ポルシェ・901

ポルシェ901（911）初代モデル：ナローボディの伝説

1963年、フランクフルトモーターショーで発表されたポルシェ901は、356の後継として開発されたスポーツカーです。後にプジョーの商標登録の問題から「911」に改名され、1964年から生産が開始されました。特徴的なのは、後のモデルと比べて全幅が狭いことから「ナロー」の愛称で親しまれている点です。

開発陣と技術

911の開発には、数々の名だたるエンジニアが関わっていました。技術担当重役はF・トマラ、エンジン開発主任は後のフォルクスワーゲンCEOとなるフェルディナント・ピエヒ、そして車体デザインはフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェが担当しました。

画期的な空冷水平対向6気筒エンジン

911に搭載されたのは、新開発の空冷水平対向6気筒エンジンです。内径80mm×行程66mm、排気量1,991ccのこのエンジンは、低騒音と高出力を両立しており、将来的な排気量拡大（2.7Lまで）を見据えた設計となっていました。

注目すべき点は、OHV形式からSOHC形式への変更です。高性能と静粛性の両立を目指したこの選択は、911の成功に大きく貢献しました。さらに、総アルミニウム合金製のクランクケース、チェーン駆動カムシャフト、ドライサンプ、そして鉄製シリンダーライナーをアルミフィンで包んだバイラル構造シリンダーなど、革新的な技術が数多く採用されています。冷却には軸流式冷却ファンが使用されました。キャブレターはソレックス製トリプルチョーク40PIオーバーフロー型を2基搭載しました。クラッチは、フィヒテル&ザックス（現ZF）製砂型アルミニウム鋳物製、φ215mm単板ダイアフラム式です。

暖房システムも特徴的です。ヒートエクスチェンジャーに加え、エバスペッヒャー製の燃焼式ヒーターが標準装備されました。これは、メインタンクのガソリンを燃料として電気的に点火するシステムです。

バリエーションモデルの展開

911は、その歴史の中で数多くのバリエーションモデルを生み出しました。主なモデルと特徴を以下に示します。

Oシリーズ (1964年-1968年7月)

911: ベースモデル。初期のハンドリングに課題があり、鋳鉄製の錘をフロントバンパーに装着することで改善が図られました。キャブレターもソレックス製からウェーバー製に変更されました。
911S: スポーツモデル。軽合金鍛造ピストン、大径バルブ、高圧縮比など、より高性能なエンジンを搭載。リアトレッドの拡大、通風式ブレーキなども採用されました。

Aシリーズ (1968年8月-1969年7月)

ホイール変更、スポルトマチック（セミオートマチックトランスミッション）のオプション設定など。

911L/911T (1968年)

911L: 911の名称変更。ブレーキ通風式化。
911T: 廉価版モデルとして登場。カムシャフトや圧縮比の変更により、出力を抑えコストを抑えました。しかし、レースへの改造を考慮した設計であり、プライベーターにとって扱いやすいモデルでした。
911S: エンジンはOシリーズと同一。スポルトマチック設定あり。
911R (1967年限定): レース、ラリー用モデル。高性能エンジン、軽量化されたボディを備え、数々のレースで活躍しました。

Bシリーズ (1969年8月-1970年7月)

ホイールベース延長による操縦性向上、燃料供給システムの変更など。
911T/E/S: 各モデルで改良が加えられています。

Cシリーズ (1970年8月-1971年7月)

排気量を2,195ccに拡大。
911T/E/S/2.2: エンジン、トランスミッション、ブレーキなどが改良されました。

D, E, Fシリーズ (1971年-1973年)

排気量の拡大、トランスミッションの変更、排ガス規制対応などが行われました。
911カレラRS 2.7 (1973年限定): ホモロゲーション取得のための限定モデル。軽量化されたボディと高性能エンジンを搭載し、伝説的なモデルとなりました。

Gシリーズ (1973年8月-1974年7月)

米国の安全基準に対応した「ビッグバンパー」の装着。

H, I, K, Lシリーズ (1974年-1977年)

排ガス規制対応、エンジン改良、ボディ強化などが継続的に行われました。
911カレラRS 3.0 (1975年限定): レース向けモデル。
* 911リミテッド (1976年限定): フェルディナント・ポルシェ生誕100周年記念モデル。

日本への輸入

日本には1965年からミツワ自動車によって輸入が開始されました。その後、様々なモデルが日本市場に導入され、多くのファンを獲得しました。

まとめ

ポルシェ911(901)は、その誕生から進化を続ける中で、数々の革新的な技術と魅力的なモデルを生み出しました。この初代モデル「ナロー」は、911の歴史において非常に重要な存在であり、今もなお多くのファンを魅了し続けています。その卓越した技術、そして美しいデザインは、現代のスポーツカーにも受け継がれています。

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