ボジェナ・ニェムツォヴァー

ボジェナ・ニェムツォヴァー：チェコ国民に愛された小説家と社会活動家

ボジェナ・ニェムツォヴァー(1820年2月4日-1862年1月21日)は、オーストリア帝国ウィーン出身のチェコ人小説家です。近代チェコ散文の礎を築いた人物として、現在もなお高い評価を受けており、その功績は500チェコ・コルナ紙幣への肖像採用にも表れています。

ニェムツォヴァーの幼少期は、ラチボジツェで母方の祖母と過ごしました。この祖母との交流が、彼女の人生観や作品世界に大きな影響を与えたことは間違いありません。特に、代表作である『おばあさん』(1855年)は、この祖母をモデルに、平凡ながらも力強く生きる女性の生涯を描いた作品です。温かさとユーモアに満ちたこの物語は、チェコ国民の心に深く刻まれ、国民文学の最高峰として広く愛されています。日本では1971年に栗栖継氏による翻訳が岩波文庫から刊行され、日本でもその名を知られるようになりました。チェコ文学者の栗栖継氏は、『おばあさん』をチェコ最大の国民文学と評しています。

作家としての活動と並行して、ニェムツォヴァーは婦人解放運動の先駆者としても活躍しました。しかし、彼女の活動は、常に困難に満ちていました。夫である税関吏ヨセフ・ニェミツは反オーストリア的な思想を持っており、そのため転勤を繰り返し、一家は常に経済的な困窮に苦しみました。ニェムツォヴァー自身も、社会からの圧力や偏見に直面しながら、創作活動や社会活動に邁進しました。夫の反オーストリア的思想は、家族を迫害へと突き進む要因となり、ニェムツォヴァーの生涯は貧困の中で過ごされました。

ニェムツォヴァーの文学的才能は多岐に渡り、民話への深い関心から『民話集』を著すなど、チェコ文化の保存と発展にも貢献しました。彼女は、1837年に15歳年上の税関吏であるヨセフと結婚。夫の転勤に伴い各地を転々とした生活の中で、チェコの文壇と深く関わっていくことになります。この経験が、彼女独自の視点と表現力を養い、数々の傑作を生み出す原動力となりました。

41歳という若さでこの世を去ったニェムツォヴァーですが、その短い生涯において、彼女はチェコ文学に不滅の足跡を残しました。彼女の作品は、世代を超えて読み継がれ、チェコ国民のアイデンティティと文化を形成する上で重要な役割を果たし続けています。『おばあさん』を始めとする彼女の作品群は、今日でも世界中で翻訳され、多くの人々に感動を与え続けています。彼女の生涯と作品は、困難に屈せず、自らの信念を貫き通した女性の生き様を後世に伝える、貴重な文学遺産と言えるでしょう。

参考文献

飯島周著、高津春繁、手塚富雄、西脇順三郎、久松潜一監修 著、相賀徹夫編 編『万有百科大事典 1 文学』（初版）小学館〈日本大百科全書〉（原著1973-8-10）
吉上昭三著 著、澤田嘉一編 編『大日本百科事典 13 てんはーにち』小学館〈日本大百科全書〉（原著1967年11月20日）
千葉栄一著 著、鈴木泰二編 編『グランド現代百科事典 22 トモーニヨウセ』学習研究社（原著1983-6-1）
鈴木勤編 編『世界文化大百科事典 8 テヒーハツキ』世界文化社（原著1971年）
栗栖継著、伊藤整、河盛好蔵、高津春繁、佐藤朔、高橋義孝、手塚富雄、中野好夫、中村光夫、西川正身、吉川幸次郎編集 著、佐藤亮一発行 編『新潮 世界文学小辞典』（初版2刷）新潮社（原著1971-3-10）

関連項目

ボジュ・ニェムツォヴァー (小惑星) - ニェムツォヴァーにちなんだ小惑星。
* カレル・ニェミツ - ニェムツォヴァーの子で、教師と園芸家として活躍した人物。

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