クリュメノス

ギリシア神話において、クリュメノス（古希: Κλύμενος, Klymenos）という名前は、「名高き者」を意味し、同名の複数の神または人物を指します。

冥府神ハーデースの異名として

クリュメノスは、冥府を司る神ハーデースの異名として知られています。特にアルゴリス地方のヘルミオネー市では、この名でハーデースが崇拝されました。ヘルミオネー市内のプローン山頂には、農耕と冥界に関わる女神デーメーテール・クトニアーの神域があり、そこにはデーメーテール神殿と向き合う形でクリュメノス神殿が建立されていました。

太陽神ヘーリオスの子

別のクリュメノスは、太陽神ヘーリオスと、オーケアノスの娘の一人であるメロペーとの間に生まれた息子とされます。彼は有名なパエトーンの父として言及されることがありますが、パエトーンの父は通常、ヘーリオス自身、あるいは光の神アポローンであると伝えられています。

アルゴスの王ポローネウスの子

アルゴスの神話的な王ポローネウスにも、クリュメノスという息子がいました。彼はクトニアーという妹（または姉妹）とともに、アルゴリス地方のヘルミオネー市に伝わる神域の創建者とされています。この伝承によれば、プローン山のデーメーテール・クトニアー神域は、クリュメノスと妹クトニアーによって設けられたとされます。ただし、アルゴスの別の伝承では、その創建者はコロンタースの娘クトニアーであるとも語られています。

エーリス地方の王カルデュスの子

エーリス地方の都市オリュムピアーには、クレーテー島のイーダー山に由来するヘーラクレース（ゼウスの子とは異なる）の子孫にあたるカルデュスを父とするクリュメノスという神話的な王がいました。彼は元来クレーテー島のキュドーニアーに住んでいましたが、デウカリオーンの大洪水から50年後にオリュムピアーに移住しました。

オリュムピアーの王となったクリュメノスは、史上最初の古代オリンピックを主宰したと伝えられています。また、彼は先祖であるヘーラクレースや他のクーレースたちの祭壇を築き、「手助けするヘーラクレース」を意味するヘーラクレース・パラスタテースという異名を定めました。さらに、犠牲獣の灰を用いてヘーラー・オリュムピアー（オリュムピアーに坐すヘーラー）の祭壇を奉納しています。プリクサの地には、アテーナー・キュドーニアー（キュドーニアーに坐すアテーナー）の神域を造営しました。

彼の治世はエンデュミオーンによって奪われたとされています。

カリュドーン王オイネウスの子

アイトーリア地方の都市カリュドーンの王オイネウスとアルタイアーの間にも、クリュメノスという息子がいました。彼はトクセウス、テュレウス、ゴルゲーの兄弟にあたります。異父兄弟としては、英雄メレアグロスやデーイアネイラなどが知られています。

カリュドーンの猪狩りの後、メレアグロスが討ち取った猪の皮を巡って母方の叔父たちと争いになり、彼らを殺害した出来事が発端となり、隣接するプレウローンのクレーテース人との間で戦争が起こりました。この戦いはメレアグロスの活躍によりカリュドーンの勝利に終わりましたが、この戦いでクリュメノスを含むオイネウスの息子たちの多くが命を落としました。そして、メレアグロス自身も、母アルタイアーによって運命を司る燃え木を焼かれたために死に至りました。

オルコメノスの王プレスボーンの子

ボイオーティア地方の都市オルコメノスには、プリクソスの息子プレスボーンを父とするクリュメノスという王がいました。彼の息子にはエルギーノス、ストラティオス、アローンなどがおり、またネストールの妻となったエウリュディケーやアクシアの父でもあります。

パウサニアースの記述によれば、先代のミニュアース王に後継者がいなかったため、クリュメノスがオルコメノスの王位を継ぎましたが、些細なことが原因でテーバイ人の怒りを買い、殺害されました。

一方、アポロドーロスの伝えるところでは、クリュメノスはオンケーストスのポセイドーン神域で、テーバイのメノイケウスに仕える御者ペリエーレースに石を投げつけられて負傷し、その傷がもとで命を落としたとされます。オルコメノスへ運び戻された王は、死の床で息子のエルギーノスに王位を譲るとともに、テーバイへの復讐を託しました。エルギーノスはこの遺言に従いテーバイと戦って勝利し、戦勝の賠償として、テーバイに20年間毎年100頭の牝牛をオルコメノスに納めることを義務付けました。

アルカディアまたはアルゴスの王スコイネウスの子

ヒュギーヌスの伝えるところでは、アルカディア地方の王スコイネウスの子にクリュメノスがおり、娘にハルパリュケーがいました。クリュメノスは父の後を継いで王となりましたが、自らの娘ハルパリュケーと禁断の関係を持ちました。ハルパリュケーは父の子を産みましたが、宴の席でこの赤子を殺害し、その肉を父の食事に混ぜて与えました。クリュメノスはこの事実を知ると、ハルパリュケーを殺したとされます。その後、娘との関係を悔いたクリュメノスは自殺したといいます。

ニカイアのパルテニオスによる記述では、このクリュメノスはアルゴス王テーレウスの子で、エピカステーとの間にイーダース、テラゲール、そしてハルパリュケーをもうけたとされます。物語の骨子はヒュギーヌスのものと類似していますが、パルテニオス版はより詳細であり、いくつかの相違点が見られます。クリュメノスは一度娘ハルパリュケーをネーレウスの子アラストールと結婚させますが、後を追ってハルパリュケーを奪い返し、公然と自らの妻としました。これに対し、ハルパリュケーは宴の席で自身の弟たち（クリュメノスの息子たち）を殺害し、その肉を父の食卓に供しました。この復讐を果たした後、彼女は神々に助けを求め、鳥へと姿を変えられたとされます。クリュメノスはその後、自らの行いを恥じて自殺したと語られています。詩人ノンノスも、ハルパリュケーが父に復讐した後に鳥になったことに言及しています。

その他のクリュメノス

上記の人物以外にも、ギリシア神話にはクリュメノスという名を持つ者が複数登場します。例えば、ペルセウスとピーネウスの戦いでホディテースを討った者や、アルゴナウタイの一員（イーピクロスの兄弟とされる）、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場するペーネロペーの求婚者の一人（ドゥーリキオン出身）などが知られています。

これらの伝承に見られるように、クリュメノスという名前は様々な系譜や物語の中で用いられており、その多くが何らかの形で名声や悲劇的な運命に関わる人物として描かれています。

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