬としてのキャリアは幕を閉じました。

繁殖牝馬としての転身と成功

競走馬としては成功を収められなかったラトロワンヌでしたが、彼女の真価は繁殖牝馬として発揮されることになります。ブサックは彼女に繁殖牝馬としての将来性を見出せず、アメリカへと売却。アイドルアワーストックファームに買い取られ、アメリカで繁殖生活を送ることとなりました。

アイドルアワーストックファームの所有者であるエドワード・ライリー・ブラッドリー大佐のもとで、ラトロワンヌは数々の名馬を生み出します。その産駒14頭のうち10頭が勝ち馬となり、5頭がステークス競走を制覇。中でも、1935年アメリカ最優秀3歳牝馬となったブラックヘレンと、1940年のアメリカ二冠馬バイムレックの活躍は目覚ましく、両馬はアメリカ競馬名誉の殿堂博物館に殿堂馬として選定されています。

さらに、競走成績は振るわなかったものの、繁殖牝馬として優れた遺伝子を受け継いだ産駒たちは、次世代へと繋がる名馬の祖となりました。Big Hurry、Baby League、Businesslike、Big Eventなど、その子孫には数多くの活躍馬が名を連ね、現代競馬の血統にも大きな影響を与えています。

困難と回復、そして晩年

1938年、ラトロワンヌは雷雨の日に事故に遭います。稲妻に驚き暴れた彼女は木に激突、右肩を大きく損傷しました。加えて、彼女は既に月盲により右目を失明していたため、障害物に気づくことができませんでした。ブラッドリー大佐はラトロワンヌの負傷の深刻さを認識し、安楽死も検討したものの、その偉大な繁殖能力を惜しみ、懸命の治療を行い、ラトロワンヌは奇跡的に回復。その後も繁殖を続け、名馬を輩出し続けました。

1946年にブラッドリー大佐が亡くなると、アイドルアワーストックファームは解散。ラトロワンヌは新たなオーナーのもとで繁殖生活を続け、1948年に産んだTrojan Warを最後に繁殖を引退。1954年、28歳でその生涯を閉じました。

アメリカ競馬界への貢献とその後

ラトロワンヌはアメリカで競走生活を送ったことはありませんでしたが、その功績はアメリカ競馬界に多大な影響を与えました。アメリカの大手競馬専門誌『ブラッド・ホース』が選出した『Horse Racing's Top 100 Moments』では、「ラトロワンヌの輸入」が20位にランクイン。さらに、チャーチルダウンズ競馬場にはラトロワンヌの名を冠したステークス競走が創設されるなど、その功績は高く評価されています。

現在でも、ラトロワンヌを祖とする牝系はアメリカ競馬界の名門として知られており、その血統は世界中の競馬界に広がりを見せています。競走馬としての輝かしい成績は残せませんでしたが、繁殖牝馬として類まれな才能を発揮したラトロワンヌ。その生涯は、まさに競馬界における奇跡と呼ぶにふさわしいものでしょう。

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