プレギュアース

プレギュアース（Φλεγύας, Phlegyās）は、古代ギリシアの神話に登場する人物で、その名前は長母音を省略して「プレギュアス」とも表記されます。

系譜と出自

彼の出自については複数の伝承が存在します。一般的に有力とされる説では、コリントスの王シーシュポスの子であるハルモスの娘クリューセーと、戦いの神アレースの間に生まれた子とされています。この場合、プレギュアースの娘はコローニスであり、彼女は後に光明神アポローンとの間に、医学の神として崇拝されるアスクレーピオスをもうけることになります。一方、別の伝承では、彼はボイオーティア地方の女性ドーティスとアレースの子とされており、巨人族であるラピテース族の祖と見なされるイクシーオーンやラピテースの父であったとも語られています。

支配と関連地域

プレギュアースが支配した地域や部族についても、伝承によって異なります。彼はテッサリアー地方に住む好戦的なラピテース族の王であったとも言われますが、ボイオーティア地方の都市オルコメノスの王であったとする伝承も見られます。娘コローニスがアポローンの子アスクレーピオスを産んだ場所とされるため、アスクレーピオスの重要な聖域であるエピダウロスとも関連付けられる人物です。

神話に語られる行いと罰

プレギュアースは、その好戦的で暴虐な性格でよく知られています。彼の最も悪名高い行為として挙げられるのは、デルポイにあるアポローンの神聖な聖域を襲撃し、焼き払ったことです。この神々への冒涜的な行為に対する罰として、ローマの有名な詩人ウェルギリウスは、彼の叙事詩『アエネーイス』の中で、プレギュアースが冥府のタルタロスで永遠の罰を受けている様子を描写しています。

ボイオーティア地方の伝承

ボイオーティア地方、特にオルコメノスに関する伝承では、プレギュアースは先代の王エテオクレース（アンドレウスの子）の死後、オルコメノスの王位を継承したと語られています。さらに彼は、自らの名を冠した「プレギュア市」を創建し、ギリシア各地から優れた戦士たちをそこに集めて定住させました。これらの人々は「プレギュアース人（プレギュアイ）」と呼ばれ、ギリシアの中でも特に戦を好む勇猛な部族として知られるようになりました。しかし、彼らは次第に力を背景に傲慢になり、周辺地域で略奪を繰り返した末に、デルポイのアポローン聖域を襲撃するという愚挙に出ます。この戦いにおいて、アルゴスの英雄ピラムモーンが命を落としました。神聖な場所を穢したプレギュアースとその民は、神々の激しい怒りを買い、雷、地震、そして疫病といった災禍に見舞われ、部族として滅亡させられたと伝えられています。この滅亡から逃れることができたのはごくわずかな者だけであり、彼らは隣接するポーキス地方へと逃れたとされます。

コローニスとアスクレーピオスに関する異伝

娘コローニスと孫アスクレーピオスを巡る伝承にも、いくつかの異なる語りがあります。古代の詩人ヘーシオドスによると、プレギュアースは既にアポローンとの間の子アスクレーピオスを身ごもっていた娘コローニスを、人間の男性であるイスキュスと結婚させてしまったとされています。一方、エピダウロスの詩人イシュロスの伝えるところによれば、プレギュアースこそがエピダウロスの最初の王であり、彼はムーサの一人エラトーとマロスの子であるクレオペマーと結婚し、その娘アイグラーがあまりに美しかったため「コローニス」と呼ばれるようになったと述べています。これに対して、旅行家パウサニアスはその著書『ギリシア記』の中で、プレギュアースが視察のためにエピダウロスを訪れた時点では、コローニスは既にアポローンとの子を宿しており、実際にエピダウロスでアスクレーピオスを出産したと記述しています。これらの伝承の多様性は、プレギュアースが関連する地域や物語が多岐にわたり、様々な形で語り継がれてきたことを示しています。

プレギュアースは、娘を通じて医神の祖父となった一方で、神への冒涜により罰を受けたという対照的な側面を持つ、ギリシア神話における重要な人物の一人です。

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