マスキンの戦い

マスキンの戦い：イスラーム内乱の終焉を導いた戦い

マスキンの戦い（またはダイル・アル＝ジャーサリークの戦い）は、691年10月中旬に現在のバグダード近郊、ティグリス川西方のマスキン近郊で発生しました。この戦いは、ウマイヤ朝のカリフ、アブドゥルマリクの軍と、メッカを拠点とする対立カリフ、アブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルの弟でイラク総督のムスアブ・ブン・アッ＝ズバイルの軍との間で行われ、イスラーム世界の第二次内乱の帰趨を決定づけました。

戦いの背景

683年、ウマイヤ朝のカリフ、ヤズィード1世の死後、後継者争いからウマイヤ朝の権威は失墜。メッカではイブン・アッ＝ズバイルがカリフとして認められ、その支配はイスラーム国家の大部分に広がりました。イブン・アッ＝ズバイルは弟のムスアブをイラク総督に任命し、一方、ウマイヤ朝はマルワーン1世をカリフに擁立し、勢力を回復。686年にはウマイヤ朝軍がハーズィルの戦いで敗北し、イラク再征服は遅れましたが、アブドゥルマリクは着実にシリアとジャズィーラの支配を固め、イラクのアラブ部族の取り込みを図りました。

687年、ムフタールがムスアブに敗れて殺害されると、ウマイヤ朝とズバイル家がイスラーム世界の支配権を争う主要な勢力として残りました。ムスアブはムハッラブ・ブン・アビー・スフラをモースル、ジャズィーラなどの総督に任命し、ウマイヤ朝の侵攻に備えさせました。

戦いの経緯

689年、アブドゥルマリクはイラクに向けて進軍し、ムスアブもバージュマイラに部隊を動員して対抗。膠着状態が続く中、アブドゥルマリクはバスラのウマイヤ朝支持派に接触し、ズバイル家への協力を約束。アル＝ジュフラでの衝突が発生しましたが、決定的な勝利には至りませんでした。

690年、再び両軍は対峙しましたが、決定的な戦闘は起こらず。しかし、691年、アブドゥルマリクは再びイラクに進軍し、カルキースィヤーの要塞を包囲。交渉の末、ズファルとその息子フザイルがウマイヤ朝に合流し、アブドゥルマリク軍はニシビスを制圧、ハラフィーヤも降伏させました。

691年9月または10月、アブドゥルマリクはマスキンに野営地を築き、ムスアブもバージュマイラに陣を構え、マスキン近郊に塹壕を築いて防御を固めました。アブドゥルマリクはムスアブ軍の内部に働きかけ、部族指導者を買収しようと試みました。ムスアブに忠実なイブン・アル＝アシュタルは、将軍たちの裏切りを警告しましたが、ムスアブは処刑を拒否しました。

10月中旬、ダイル・アル＝ジャーサリークで両軍は激突。イブン・アル＝アシュタルの奮戦によりウマイヤ朝軍は一時後退しましたが、ムスアブ軍の右翼指揮官が戦死、イブン・アル＝アシュタルも討たれました。騎兵隊長アッターブ・ブン・ワルカーが戦闘を放棄し、他の指揮官も交戦を拒否。ムスアブは孤立した状態で戦場に取り残され、アブドゥルマリクは降伏を呼びかけましたが、ムスアブは拒否。息子のイーサーも戦死し、ムスアブ自身も討ち取られました。

戦いの影響

マスキンの戦いの後、アブドゥルマリクはクーファに入り、イラクとその属領の総督を任命。アル＝ハッジャージュ・ブン・ユースフをヒジャーズに派遣し、692年10月または11月にはイブン・アッ＝ズバイルを殺害してメッカを占領。これにより、第二次内乱は終結し、ウマイヤ朝の支配が確立されました。

マスキンの戦いは、その後のイスラーム世界の歴史に大きな影響を与えた転換点であり、権力闘争、部族間の対立、そして政治的な策略が複雑に絡み合った、歴史的な出来事として記憶されています。

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