ポルトガルの奴隷貿易

ポルトガルによるアジア人奴隷 貿易

ポルトガルの奴隷貿易は、大[[航海時代]]におけるポルトガル人の活動の一環として、アジアにおいても展開されました。本稿では、その実態を多角的に考察します。

概要

ポルトガルにおける奴隷の概念は、単なる労働力としてだけでなく、社会的な従属関係を含むものでした。特に、戦国時代の日本に到来したポルトガル商人は、日本の労働形態を奴隷と捉え、その概念には多様な解釈が存在しました。この用語の曖昧さが、ポルトガル人が理解していた奴隷の概念を把握する上で課題となっていました。

奴隷の定義

ポルトガル人は、年季奉公人や使用人、農民など、様々な人々を奴隷とみなしていました。ガスパル・ヴィレラは、日本の農民が貴族や僧侶のために働く状態を奴隷と捉え、コスメ・デ・トーレスは、地主が使用人に対して生殺与奪の権力を持つ点をローマ法の奴隷制度に例えました。中世日本では、納税のために自分や他人を保証人として差し出すことがあり、これが奴隷との区別をさらに曖昧にしました。

奴隷の購入

ポルトガルでは、奴隷の購入には正当な事由が必要とされました。具体的には、犯罪の刑罰、正戦による虜囚、志願奴隷、極端な貧困による売買、そして奴隷の相続が挙げられます。志願奴隷、特に日本人の年季奉公は、数年で契約期間が終了する労働形態であり、マカオへの渡航やポルトガル人に雇われることを希望する者がいました。しかし、契約を破棄する事例も多く、ポルトガル人の奴隷購入意欲を減退させました。

1520年、「インド法」では奴隷の乗船が制限されました。また、1537年の教皇パウルス3世による勅令「スブリミス・デウス」は、アメリカ大陸の先住民を奴隷にすることを禁じ、1542年のインディアス新法では先住民の奴隷化が全面的に禁止されました。日本人を含む東洋人は法的にインディオ（先住民）と見なされました。1571年には、セバスティアン1世が日本人の人身売買を禁止する勅許を発布しましたが、実際には何度も禁止令が出されました。1595年には、ポルトガルで中国人と日本人の奴隷売買を禁止する法律が可決され、1605年にはゴアとコチンに住む日本人奴隷が裁判所に解放を求めることが可能になりました。

奴隷の需要と供給

16世紀初頭には、アフリカからの奴隷貿易が確立されていました。アジアでの奴隷の需要は、主に家内労働に限られており、大量のプランテーション労働力は必要とされませんでした。アフリカからの奴隷供給はコストが低く、短期間で実現可能であったため、アジアでの奴隷貿易は限定的でした。アジア人奴隷は、家事使用人や専門職人など、付加価値の高い職種に限定されました。

奴隷の出身地

16世紀のポルトガルでは、中国人奴隷の数は少なく、東インド人、イスラム教徒、アフリカ人奴隷が圧倒的に多かったとされています。メキシコに送られたアジア人奴隷の出身地は、インドやベンガルなどポルトガルが進出していた地域が中心で、日本やブルネイ、ジャワ島からの流入はごく少数でした。

奴隷 貿易に使用されたナウ船

17世紀以降、奴隷船は複層構造になり、より多くの奴隷を輸送できるようになりました。16世紀から17世紀のポルトガル-インド間のナウ船は、600トンから900トンの積載量があり、多くの乗組員、乗客、奴隷、兵士を乗せることができました。日明間の航路では、貿易風の関係から1年周期での運航に限定され、1隻の船で利益を最大化しました。

アフリカでの奴隷 貿易

起源

イベリア半島でのムーア人とキリスト教徒の戦争が奴隷制形成に影響を与えました。ポルトガルは経済的、軍事的な必要性から奴隷貿易を始め、サトウキビ畑の労働力不足を補うためにムーア人奴隷を導入しました。

イスラム世界との戦争

当初、奴隷購入はイスラム教徒に捕らえられたキリスト教徒の救出を意味していましたが、ポルトガルはムーア人による奴隷貿易の独占を崩すために、非キリスト教徒の奴隷取引を奨励しました。1452年、教皇ニコラウス5世は、西アフリカにおけるムーア人征服の権利と非ムスリム奴隷貿易をポルトガルに認めました。この奴隷貿易は、ポルトガルがムーア人に対して軍事的な優位性を確立する上で重要な役割を果たしました。

奴隷制批判の時代

16世紀半ば、スペインでは奴隷制の見直しが行われましたが、ポルトガルは黒人奴隷に依存していたため、制度全体の見直しではなく、特定の民族の奴隷化を正当化する議論を行いました。正戦の概念も用いられ、過去にキリスト教徒に被害を与えたムーア人への報復戦争は正当化されました。しかし、日本人や中国人の奴隷は正戦の虜囚には該当しないとされ、期限付きの隷属のみが認められました。

統計データ

大西洋奴隷貿易データベースは、信頼性の高いデータとして知られており、多くの奴隷貿易航海の記録が含まれています。

アジアでの奴隷 貿易

研究史

近年、メキシコやアメリカの歴史家の間でアジア人奴隷への関心が高まっています。デボラ・オロペザ・ケレシーやタチアナ・セイジャスらの研究が、アジア人奴隷の実態を明らかにしてきました。日本人の奴隷については、岡本良知やC・R・ボクサーらの研究があり、近年の研究ではルシオ・デ・ソウザの著作が注目されていますが、一部の歴史家からは批判も出ています。

背景

ポルトガルは1514年に中国との貿易を開始し、1543年に日本との接触を始めました。中国は倭寇の襲撃を理由に日本に対して禁輸措置を取っていたため、日本は中国製品を求めていました。ポルトガルは日本との貿易権を独占し、中国の絹と日本の銀を交換して利益を得ていました。また、ポルトガル人、アジア人、アフリカ人の船員は、日本人奴隷を買うことがあり、時には奴隷が奴隷を買うこともありました。

ポルトガル人来航以前の奴隷 貿易

アジアでの奴隷貿易は倭寇の活動に遡り、ポルトガル商人は後発でした。倭寇は朝鮮半島や中国沿岸部で人々を拉致し、奴隷として売買しました。日本でも戦場での「人取り」や文禄・慶長の役を通じて奴隷貿易が拡大し、ポルトガル商人によってアジア各地で奴隷が転売されました。

日本

1541年以降、ポルトガル船来航後も奴隷貿易が行われ、日本人奴隷は海外に売られました。記録に残る日本人奴隷の数は少ないものの、ポルトガル船の積載量や輸送上の問題から、数百人以上の日本人が奴隷として売られたと考えられています。1555年には、ポルトガル商人が日本人の少女を奴隷としてポルトガルに連れ帰ったという記録があり、イエズス会による抗議が始まりました。1571年にはセバスティアン1世が奴隷貿易を禁止しましたが、効果は限定的でした。奴隷として売られた日本人の多くは女性で、海外で働く水夫などの性的需要を満たすために購入されたようです。豊臣秀吉も人身売買の無効を宣言しましたが、遊郭の開設など、人身売買の温床となるような政策も行いました。

朝鮮

文禄・慶長の役では、乱妨取りで拉致された朝鮮人が奴隷として売買され、一部はポルトガル商人に転売されました。

中国

スペインに連れてこられた中国人奴隷の中には、ポルトガルのリスボンで売られた後、スペインに渡った者もいました。ポルトガルでは1540年代には中国人奴隷の存在が確認されており、彼らは言語の翻訳などにも従事していました。1595年にポルトガルで中国人奴隷の売買が禁止されました。

マカオおよび中国沿岸部

ポルトガルは中国沿岸部に拠点を築こうとしましたが、中国人との間で衝突が起きました。マカオでは、17世紀中葉までに数千人の奴隷が居住しており、そのほとんどがアフリカ出身でしたが、アジア各地からの奴隷もいました。1622年のマカオの戦いでは、ポルトガル側はアフリカ人奴隷の力でオランダ軍を撃退しましたが、この戦いの犠牲者の大多数はアフリカ人奴隷でした。19世紀には、ポルトガル人が子供を人身売買しているという記録もあります。

各国奴隷の評価

ポルトガル人は、中国人や日本人などのアジア人奴隷を、アフリカ出身の奴隷よりも高く評価していました。彼らは知性や勤勉さを評価し、高価で取引されていました。

奴隷の取扱い

アフリカ

黒人奴隷の生活は、白人の下層階級の生活と似ており、同じような服装や食事、仕事をさせられました。奴隷は洗礼を受けて社会に包摂されることが期待されていましたが、10歳以上の奴隷は洗礼を拒否することができました。ポルトガルでは、奴隷への虐待は稀であり、多くは公平に扱われていました。奴隷は自由を購入したり、主人が結婚することで自由を得ることができました。

アジア

アジアでの奴隷は一時的な身分として理解され、奴隷にされた個人の利益も考慮されていました。奴隷は日曜日や聖日に休息を与えられ、奴隷への虐待は非難されました。1599年のガスパール・フェルナンデスや1661年のペドロ・デ・ラ・クルスの訴訟に見られるように、奴隷は自由を求めて裁判を起こすことができました。インディオス・チーノスであるフィリピン人、日本人、中国人、朝鮮人は、東洋における先住民であることを根拠に自由を主張できました。

奴隷制の禁止

奴隷貿易を非難する声は早くからあり、16世紀のドミニコ会士ガスパル・ダ・クルスは奴隷交易業者を批判しました。ポルトガルでは、1595年に中国人奴隷の売買を禁止する法律が制定されましたが、完全に奴隷貿易を止めることはできませんでした。1761年には、ポルトガル本土とインドで奴隷制が廃止され、大西洋奴隷貿易も1836年に違法となりましたが、ポルトガル植民地での奴隷制廃止は1869年までかかりました。

注釈

省略

出典

省略

参考文献

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