プブリウス・コルネリウス・レントゥルス・スラ

プブリウス・コルネリウス・レントゥルス・スラ（紀元前63年没）は、共和政ローマの政治家であり、紀元前71年に執政官を務めました。しかし、紀元前63年のカティリーナの陰謀に加担したことで、その名を知られています。陰謀は当時の執政官キケロによって鎮圧され、レントゥルス・スラは処刑されました。

出自

レントゥルスは、エトルリアに起源を持つコルネリウス氏族の出身です。コルネリウス氏族は、ローマで最も有力で、多くの枝族を持つ氏族の一つでした。レントゥルスのコグノーメン（家族名）が最初に確認できるのは、紀元前327年の執政官ルキウス・コルネリウス・レントゥルスです。

レントゥルス・スラは、紀元前162年の補充執政官プブリウス・コルネリウス・レントゥルスの孫にあたると考えられています。歴史学者F. ミュンツァーは、レントゥルス・スラの父は、同盟市戦争中に執政官ルキウス・ユリウス・カエサルのレガトゥス（副司令官）を務めたプブリウス・コルネリウス・レントゥルスであると推定しています。

経歴

レントゥルス・スラは、紀元前81年にクァエストル（財務官）として政界入りしたとされています。当時、スッラが終身ディクタトル（独裁官）として権力を掌握しており、執政官も実質的にスッラが任命していました。レントゥルスが「スラ（Sūra）」というアグノーメン（愛称）を得たのはこの頃です。

プルタルコスによれば、レントゥルスは多額の公金を浪費し、スッラから会計記録の提出を求められました。しかし、レントゥルスはこれを拒否し、子供がボール遊びでミスをしたときのように足を差し出したと言われています。このエピソードから、ラテン語で「ふくらはぎ」を意味する「スラ」が彼の愛称となりました。

レントゥルス・スラは、過去に二度裁判にかけられましたが、いずれも無罪となっています。ある裁判では、陪審員に賄賂を贈っていましたが、わずか2票差で無罪となりました。この時、彼は「1票差でも十分なのに、1人分余計に金を使ってしまった」と語ったと伝えられています。

スッラの時代には、レントゥルス・スラは弁論家として名声を得ていました。紀元前75年または紀元前74年にはプラエトル（法務官）として不法利得返還審問所を担当しました。

紀元前71年、レントゥルス・スラは執政官に就任します。同僚執政官は、プレブス（平民）出身のグナエウス・アウフィディウス・オレステスでした。しかし、紀元前70年には、ケンソル（監察官）グナエウス・コルネリウス・レントゥルス・クロディアヌスとルキウス・ゲッリウス・プブリコラによって、元老院議員の監査が行われ、レントゥルス・スラは不道徳な行為を理由に元老院から除名されました。

元老院への復帰を目指し、紀元前64年末に次期法務官選挙に立候補し当選。紀元前63年に二度目の法務官に就任。その年の秋には、ルキウス・セルギウス・カティリナのクーデター計画に加担しました。サッルスティウスによれば、レントゥルス・スラは、シビュラの書にコルネリウス氏族から3人の権力者が現れるという予言を信じ、自分がその3人目であると主張したとされています。

カティリナ一派は、10月末に反乱を起こす予定でしたが、執政官キケロが計画を察知したため延期されました。11月6日の夜には秘密会合が開かれ、キケロの殺害とローマでの放火、暴動の誘発が計画されましたが、これも阻止されました。11月7日、キケロは元老院でカティリナを公然と非難し、カティリナはローマを離れ、エトルリアへ向かいました。残されたレントゥルス・スラが指導者となりましたが、優柔不断であったため、ガイウス・コルネリウス・ケテグスの方が指導者としてふさわしいと見られていました。

12月初旬、レントゥルス・スラはガリア人のアロブロゲス族を計画に引き込もうとしましたが、これが致命的な失敗となりました。アロブロゲス族からの手紙がキケロの手に渡り、レントゥルス・スラらの有罪を示す決定的な証拠となりました。12月3日、共謀者たちは元老院に召喚され、手紙の印鑑が本物であることが確認されると、逮捕され、家宅捜索を受けました。その結果、隠されていた武器が発見されました。

12月5日、共謀者の処遇を決定する会議が開かれました。カエサルは終身刑を提案しましたが、小カトが死刑を主張し、最終的に死刑が決定されました。レントゥルス・スラらはマメルティヌスの牢獄に連行され、その日のうちに絞首刑に処されました。

家族

レントゥルス・スラは、ルキウス・ユリウス・カエサル（紀元前90年執政官）の娘ユリアと結婚しました。ユリアはマルクス・アントニウス・クレティクスとの間にマルクス・アントニウスを含む3人の息子をもうけましたが、レントゥルス・スラとの間には子供はいませんでした。アントニウスは、養父を死刑にしたキケロを憎んでいたと伝えられています。

評価

サッルスティウスによれば、カティリナは、レントゥルス・スラの不注意と臆病さが、自身と仲間に大惨事をもたらしたと述べています。キケロはレントゥルス・スラの能力と弁舌の才能を認めつつも、その恥知らずさと不誠実さを指摘しています。プルタルコスは、レントゥルス・スラを「生まれつき自暴自棄な」男であり、「カティリナの扇動に煽られた」と評しています。

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