プロメテ - 火の詩

スクリャービン《プロメテ - 火の詩》

アレクサンドル・スクリャービンが1910年に完成させた《プロメテ - 火の詩》（交響曲第5番 作品60）は、彼の最後の交響曲であり、同時に非常にユニークな作品です。フランス語では「Promethée, ou le Poème du Feu」、ラテン語では「Prometheus」とも呼ばれます。この作品は、ハープとオルガンを伴う大編成オーケストラ、ヴォカリーズによる混声合唱、そしてピアノ独奏のために作曲されており、実質的には単一楽章によるピアノ協奏曲と捉えることができます。

作品の概要

《プロメテ - 火の詩》は、ギリシャ神話のプロメテウスを題材にしていますが、神話を具体的に描写するというよりは、人類に天界から火（叡智の象徴）を授けた英雄として、プロメテウスを音楽を通じて崇め奉ることを目的としています。スクリャービン後期の作品に共通する特徴として、無調で非常に不協和な響きを持ち、神秘和音を軸に作曲されています。しかし、終止和音はスクリャービンが好んだ嬰ヘ長調の主和音で締めくくられます。構成は、自由に変形されたソナタ形式に基づいています。

照明演出

この作品の特徴の一つとして、照明演出が挙げられます。初演では、スクリャービンのために開発された色光ピアノが使用される予定でした。この色光ピアノは、鍵盤操作によってさまざまな色彩とその組み合わせを制御できるものでした。しかし、初演時には故障のため使用できず、その後も演奏会で用いられることは稀でした。色光ピアノのパートは楽譜の最上段に五線譜で記載されており、現代ではMIDI電子キーボードと照明装置を組み合わせることで再現が可能です。

スクリャービンは、各音に対して特定の色を対応させていました。例えば、Cは赤、Gはオレンジ、Dは黄、Aは緑、Eは空色、Bは青、F♯は明るい青、C♯は紫、A♭はライラック、E♭はフラッシュ、B♭はローズ、Fは深い赤色と指定されています。

アルゲリッチがアバド指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演した際には、プロジェクターを使って舞台に様々な色光を投影し、独特の雰囲気を作り出しました。また、2006年にはウラディーミル・アシュケナージ指揮NHK交響楽団も同様の演出を行っています。

2000年4月には、『題名のない音楽会』で、羽田健太郎が司会を務めた際に、曲の一部を省略した形で色光ピアノの再現が試みられました。MIDIキーボード処理による照明と連動させた演奏会が放送され、羽田自身がピアノを担当しました。この際には、最後の和音で照明がランダムに高速点滅し、オーケストラの終止と共に全ての照明が真っ白に光るという大掛かりな演出も行われましたが、これはスクリャービンのオリジナルの楽譜には記されていません。

楽器編成

《プロメテ - 火の詩》は、以下の楽器によって編成されています。

ピッコロ 1（フルート持ち替え）
フルート 3
オーボエ 3
イングリッシュホルン 1
クラリネット（B♭管）3
バスクラリネット 1
ファゴット 3
コントラファゴット 1
ホルン 8
トランペット 5
トロンボーン 3
バスチューバ 1
ティンパニ
トライアングル
シンバル
バスドラム
タムタム
鐘
グロッケンシュピール
チェレスタ
ハープ 2
オルガン（またはハーモニウム）
ピアノ
弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）
混声四部合唱
色光ピアノ

スクリャービンの意図

スクリャービン自身は、この曲のリハーサルで「神秘和音中の第11倍音（基音の増4度上）は低めに演奏されるべきだ」と述べています。第11倍音は平均律上の増4度よりも約四分音低く、また、第7倍音も平均律上の短7度より約六分音低いとされています。オーケストラでは、これらの音程を自然倍音上で共鳴するように配慮することで、より良い響きが得られるとされています。

後世への影響

トリスタン・ミュライユは、2006年作曲の管弦楽曲『Terre d'ombre（影の大地）』で、《プロメテウス》の主要和音、出だしのメロディ、ピアノパートの一部などを引用しています。演奏時間は約20分です。

類似作品

形態的に類似する作品として、以下のものが挙げられます。

ブゾーニ：ピアノ協奏曲
ソラブジ：ピアノと大管弦楽、合唱とオルガンのための交響曲第1番（KSS・30）、第2番（KSS・51）

これらの作品も、《プロメテ - 火の詩》と同様に、大規模な編成と高度な音楽的表現を特徴としています。

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