ブルチコ行政区

ブルチコ行政区：多民族共存を目指すボスニア・ヘルツェゴビナの自治行政区

ブルチコ行政区（Brčko Distrikt）は、ボスニア・ヘルツェゴビナの北東部に位置する特別な行政区画です。ボスニア語、クロアチア語、セルビア語でそれぞれ異なる表記を持ちますが、そのいずれもがこの地域の多文化性を示唆しています。この行政区は、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦とスルプスカ共和国という二つの構成体に属するとされていますが、実際には両者から独立した独自の自治権を有しています。

設立の経緯：紛争終結と国際社会の関与

ブルチコ行政区の設立は、1990年代のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争後の和平合意であるデイトン合意に深く関わっています。紛争終結後、地域の帰属を巡る問題が浮上し、最終的にはボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表による仲裁によって設立が決定されました。紛争前はクロアチア人、セルビア人、ボシュニャク人が平和に共存していましたが、紛争によって民族間の分断が深刻化しました。現在もその影響は残っています。

当初、ブルチコ地区はスルプスカ共和国とボスニア・ヘルツェゴビナ連邦に分割され、それぞれが一部を管轄していましたが、2006年には境界線に関する法令が廃止され、行政区としての統一性が強化されました。現在では、ブルチコ行政府が独自の法を制定し、ボスニア・ヘルツェゴビナの法とともに適用されています。

基礎自治体としてのブルチコ行政区

ブルチコ行政区は、それ自体がひとつの基礎自治体としての役割を果たしており、下位の自治体は存在しません。これは、行政区としての統一性と効率性を高めるための措置と考えられます。

人口構成：民族構成の変化と多様性

ブルチコ地区の人口構成は、歴史的な変遷を経て大きく変化してきました。紛争以前の1991年には、ボシュニャク人、クロアチア人、セルビア人がそれぞれ大きな割合を占めていましたが、紛争の影響で人口分布が大きく変動しました。以下に、過去の人口調査の結果を示します。

1971年：ボシュニャク人（40.36%）、クロアチア人（33.33%）、セルビア人（23.68%）
1991年：ボシュニャク人（45%）、クロアチア人（25%）、セルビア人（21%）
1997年：セルビア人（54.11%）、ボシュニャク人（31.43%）、クロアチア人（7.88%）

紛争終結後、民族間の人口移動や帰還が進み、人口構成は再び変化しつつあります。2006年の調査では、ボシュニャク人とセルビア人がそれぞれ約40%以上を占め、クロアチア人が約10%となっています。ブルチコ行政区は、依然として多民族が共存する地域であり、その多様性を尊重する政策が求められています。

政治：多民族共存のための議会構成

ブルチコ行政区の議会は、29議席で構成されており、各民族の代表者が議席を分け合っています。主要な政党としては、セルビア民主党、ボスニア・ヘルツェゴビナ社会民主党、民主行動党、クロアチア民主同盟などがあります。議会では、各民族の利益を代表する議員たちが議論を重ね、行政区の政策を決定しています。また、議会には女性議員も少数ながら存在し、ジェンダーバランスの改善も課題となっています。

ブルチコ出身の著名人

ブルチコ行政区は、様々な分野で活躍する人材を輩出してきました。歌手のレパ・ブレナや、ボスニアのラッパーであるエド・マーイカ、人権擁護者のエドゥヴィン・カンカ・チュディッチなどがその代表例です。

外部リンク

ブルチコ行政区公式サイト
ブルチコ行政府政府
ブルチコ行政府議会
ボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表サイト - ブルチコ地区の歴史と法令
ブルチコ地区の地図

関連項目

回廊地帯
共同主権

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