マツダ・ライトバス

マツダ・ライトバスは、かつて東洋工業（現在のマツダ株式会社）が製造・販売していたマイクロバスです。高度経済成長期、日本のモータリゼーションが急速に進展する中で登場し、その先進的なデザインや実用性によって注目を集めました。

誕生と初期モデル (Aタイプ)

ライトバスの物語は、1964年（昭和39年）に開催された東京モーターショーで、そのコンセプトモデルがお披露目されたことに始まります。そして、その翌年にあたる1965年（昭和40年）5月、最初の市販バージョンであるAタイプが、いよいよ市場に投入されました。

このライトバスは、東洋工業が同年1月に既に発売していた2トン積トラック、E2000と主要なメカニズムを共有していました。強固なラダーフレーム構造を持つシャシに、前後輪ともに板バネ式のリーフリジッドサスペンションが採用されており、これにより耐久性や積載性、そして当時の舗装状況では重要だった悪路への対応力を確保していました。動力源としては、水冷式の直列4気筒 OHV ガソリンエンジンが搭載され、2,000 ccの排気量から81馬力の最高出力を発揮しました。

Aタイプのボディは、当時航空機分野で名を馳せていた川崎航空機工業（現在の川崎重工業）が製造を手がけました。アルミ材と鋼板を効果的に組み合わせることで、軽量でありながら十分な強度を実現していました。特に、前後が丸みを帯びた滑らかな曲面で構成されたエクステリアデザインは、当時のマイクロバスとしては極めて斬新でスタイリッシュな印象を与え、道行く人々の目を惹きつける存在でした。

モデルの展開と進化 (Cタイプ、ディーゼル車)

1966年（昭和41年）には、デザインの異なるCタイプがラインアップに追加されました。こちらのボディは、バスボディメーカーとして実績豊富だった西日本車体工業が製造を担当しました。Aタイプが複合素材であったのに対し、Cタイプは一般的な全鋼製ボディとなりました。外観デザインもAタイプの先鋭的な雰囲気とは異なり、より穏やかで親しみやすい、全体的に丸みを帯びたスタイルとなりました。しかし、大型のフロントウインドシールドを採用するなど、良好な視界を確保しつつ、これもまた個性的な表情を持っていました。

性能面では、1967年（昭和42年）9月に大きな進展がありました。英国の有名なエンジンメーカー、パーキンス社との技術提携のもと開発された、水冷直列4気筒 OHVのXA型ディーゼルエンジン搭載車が加わったのです。このディーゼルエンジンは排気量2,522 cc、最高出力は77馬力でした。燃費性能に優れるディーゼル車の登場は、特に長距離移動や業務用としてライトバスを使用するユーザーにとって、大きなメリットとなり、活躍の場を広げました。ディーゼルエンジン搭載車は、Aタイプ、Cタイプのどちらのボディでも選択が可能でした。

生産終了と後継モデル

マツダ・ライトバスは、おおよそ7年間にわたって日本の各地で活躍しましたが、1972年（昭和47年）にその生産・販売を終えました。後継モデルとしては、当時としては珍しいロータリーエンジン搭載仕様も設定されたことなどで知られるマイクロバス、マツダ・パークウェイが登場し、ライトバスが担ってきた役割を引き継ぐことになりました。

その後のライトバス

生産終了から時を経た後も、マツダ・ライトバスはメディアなどで再び取り上げられる機会があります。例えば、NHKで放送された、惜しまれつつも生産を終えた名車たちに光を当てるテレビ番組「さがせ!幻の絶版車」では、2021年に本車種がフィーチャーされ、その希少な現存車両の姿が紹介されました。

また、テレビドラマの劇用車としてもその姿を残しています。1969年から放映された「青空にとび出せ!」では、マツダ・ライトバスをベースに、当時のテレビドラマとしては非常に大胆な改造が施された「ピンキングカー」というユニークな車両が登場し、番組のマスコット的な存在となりました。さらにこのピンキングカーは、別の刑事ドラマ「東京バイパス指令」の第58話「贋札稼業」においても、再度改造を加えられた移動診療車としてゲスト出演を果たしています。

マツダ・ライトバスは、1960年代から70年代初頭にかけて、日本の人々の移動や社会活動を支えたマイクロバスであり、その個性的なデザインと確かなメカニズムは、今なお多くの人々の記憶に留まる存在と言えるでしょう。

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