プラムポックスウイルス

プラムポックスウイルス（Plum pox virus、PPV）は、サクラ属の植物に感染する植物ウイルスで、特に果樹に大きな被害を与えることで知られています。別名としてウメ輪紋ウイルスとも呼ばれます。

概要

このウイルスに感染した果樹は、葉、花弁、果皮に特徴的な斑紋が現れるようになります。さらに、早期落果を引き起こし、結果として収穫量が著しく減少します。感染した果実は食用には問題ないものの、商品価値がほぼなくなるため、農家にとっては経済的な大打撃となります。感染が深刻化すると、伐採せざるを得ない状況に追い込まれることもあり、経営を揺るがす大きな脅威となるのです。

プラムポックスウイルスは、1915年にブルガリアで初めて発見されて以来、世界各地で発生が確認されるようになりました。日本においては、2009年に東京都青梅市で初めて感染が確認され、これはウメでの感染が世界で初めての事例となりました。

感染する植物

プラムポックスウイルスは、サクラ属の植物、特にモモ、スモモ、ウメ、ネクタリン、アンズなどに感染します。日本の植物防疫所は、これらの植物を「緊急防除で規制の対象となる植物」として指定しており、防除区域からの持ち出しを規制しています（2017年10月現在）。具体的には、以下の植物が規制対象となっています。

サクラ属植物（ただしサクラ節を除く）：ウメ、モモ（ハナモモも含む）、ネクタリン、スモモ、ユスラウメ、ニワウメ、アメリカスモモ、オウトウ（サクランボ）（セイヨウミザクラ）、アンズ（アプリコット）、セイヨウスモモ（プルーン）、ニワザクラ、アーモンドなど。
（平成25年12月、ヤマザクラやソメイヨシノなど「サクラ節」の植物は規制対象外となりました。）
セイヨウマユミ（ニシキギ科ニシキギ属）
ナガバクコ（ナス科クコ属）
ヨウシュイボタ（モクセイ科イボタノキ属）

感染経路

主な感染経路は、アブラムシによる媒介と、感染した苗木からの伝播です。果実からは感染しないことが確認されています。

被害状況

プラムポックスウイルスによる世界的な被害額は、過去30年間で1兆4000億円を超える甚大なものとなっています。日本では、最初に感染が確認された東京都青梅市周辺で特に被害が大きく、他の地域で確認されたウイルスも、そのRNA配列から青梅市が感染源であると考えられています。東京都のほか、兵庫県、大阪府、愛知県、神奈川県などでも感染が確認されています。

発生国

プラムポックスウイルスは世界各地で発生しており、主な発生国としては以下のものが挙げられます。一部の国では、徹底的な対策により既に根絶を宣言しています。

ヨーロッパ：ブルガリア、オランダ、ベルギー、フランス、イタリア
アジア：中華人民共和国、イラン、インド、トルコ、日本
アフリカ：エジプト
北アメリカ：アメリカ合衆国、カナダ
南アメリカ：アルゼンチン、チリ

対策

2012年3月18日現在、プラムポックスウイルスに対する有効な治療法や予防薬は発見されていません。そのため、現在の対策は感染拡大の防止に重点が置かれています。主な対策としては、アブラムシの駆除、感染樹およびその周辺の樹木の伐採、感染地域からの苗木の移動制限などが挙げられます。伐採後には、潜伏期間を考慮し、一定期間再植樹を行わないことも重要です。徹底した封じ込め策により、既に根絶を宣言した国もあります。

日本政府の対策

日本では、果樹園での感染状況に応じて対策が異なります。感染樹の割合が10%以上の場合には、園内の全ての樹木を伐採しますが、10%未満の場合は、感染樹と隣接する樹木のみを伐採します。一方で、公園や個人の庭木については、観光への影響を考慮し、感染樹のみを伐採する方針がとられています。このようなダブルスタンダードな対応は、海外では見られないものです。2012年3月までに、1万本もの樹木が伐採されました。

その他、感染した植物や感染の恐れのある植物については、抜根し焼却処分を行っています。また、伐採後3年間はウメの植樹を禁止し、防除区域からの規制対象植物（苗木、切り花、切り枝など）の持ち出しを禁止しています（種子及び果実を除く）。

これらの対策を講じても、プラムポックスウイルスの根絶には時間がかかると予想されます。継続的な監視と迅速な対策が、被害を最小限に抑えるために不可欠です。

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